2016年09月15日

その向こう側の景色 「娼年」


shonen.jpg石田衣良さんの小説「娼年」とその続編「逝年」をもとに、ポツドールの三浦大輔さんが脚本・演出を手がけた舞台。
「R-15指定」が話題になっていましたが、劇場入口ではバッグの中やオペラグラスまでチェック、会場では開演ギリギリまでスーツ来たSPみたいな男性スタッフが客席に目を光らせているという物々しさでした。

聞きしにまさるハードで生々しいシーンの連続でしたが、「セックスを通して生まれてくるもの、その向こう側の景色を見せたい」という三浦さん。
これまで観た三浦大輔さん演出作品の中で、私は一番好き。


「娼年」
原作: 石田衣良
脚本・演出: 三浦大輔
出演: 松坂桃李  高岡早紀  佐津川愛美  村岡希美  安藤聖  樋井明日香  良田麻美  遠藤留奈  須藤理彩  猪塚健太  米村亮太朗  古澤裕介  江波杏子 ほか

2016年9月10日(土) 1:00pm シアター・ドラマシティ 11列センター



ストーリー: 何に対しても無気力で学校にも行かずバーテンのバイトをして毎日を無為に過ごしている大学生の領(松坂桃李)は、御堂静香(高岡早紀)と出会い、彼女の経営するボーイズクラブ「パッション」でコールボーイとして働くことになります。やがて領はその仕事にやり甲斐を見出し、静香にほめられたいと思うようになり・・・。


舞台は二段構造になっていて、下の階にはキングサイズのベッド。ここが領の生きる場所。
静香の家の寝室だったり、高級ホテルの1室だったり熱海の旅館だったり渋谷のラブホテルだったりします。
階段で結ばれた上階は、領がバイトするバーになったり、静香のオフィスになったり。

物語の冒頭ではこのベッドは幼い領の寝室。
「暗くなるまでには帰ってくるからいい子にしててね」と言い残して出かけた母は二度と帰って来なかった、という過去のトラウマが描かれます。

転じて今の領。
静香に誘われるまま彼女の家へ行き「あなたのセックスを見せて」と言われて、彼女の娘で耳が不自由な咲良を相手に・・というのがクラブ「パッション」へのテストでした。
一旦は不合格を出した静香でしたが、咲良が気に入って、かろうじて合格となります。

この咲良とのシーンがいきなりフルスロットル。
原作は未読で、東京公演の情報も全く知らずに観たのですが、R-15指定ということからある程度覚悟していた遥か上を行く感じで、まさか本当にしてないよね?と思うリアルさ。視覚はもちろん聴覚にも訴えて、ここまでダイレクトに生々しく描くのかと言葉を失う思い。
劇場中が固唾をのんでことの成り行きを見守っているという雰囲気でした。

ここから領くんの仕事が始まって、入れ替り立ち替り、様々な性癖を持ついろいろな”お客様”との場面が続きます。


・クラブの常連客
・プラトンを読む知的なキャリアウーマン
・セックスレスの夫への復讐心を持つ主婦
・夫が糖尿病で訳ありの年の離れた夫婦
・頑なに明かりをつけることを拒む女性
・70歳の誕生日を迎えた上品な老女
・領に思いを寄せる大学の同級生

だったかな。
これに領と同じパッションのコールボーイで人気No.1の東くん(猪塚健太)とのシーンもあり。
さすがに多いと感じましたが、それぞれ性癖が違うので(笑)、それほど単調になることも飽きることもありませんでした。


松坂桃李くん凄まじい。
たとえ演技だとしても、ベッドの上のことってかなりその人本人が出てしまう部分があると思うのです。
それをここまでさらけ出せる桃李くんに役者としての覚悟と勇気を感じます。
これを昼夜1日に2回やるって、心もカラダもどれだけタフでしなやかなのでしょう。

娼夫という役柄ではありますが、この役には清潔感や品の良さ、知性とピュアな部分も必要で、その佇まい含めて、桃李くんはとてもよくハマっていたと思います。
「プラトンのどこが好き?」と聞かれてちゃんと読んでいて答えられる娼夫・・・というか普通の大学生でさえ、そんなにいないよね。

会話する時の少し戸惑い気味の静かで遠慮がちな感じと、本能のスイッチ入った時の激しさとの落差もすごい。
年の離れた夫婦の妻に「私が酷いことされた方が夫が喜ぶから手荒に扱って」と言われて、「できるだけやってみます」と言いながら荒々しく豹変する桃李くんが好き過ぎる(どんなM?)。

母親を失くしたコンプレックスからか、年上の女性に心の垣根を全く持たない領。
最初のうちはぎこちなかった会話も、相手の女性の言葉に耳を傾け、心に寄り添うようになって、自分以外の人と関わりを持つことの意味を理解する領。
自然と人気娼夫となっていきます。、
激しいセックスシーンばかりでなく、領くんのこの心の成長が描かれているのが、この作品のもう一つの世界かな。

もちろん、「お客様」である女優さんたちにも拍手を送りたい。
桃李くんに負けずとも劣らぬ潔い脱ぎっぷりと迫真の「感じる」演技。
知らない女優さんも多かったですが、村岡希美さんや須藤理彩さんといったよく舞台で拝見している方たちが「えっ!こんなシーンをっ!?」と。
そういえば、村岡さんが阿佐スパ20周年企画の対談の冒頭で、「もともと原作が激しい設定だから、みんなすごい役をやりますよ」とおっしゃっていて笑ってしまいました(こちら)。

文字通りラスボスのように登場する江波杏子さんの存在感ときたら。
激しいシーンの連続だったので客席も少しほっとして笑いも漏れていました。

「男娼を買う」女たちではあるけれど、それぞれに傷や悲しみを背負っていて、切なかったり痛々しかったり。
人間の本能的な欲望って年齢には関係ないし、立場やその時の状況でいろいろ形を変えることはあっても、普遍的なものなんだなと感じました。
そんな彼女たちが領くんの言葉に救われ、肉体のコミュニケーションによって自らを解放していく姿は清々しいほど。

そして、高岡早紀さんの御堂静香。
ミステリアスな雰囲気を漂わせながら、颯爽としていてちょっと傲慢で、哀愁も帯びていて、とても魅力的な女性でした。そりゃ領くん、好きになっちゃうよね〜。
相変わらずスタイル抜群でスーツやドレスの着こなし、指先の所作まで綺麗。
静香さんの「領くん」という呼び方と声がとても好きでした。


「お客様」の相手をするシーンが延々と続いて、この物語はどこに着地するんだろう、とずっと思い始めたころ・・・。

「自分が変われたのはあの人のお陰。あの人にほめられたくて頑張ってきた」
領は静香さんに思いを寄せていて、その思いのたけを告白しますが、そんな領を頑なに拒絶する静香さん。
「静香さんも同じ思いのはずなのに」と領くん。

なぜ?

領は、静香さん自身も若いころ娼婦で、その頃にHIVに感染してしまい、余命宣告もされているという事実を知らされることになります。

最後に、本当に最初で最期に、一度だけ結ばれる2人。
フォーレのレクイエムが流れる中、白い紗幕の向こうでやさしく抱き合う領と静香。
まるでそここそが救いの地とでもいうような美しいシーンでした。

ただ一つ、ラストに「ママは本当は娼婦だったの」と領くんのお母さんの告白ナレーションが入りましたが、個人的にはあれは蛇足だったかなぁ、と。


物語の結びは1年後。
オフイスには咲良が描いた静香の遺影が飾られ、領は変わらず仕事を続けています。
ホテルの1室で、お客様(江波杏子)の71歳のお誕生日を穏やかな笑顔で祝福する領。
彼にも「その向こう側の景色」が見えたのだと信じたいです。



そういうシーンが続く中、「ほんとに気持ちよさそう」とか、「領くん(てか桃李くん?)みたいなコールボーイなら買ってみたい」と思ったりしたのはヒミツです のごくらく度 (total 1629 vs 1634 )



posted by スキップ at 23:36| Comment(2) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
新聞評を読んで、そんな桃李くんを観てみたかったな~と思った私でした(あぁ、なんて不純な動機)
城内の長い廊下を吉田フォルスタッフとわちゃわちゃ戯れながら出てくるハル王子の印象がいまだに一番なんですよね~(*^^*)あのハル王子にもまた会いたいものです♪
これからどんな役で観られるのか楽しみなイケメンくんの一人です(^o^)6
Posted by あいらぶけろちゃん at 2016年09月16日 01:28
♪あいらぶけろちゃんさま

フォルスタッフとじゃれ合いながら走り出てくる桃李くんハル王子、
本当に可愛かったですね。
私も、あのハル王子がこれまで観た桃李くんの中で My bestです。
ほんと、できることならもう一度観たいです。

でもね~、この「娼年」のリョウくんはいろんな意味で忘れられない
桃李くんになりました。
また一つ、階段上ったのではないかしら。
あの涼やかな笑顔に騙されつつ(笑)、これからもますます
目が離せなくなりそうです(^^ゞ
Posted by スキップ at 2016年09月17日 00:03
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