2016年10月07日

二代目は若くてイケメン 「九月新派特別公演」


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新派の公演を観たのは2014年11月の「十七世中村勘三郎二十七回忌、十八世勘三郎三回忌追善興行」(新橋演舞場)が後にも先にも一度きり。

このたび、市川月乃助さん(私にとってはいつまでも段治郎さんですが)が歌舞伎界から新派に転じ、二代目喜多村緑郎を襲名されるとあって、2年ぶりの観劇となりました。
喜多村緑郎という名跡は55年ぶりの復活なのだとか。


市川月乃助改め 二代目喜多村緑郎 襲名披露
「九月新派特別公演」 夜の部

2016年9月22日(木) 4:00pm 松竹座 1階6列センター


一、口上  
  月乃助改め 喜多村緑郎
  幹部俳優出演


「わたくしの二代目水谷八重子襲名披露の時、お忙しい中、喜多村緑郎先生が出てくださってとてもうれしかったのですが、その喜多村先生がぐっと若くイケメンになって戻って来られました」
と水谷八重子さんのやわらかな語り口で始まる口上。
襲名披露の口上といえば、歌舞伎、文楽とも男性ばかりでしか観たことがなかったので、とても新鮮でした。

上手から順に
猿弥・春猿・松也・八重子・緑郎・久里子・春本由香・瀬戸摩純・英太郎 という並び。

猿弥さんは「段ちゃーん」と客席とコール&レスポンスやるとtwitterに流れていて楽しみにしていたのですが、残念ながらそれはなく、至極まじめな口上でした。昼の部だけなのかな?

「緑郎さんには若いころからよくかわいがっていただき、ずい分ご迷惑もおかけしました。今日は終演後ご一緒する約束ですので、久しぶりにたくさん迷惑をかけたいと思います。緑郎さん、今晩はよろしくお願いします」と口上の席で緑郎さんに語りかける松也くん。

これに対して、「松也さん、今月は私は大事な襲名公演ですので、深夜1時には帰らせていただきます」と口上で応じる緑郎さん(笑)。
しっかし、紋付き袴でピシリとキメた緑郎さんの堂々とした口上を聞いていたら、涙がじわっとあふれてきました。

下手のお二人は新派の幹部になられたというお披露目があって、緊張気味の力の入ったご挨拶。
そしてこのたび新派に入団された春本由香さんはさらに緊張感ありあり。それを自分の席から見守る松也お兄ちゃんの、自分の口上よりはるかに緊張した面持ちも印象的でした。


shinpa201609.jpg二、婦系図   ―初代喜多村緑郎本に依る―
作: 泉鏡花
補綴・演出: 成瀬芳一
演出: 大場正昭
出演: 喜多村緑郎  波野久里子  尾上松也  田口守  
伊藤みどり  石原舞子  高橋よしこ  市川猿弥  
喜多村一郎  春本由香  柳田豊  水谷八重子 ほか


「婦系図」といえば、
「別れろ切れろは芸者の時に言うことよ。今の私にはいっそ死ねと言ってください」という台詞と
♪ゆ~しま通れば~ 思い出す~ お~つ~た~ ちか~のぉ~ 心意気~ という歌が記憶にあるのみ。
しかも、「湯島って、熱海の海岸にあるんだっけ?」と、完全に「金色夜叉」とごっちゃになってるし^^;
そんな訳で、とても有名な戯曲ですが、内容はほとんど知らない状態で臨みました。

新進のドイツ語学者 早瀬主税(喜多村緑郎)は、柳橋の芸者お蔦(久里子)と暮らしていますが、大恩ある酒井俊蔵(柳田豊)の逆鱗にふれ、「お蔦と別れるか俺と縁を切るか」と迫られ、お蔦と別れることを承知する・・・という主筋に、酒井家の一人娘 妙子(春本由香)の縁談、その相手である河野家のいきさつなども絡めて描かれます。

主税は少年時代スリで、そこから救い上げてくれたのが酒井先生だということは語られますが、それでも、まだ封建時代の名残濃い明治時代のお話とはいえ、主税があそこまで酒井先生に尽くし従わなければならない理由が今イチピンと来ず、「何よ、あのわからずやの頑固おやじ!」と思っていました。
その酒井先生の娘 妙子は、酒井がお蔦の姉芸者小芳(水谷八重子)に生ませた子とわかった時には「自分も同じようなことやってるんやん」と思い、
別れさせたお蔦が死の床についたと知るや、すぐ「許す」と主税に電報を打ち、お蔦の病床で「俺を主税と思え」と薬まで飲ませたりするのだから、「何なん 酒井?」と心でツッコミました。

そんなふうに、何とも旧態依然とした話でツッコミどころ満載ではありますが、ストーリーを知らないこともあって、最後まで楽しんで観ることができました。
台詞まわしや演技も、私が普段観ている演劇とは別の趣きで新鮮。


喜多村緑郎さんは文句なくカッコいい!
長身二枚目で、姿よし声よし。花も実もある役者さんです。
それまでの抑えた演技から一転、河野英臣(市川猿弥)に啖呵をきる場面は、シビれるカッコよさ。見惚れ聴き惚れました。

お蔦の波野久里子さんはさすが持ち役だけあって、すべて手の内という感じ。
甲斐甲斐しく可愛くて、ちゃんと緑郎さんより年下に見えました。

新派の役者さんにまじって尾上松也くん、市川猿弥さん、市川春猿さんといった歌舞伎役者さんも出演されていましたが、皆さすがに芝居が達者。
春猿さんなんて、普通に女優さんとして何の違和感もありませんでした。
松也くんは、スリとして登場して危ういところを主税に助けられ、後半では主税の書生のようなことをやる万吉。
緑郎さんともよく息が合っていて、上手いし、緑郎さんに負けない華がありました。

松也くんの妹さんの春本由香さんはこれが新派デビュー。
酒井先生の娘 妙子さんは、お嬢様ながら人の心がわかるやさしい女性。
何だか台詞が一本調子に聞こえましたが、下々とは一線を画したお嬢様という設定なので、これは意図したことだったのでしょうか。

妙子さんの縁談相手でいかにも遊び人の河野英吉さんがなかなか優男で、ちょっと猿琉さんに似てるわね、と思っていたらご本人だったと後で知りました。
猿琉さん改め 喜多村一郎さん。緑郎さんとご一緒に新派に転じられたと伺っていましたが、あの綺麗なトンボをまた見られる機会もあるのでしょうか。



この日は、終演後、緑郎さん、水谷八重子さん、波野久里子さんのアフタートークがありました。

喜多村緑郎を二代目として継ぐにあたり思うことは?という質問に
「初代の喜多村先生は新派女形として人間国宝になった方で、立役の自分がどうして喜多村緑郎を継ぐのかわからず、1年ほど考えて、”新派の精神”を継ぐのだと考えました」とおっしゃっていたのが印象的でした。
緑郎さんは早瀬主税をやるのは二度目ですが、毎回「勧進帳」をやるような気持ちなのだそうです。

一方、久里子さんはお蔦をやるために新派に入ったようなもので大好きな役、ずっとやりたい、と。
久里子さんはスタッフが細かいところまですごくこだわってくれて感謝しています、ともおっしゃっていましたが、確かに湯島天神の場面なんて、あの白い梅は本当に香りが漂ってくるようでした。

月乃助さん、トークの間もすっきりとした表情をされていて、転身に迷いはないようにお見受けしました。
が、迷いがあるのはこちらの方で(笑)、新派でこれからのご活躍はもちろんお祈りしますが、歌舞伎の舞台に立つ月乃助さんをまだまだ拝見したかったです。


この公演を観て少ししてから「あらしのよるに」の再演が発表されましたが、ギロはやっぱり月乃助さんで観たかったな 地獄度 (total 1640 vs 1643 )



posted by スキップ at 23:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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