2016年09月30日

秀山祭九月大歌舞伎 昼の部


shuzansai201.jpg初代中村吉右衛門の生誕120周年を記念して、その芸を顕彰し継承しようと2006年に始まった「秀山祭大歌舞伎」は今年で10周年。
昼夜ともに力の入った彩り豊かな演目が並びました。

秀山祭九月大歌舞伎 昼の部
2016年9月17日(土) 11:00am 歌舞伎座 3階1列上手


一、碁盤忠信
作: 右田寅彦
補綴: 松岡亮
出演: 市川染五郎  尾上菊之助  中村歌昇  中村萬太郎  坂東新吾  中村隼人  中村児太郎  片岡亀蔵  尾上松緑  中村歌六 ほか


物語: 源義経が奥州へ落ちのびた後、京都の堀川御所内に隠れ住み、義経の影武者として働く佐藤忠信(染五郎)。舅の小柴浄雲(歌六)は梶原景高と通じており、忠信の命を狙っています。そこへ忠信の亡き妻・小車の亡霊が現れ、父の行いを窘めます。忠信は散らばった碁石から危険を察知し、義経の鎧を身につけ浄雲をかわします。そこへ横川覚範が現れて忠信に勝負を挑み、ふたりは闘い始めるが…。

2011年 日生劇場の七世松本幸四郎襲名百年歌舞伎公演で100年ぶりに染五郎さんが復活上演した作品。
その時は観ていなくて、今回初見でした。

赤隈も鮮やかな荒事の染五郎さん。
歌昇くん、隼人くんといった若手の綺麗どころはじめ登場人物総登場のだんまり。
夜の部「吉野川」のために設えられた両花道をつかって、忠信(染五郎)、お勘(菊之助)の華やかな引っ込み。
ばーっと散る碁石。
碁盤を振り回す立ち廻りと見得。
満開の梅の中、対峙する忠信と覚範。
黒地に銀の大きな源氏車と目が覚めるような赤の対比。

歌舞伎らしいケレンとショーアップされた舞台は見どころたっぷりで目に楽しい演目でした。


染五郎さんは、白い大きなリボンのような元結はキュートだし、赤隈は似合うし、で眼福(贔屓目) (^^)
スッポンから登場した小車の亡霊の児太郎くんが他の人たちとは一線を画する雰囲気をきっちり出していて感心。
菊之助さんのお勘がひと際美しくて酒売りの言い立てもよいお声で、やんやの拍手を浴びていましたが、筋書も買わずイヤホンガイドも借りない私は今イチどういう役なのか理解できず。
後で配役確認したら、「塩梅よしのお勘実は呉羽の内侍」って、ますますナゾだわぁ~(笑)。


ニ、太刀盗人
作: 岡村柿紅
出演: 中村又五郎  中村錦之助  中村種之助  坂東彌十郎


狂言から題材を取った松羽目の舞踊劇。
京へやって来た田舎者の万兵衛(錦之助)が土産を買おうと新市を見て回っていたところ、すっぱの九郎兵衛(又五郎)が万兵衛が持つ黄金造りの太刀を奪い取ろうと企てます。これに気づいた万兵衛が騒ぎ立てるところへ、目代(彌十郎)が現れ二人の争いを裁くことになります・・・。

目代の質問に万兵衛が答えると、それを盗み聞きして真似をして同じように答える九郎兵衛
それに気づかなかい万兵衛や目代たちにちょっとイラッとしつつも楽しく拝見しました。

おっとりとした錦之助さん万兵衛とずる賢そうだけど可笑し味たっぷり又五郎さん九郎兵衛。
よく息が合っていて、どちらも品よく安易な笑いに走らず、踊りや所作でおかしみも見せて好感。
大きな彌十郎さん目代につく従者の小柄な種之助さんがとても可愛かったです。

最後は2人一緒に舞で、ということになって、九郎兵衛の真似が発覚してめでたしめでたし
・・・と思いきや、太刀は結局盗まれて、花道を逃げていく九郎兵衛を万兵衛が追いかけて行く・・のに目を奪われていると、舞台上では彌十郎さん目代の長袴の裾を種之助くん従者が踏んづけて、目代がすってんころりんとひっくり返るという幕切れでした。


ichijoohkura2016.jpg三、一條大蔵譚
  檜垣/奥殿
出演: 中村吉右衛門  尾上菊之助  中村梅枝  
中村吉之丞  中村京妙  中村魁春 ほか
 

平家全盛の時代に能狂言に現を抜かし阿呆として知られる一條大蔵長成の真実の物語。

よく上演される演目でこれまで何度も観たことがありますが、実は吉右衛門さんで観るのは初めてでした。
私が最初に観たのは仁左衛門さんの一條大蔵卿で、つくり阿呆の時の可愛らしさが余人をもって代え難く、身バレする奥殿はともかく、檜垣の吉右衛門さんてどうなんだろう、と思いながら観たのですが・・・。

とんでもなかった。
あの門から飛び出でくるところから目を奪われっ放しです。
お顔や仕草含めて阿呆ぶりがあまりにも自然体で、「え!なに?これ本当に吉右衛門さんなの!?」という感じ。
いつも口を半開きで、ゆるゆるした表情。床几から転げ落ち方もとても自然。
私が平清盛だとしても騙されるな(笑)。

この長成を観ていて、なぜかサーカスのクラウン(道化)が胸をよぎりました。
笑いながらどこか哀しさが漂っていて。

最後にチラリと別の顔を見せる檜垣の引っ込みは、扇で顔を隠す型。
表情がパシッと変化するところが見える訳ではないのに、品格がにじみ出ていました。

奥殿では、キリリと鮮やかな切り替えながら、大仰さを押さえた述べ立てに長成の覚悟と強さを見せられた思いです。
鬼次郎に友切丸を託し決まった後、一転して、阿呆に戻り、刎ねた勘解由の首を弄んで大笑いする姿には、つくり阿呆を通り越して狂気すら感じる凄味と悲しみがありました。
今さらで申し訳ないけれど、すばらしいわ、吉右衛門さん。

菊之助くんと梅枝くんの鬼次郎・お京がとてもよくて、互いに使命を志と胸に刻みながら、夫婦としての信頼関係が感じられる若い2人でした。
菊之助くんは水もしたたるようなすっきりしたオコトマエっぷりによく響く声。
声といえば、2人が花道から登場した時、鬼次郎の言葉に「あ~い」と応じる声がとてもよくて、「誰?」(この時まで配役知らなかった)とオペラグラスあげたら視界に入ってきた人を見て、「あ~、梅枝くんかぁ」となった次第。
大蔵卿の前で踊ってみせる舞も美しかったし、梅枝くんってば本当にどんな役やってもお上手です。

古風で品格ある魁春さんの常盤御前。
これが襲名披露となる三代目中村吉之丞さんの勘解由。
家老の妻としての矜持を見せた京妙さんの鳴瀬。

役者さんが揃って、とても見応えのある「一條大蔵譚」でした。


昼の部だけでも結構おなかいっぱい のごくらく地獄度 (total 1638 vs 1641 )


posted by スキップ at 23:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
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