2016年11月19日
錦秋文楽公演 第2部
この秋の文楽公演「勧進帳」では珍しく花道ができて、玉男さんの遣う弁慶が飛び六方で引っ込む、という情報が事前に伝わっていて、文楽を観る時はいつも「かぶりつきの真ん中」派の私も、今回ばかりは花道七三寄りの席で。
平成28年度(第71回)文化庁芸術祭主催
国立劇場開場50周年記念
錦秋文楽公演 第2部
2016年11月6日(日) 4:00pm 国立文楽劇場 3列下手
「増補忠臣蔵」
本蔵下屋敷の段
太夫: 豊竹睦太夫 豊竹咲太夫
三味線: 鶴澤清友 鶴澤燕三
人形: 吉田玉佳 吉田玉也 吉田一輔 吉田玉志 ほか
「仮名手本忠臣蔵」のスピンオフ的な物語で、主人公は加古川本蔵とその主の桃井若狭之助。
刃傷事件の後、蟄居の身となっている本蔵の下屋敷が舞台で、事件の影響で判官の弟との縁談が破談となった、若狭之助の妹 三千歳姫が預けられています。
そこへ、三千歳姫に横恋慕する井浪伴左衛門(←若狭之助暗殺も企んでいる)がやってきて一騒動あった後、さらに主君の若狭之助もお忍びで現れます。
ふーん、こういうお話なのね、と思いながら観ていたら、判官に本懐を遂げさせなかった責を負って大星由良之助に討たれる覚悟という本蔵の本心を察し若狭之助が、わざと本蔵に暇を出して「今生の別れ」となった時には胸に迫るものがありました。
虚無僧姿の本蔵を観て、「これがあの九段目につながるのかっ」と目からウロコが落ちる思い。
伴左衛門って悪役なのですが、阪神ファンみたいなお召し物のせいか、遣う玉佳さんのキャラクターのせいか、どこか愛嬌があって憎めない感じ。
玉也さん本蔵の重厚感がありつつ滋味な雰囲気と対照的でした。
吉田一輔さんの三千歳姫が伴左衛門に自分と結婚を・・と言われて、ひょえ~という感じで驚いて即行断るの面白かったな。
切は咲太夫さんの語りに三味線は燕三さん。燕二郎さんの琴も加わって聴き応えありました。
本蔵が吹く尺八は黒御簾から本物の音色が。
「艶容女舞衣」(はですがたおんなまいぎぬ)
酒屋の段
太夫: 豊竹希太夫 竹本文字久太夫 竹本津駒太夫
三味線: 鶴澤清丈 竹澤宗助 鶴澤寛治
人形: 吉田簑助 吉田簑一郎 吉田文司 桐竹勘壽 吉田勘彌 桐竹勘十郎 ほか
これも初めて観る演目。
大坂上塩町の酒屋「茜屋」の息子半七はお園という妻がありながら、女舞芝居の芸人美濃屋三勝と恋仲になってお通という子供までもうけて勘当され、三勝をめぐるいざこざから殺人まで犯してしまいます。お園はそれでも半七を慕い、一度は連れ戻された実家から父 宗岸に伴われて茜屋へ戻ってきます。そこへ、酒屋のお客に付き添って出かけた丁稚が捨て子を連れて戻ってきます・・・。
最初に酒屋に来たお客さんが実は三勝で、丁稚に託された捨て子こそ半七と三勝の子 お通とわかり、さらにその懐から半七の書き置きが見つかって、それを読むお園、宗岸、そして半七の両親。
・・・その半七の手紙に、三勝とは子までなしたから別れる訳にはいかない。しかし、夫婦は二世と言うので「未来は必ず夫婦にて候」と書いてあるのを読んで、「未来は必ず夫婦、と。ええ、こりゃまことか。半七さん、うれしゅうござんす~」と喜ぶお園。
お園さんってば、三勝のもとに入りびたりで妻を顧みない夫を、「自分が至らないから」と言ったりして、きっと純粋ないい人なのでしょうけれど、少し前に話題になった某氏の奥さんのような違和感も感じたり。
勘十郎さんがこんな耐える女を遣うのは珍しい気がしましたが、これが初役なのだとか。
「今頃は半七さん。どこでどうしてござろうぞ・・・」という有名な(というのを後で知った)クドキの場面での、客席に後ろ姿を見せる人形の美しさは相変わらず絶品です。
が、ここでは何といっても簑助さんの三勝。
元々簑助さんの遣う女性の人形が大好きなのですが、三勝のあのたおやかな美しさと得も言われぬ色香。
人形の白い手が本当に生きた女性のやわらかい手のように見えます。
心中することを決めた半七と三勝が茜屋の外から中の様子を伺っている時、最後にもうひと目わが子を見ようと三勝が扉にすがりついて背を伸ばして中を覗き込むところなんて、まるで人形が生きていて一人で動いているように見えました。
こんな三勝になら、半七もすべてを投げ打って魅入られてしまうであろうことも納得の美しさ。
このあたりは津駒太夫さんの語りと寛治さんの三味線も絶品で、本当なら妻から夫を奪った悪い女であるはずの三勝に一番感情移入したのでした。
さて、切りは「勧進帳」です。
花道が設えられた文楽劇場。
「勧進帳」は歌舞伎では何度も観ていますが、文楽で観るのは実は初めてでした。
「勧進帳」
配役 (太夫/人形)
弁慶: 豊竹千歳太夫/吉田玉男・玉佳・玉路
富樫: 豊竹咲甫太夫/吉田和生
義経: 豊竹芳穂太夫/豊松清十郎
伊勢・片岡: 豊竹始太夫/桐竹紋吉・吉田玉彦
駿河・常陸坊: 豊竹希太夫/桐竹勘次郎・桐竹亀次
番卒: 豊竹咲寿太夫 竹本小住太夫
三味線: 豊澤富助 鶴澤清志郎 鶴澤清馗 豊澤龍爾
鶴澤寛太郎 鶴澤清公 鶴澤燕二郎
七枚七丁というのか七挺七撥というのか、ズラリと並ぶ床は壮観。
弁慶、富樫、義経をはじめ、太夫さんにそれぞれ役が振り分けられています。
人形は弁慶のみ、主遣いの玉男さんだけでなく、左遣いの玉佳さん、足遣いの玉路さん、全員出遣いでした。
ラストの弁慶の花道引っ込みが全部持ってっちゃう感じですが、その前の延年の舞もすごく観応えありました。
人形遣いさん三人まさに三位一体。左遣い、足遣いがどんなに大変かもよくわかりました。そのカッコよさも。
左遣いの人も、人形から距離があって、正面がどうなっているかわからない状態で、あんなに息を合わせられて凄い。
弁慶は勧進帳をはじめ、小道具も出したり持ち替えたりしますので、両手の動きがちゃんとシンクロしないといけないし、玉男さんの玉佳さんに寄せる信頼の大きさがよくわかります。
そして花道引っ込みです。
七三の位置でたっぷり溜めてから、まさに飛ぶように引っ込むのは人形ならでは、だと思いますが、それを3人で一糸乱れず花道駆け抜けて行くのだから。
「カッコイイ~」となりますよね、客席全体。
私の席からは後ろ姿を見送る形だったので、できれば揚幕あたりからお迎えしてもう一度観たかったです。
七丁の三味線がまた迫力の響きで、玉男さんの顔が弁慶と重なって見えました。
気品ある清十郎さんの義経、女形のイメージの強い和生さんの凛々しく堂々とした富樫も印象的でした。
もちろん歌舞伎とは別物なのですが、正統派の「勧進帳」で、先日、木ノ下歌舞伎「勧進帳」を観たばかりでしたので、それと対比できたのもおもしろく、文楽の勧進帳は「判官御手」の場面はなくて、現代的な木ノ下歌舞伎にはきっちり入っていたのも興味深かったです。
第1部も観たかったけど観に行く時間がない のごくらく地獄度 (total 1660 vs 1664 )
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