2016年10月05日
秀山祭九月大歌舞伎 夜の部 「吉野川」
秀山祭夜の部はとても楽しみにしていた「吉野川」から。
初日開いて以来聞こえてくる評判も上々・・・というか、「絶対観ておくべき」という論調が大多数で一層期待も高まります。
秀山祭九月大歌舞伎 夜の部
2016年9月17日(土) 4:30pm 歌舞伎座 1階4列上手
一、妹背山婦女庭訓 吉野川
出演: 中村吉右衛門 市川染五郎 中村梅枝
中村萬太郎 尾上菊之助 坂東玉三郎 ほか
舞台中央を流れる川に見立て、上手の背山には大判事清澄・久我之助父子。
下手の妹山は太宰後室定高・雛鳥 母娘。
まさしく「定高が領分 大和の妹山 清澄が領地 紀の国背山」で展開される物語。
上手床に葵太夫、下手に愛太夫。
開演前、上手の私の席からは妹山の障子の向こうに緋毛氈の雛壇がチラリと見えて、
それだけで、「あぁ、あの雛かざりがこの吉野川に流されるんだ」と胸がいっぱいになりました。
忠義のため、大義のために罪なき者が犠牲になる、しかも親がわが子を手にかけるという話は何とも理不尽で正直のところ苦手です。
まして、お互いに「相手の子だけは・・」と肝に据えていながらその思いが水泡に帰してしまうのだからなおさらやり切れません。
それでも、この大顔合わせで濃厚かつ繊細に綴られる物語は、本当に2時間経ったの?というくらい引き込まれました。
物語の始まりは、若い2人の恋人が吉野川の流れと、家同士の確執とに阻まれて会えない嘆きから。
初めて出会って互いに一目惚れした小松原の情景が(文楽人形に脳内変換されたけれど)思い浮かびました。
雛鳥の、 「たとえ未来のとと様に御勘当受けるとも わしゃお前の女房ぢゃ・・・いづくいかなる方へなと 連れて退いて下さんせ」 という言葉を聞いて涙があふれて、すっかり涙腺が緩み、これ以降はことあるごとに涙がにじむという羽目に。
両花道で大判事清澄と定高が対峙する場面は、どちらを観たらいいのやら・・・「阿弖流為」再び的な。
「しれたこと(息子の首を討つまでのこと)」「大事なのは娘だけ」・・互いに発する強い言葉とは裏腹に、暗く切ない胸のうち。
定高の言葉を聴く大判事、大判事の言葉を受け止める定高、苦渋の表情を浮かべる互いの顔が見たなら、もしかしたら真意を察して状況が変わったかもしれません。
2人を隔てる吉野川。
その川の広さ深さを思います。
「やあ、雛鳥が首討ったか」
「久我殿は腹切ってか」
川を隔てて互いの子の死を知る親たちの悲嘆が、わが子ばかりでなく相手の子にも向けられる哀しみが
一層心を締めつけます。
定高が愛おしげに抱きしめた後、雛かざりの籠に乗せた雛鳥の首。
受け取って愛おしそうにその頭をなで、大切な宝物のように久我之助のそばに置く大判事。
久我之助に水盃をさせ、確かに嫁を受け取ったとばかりに声を張り上げての祝言。
一方、妹山では定高が焼香するお香が静かに漂います。
背山では婚儀、妹山では葬儀が同時に進行するという悲劇。
吉右衛門さんの大判事は毅然とした中に苦悩や弱さを見せつつ、胎では父親としての情愛に満ちているように見えました。
久我之助の背に回した手、雛鳥の頭をなでる手・・・その温もりと優しさが伝わってくるよう。
介錯する時、一瞬見せた逡巡と直後の厳然とした決意の表情。
「倅清舟承れ」からの慟哭とも絶唱とも聞える悲痛な叫びのような台詞にはただ涙。
毅然とした美しさ、家を背負う強さの中に母として深い哀しみを見せた玉三郎さんの定高。
「あれほどまでに手塩にかけて育てた子を・・・」のところ、本当に愛情込めて育てた雛鳥とその母との生まれてからこれまでの情景が目に浮かんでくるようで、涙を流さずにはいられません。
一途に久我之助を思い、母の「入内せよ」ではなく「死ね」という言葉に喜ぶいじらしさがまた悲しい菊之助さんの雛鳥。
憂える前髪の美青年がよく映える染五郎さんの久我之助。
所作の美しさも際立っていて、切腹した後のずっと伏した姿もとても絵になっていました。
梅枝くん、萬太郎ご兄弟の腰元もよかったな。
梅枝くんがうまいのはもちろんですが、萬太郎くんの小菊が重い場を和ませる雰囲気で笑わせながら
品よくやりすぎず、で感心しました。
新しくなった歌舞伎座では初めての両花道はもちろん、中央に流れる川、その川を挟んで建つ二つの屋敷が
片方ずつ開いたり、両家で対話したり。
満開の桜と吉野川の水の青。
舞台装置もとても優れていると思いました。
積もる思いの山々は 解けて流れて吉野川 いとど漲るばかりなり・・・涙。
3階から見た両花道 と、昼の部の幕間に仮花道眺めながら食べたもなかアイス
と、「吉野川」終演後の幕間に「いっぱい涙流したから水分補給ぢゃ」とばかりに
いただいたスパークリングワイン(笑)
<夜の部 つづく>
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