2016年08月31日
ピンク・トライアングルは尊厳の証 「BENT」
政治犯は赤の三角
犯罪者は緑の三角
ユダヤ人はダビデの黄色い星
そして、ゲイの胸にはピンクの三角
そのピンクの三角はマックスにとって、尊厳の証
PARCO PRODUCE
「BENT ベント」
作: マーティン・シャーマン
翻訳: 徐賀世子
演出: 森新太郎
出演: 佐々木蔵之介 北村有起哉 新納慎也 中島歩
小柳友 石井英明 三輪学 駒井健介 藤木孝
2016年8月21日(日) 1:00pm 森ノ宮ピロティホール D列下手
1930年代のベルリンを舞台に、ナチスドイツによって迫害された同性愛者たちの悲劇を描く物語。
マックス(佐々木蔵之介)は定職にもつかず、恋人のダンサー・ルディ(中島歩)とアパートに住み、享楽的な日々を過ごしていましたが、ある日を境に始まったナチスの粛清とホモセクシャル狩りで捕らえられ、収容所へと送られます。
その護送車の中でホルスト(北村有起哉)と出会ったマックス。絶望と暗闇が支配する収容所で2人は心を通わせ、ともに生き抜こうと励まし合いますが、やがて追い詰められ・・・。
映画化されていて、日本でも何度か舞台作品にもなっていますが、初見でした。
「ナチスドイツの同性愛者への迫害の話」というのは知っていましたので、覚悟はしていたとはいえ、観ているのはかなりキツイ内容で、耳をふさぎたくなったり目をそらしたくなったりすることも。
常に死と隣り合わせにいるような収容所の生活もさることながら、列車で護送される場面が個人的には一番キツかったです。
護送列車でインテリの象徴である眼鏡をかけていたため、ゲシュタボに目をつけられ、拷問を受けるルディ。
姿は見えず、断末魔の叫び声だけが聞こえるこのシーンはかなり辛い。
一度はルディを助けようとしたマックスでしたが、「動くな。お前も殺される」というホルストの忠告で思いとどまるマックス。
逃亡中、叔父(藤木孝)が1枚だけ用意してくれたアムステルダム行きの切符を、「2枚じゃなきゃダメだ。あいつを置いていけない」と断ったマックスが、
目前の暴力と自分の命の危険の前には、心を閉ざして見捨ててしまう・・・「知り合いじゃない」と繰り返し言い続け、「知り合いじゃないなら殴れ」と言われればその通りに拳を振るう・・・ここは本当に観ているのがキツい。
生き延びるために人間として誇りも尊厳もかなぐり捨ててしまったマックス。
人間の業の哀しさ厳しさを見せつけられているようでかなりツラい。
一番下のピンクの星をつけるのが嫌で、ゲイでないことを証明するためにナチスに命令されるままに少女を屍姦してまで手に入れたのユダヤ人の黄色い星。
そのお陰で比較的安全な労働に就き、今度は叔父から差し入れられたお金を賄賂にしてそこにホルストを呼び寄せます。
重い石を右側の地点から左側へと運び、運び終わればまた元の場所へ運ぶという生産性の全くない過酷な労働を来る日も来る日も続けながら、ホルストと心を通わせ、人間としての尊厳を取り戻していくマックス。
ホルストが射殺されたことによってその尊厳がまた傷つけられた時、マックスはもうそれを捨て去ることはしませんでした。
サイレンが鳴り響く休憩時間に、立ったままホルストの死体を抱きしめ、「お前を愛してる」と感情を爆発させるマックス。
黄色い星がついた囚人服を脱ぎ捨て、ピンクの三角がついたホルストの囚人服を着て、まっすぐ前を見てホルストの元へ、高圧電流が流れる鉄条網へと足を踏み出すマックス。
その後姿は毅然として、誇らしげにピンクの三角のついた胸を張っているように見えました。
マックスの心の成長を描くとともに、彼の人生がドラスティックに変わることはすなわち、社会が全く角度を変えてしまった怖ろしさも表していて、背筋がヒヤリとする思い。
マックスの部屋から始まって、ゲイクラブ、叔父と密会する公園、野宿する森、護送列車、そして収容所へと展開する一幕に対して、二幕は終始石運びの作業場で、マックスとホルストの二人芝居の趣き。
役者さんの力量も問われるところですが、佐々木蔵之介さん、北村有起哉さんともにさすがの演技でグイグイ引き込んでくれます。
多分裕福な家に生まれ、自堕落な暮らしをしていた、どちらかといえばチャラ男のマックスが収容所での過酷な生活やホルストと心を通わせることによって人間性を取り戻していく様を丁寧に見せてくれた佐々木蔵之介さん。
一方、ゲイであることに誇りも信念も持っているホルストが、マックスに心開き惹かれていく心の変化を繊細に表現した北村有起哉さん。
「俺が左の眉を触ったら、これは『お前を愛してる』ってサインだ。これなら監視の目もごまかせる」と言ったホルストが、本当にそのポーズを見せる最期が哀しい。
お互いに顔も見られず目も合わさない中で言葉だけで愛し合う様を見せる2人、圧巻でした。
一場面だけながらゲイクラブのママ・グレタも印象的。
金髪にドレス、白手袋で歌う妖艶な美女。
グレタはナチスにマックスたちの居場所を教え、金を受け取っていたことがわかります。
その金を渡し、「俺の前で相談するな!」と2人を追い出すグレタ。
この短い会話の中に、彼らの行き先を知ってしまったらまた売ってしまうことをグレタ自身がよくわかっていること、生きるために手を汚し、心に深い傷を負っている哀しさがよく表れていました。
新納慎也さん。「真田丸」の豊臣秀次役で一躍名を馳せましたが、「これが通常運行です」と制作発表では笑わせていらっしゃいました。
そういえば「ラ・カージュ・オ・フォール」で初めて女装観た時は驚いたものでした。
俯きがちな何体もの人形に囚人服を着せただけで強制労働の苛酷さやその先にあるホロコーストを思わせる舞台装置。
鉄条網の向こうに広がる空の色の変化で季節の移り変わりを見せる照明もよかったです。
観終わった後、「よくこんなお芝居上演しようとか思うよね」とも思いましたが、「何となく」知っていたことも、こうして目の前に厳しい現実を突き付けられることでより深く考え感じることができる・・・芝居が訴えるべき使命感、演劇のチカラを作り手も役者さんも確固として持っていると感じられる作品でした。
この日は大楽。
「2016年 BENTの夏、石運びの夏でした。今日で釈放です」と笑顔の蔵之介さん。
あまりにも厳しい内容で観ているのキツかったから、役者さんたちの達成感あふれる表情に救われる思いでした。
カーテンコールラストは出演者全員ひとつずつ石を持って登場。
新納さんグレタは石を持った右手を高々と掲げてオトコマエにはけていかれました。あのドレス姿でw
最後に一人残った蔵之介さんは舞台下手にその石をそっと置いて。
睡眠不足で観たのにピクリとも眠くなりませんでした のごくらく度 (total 1622 vs 1625 )
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チケットは取っていたのですが、残念ながら行くことができませんでした。
正直、チケットを取ってからも、「重そうな芝居だなぁ」とちょっと躊躇してたことは事実で(^^ゞ
でも、劇場に足を運んで実際に見ないといけない、そういうお芝居だったと、スキップさんの感想を読んで改めて感じました。
レポ、ありがとうございました。
せっかくチケット取っていらしたのに残念でしたね。
本当に観ているのがかなりキツくて辛いお芝居でしたが
これは観てよかったと思いました。
私の感想ではとても伝え切れていないようにも思いますが、
少しでも感じていただけたなら幸いです。
楽しさだったり苦さだったり感動だったり涙だったり、
舞台って、本当にいろいろなものを私たちに与えてくれますよね。