2016年08月25日

混沌と毒と切なさと 「ゴーゴーボーイズ ゴーゴーヘブン」


gogoboys.jpg松尾スズキさん2年ぶりの新作。
架空の国の架空のお話ですが、笑いながら時折ヒヤリとナイフを頬にあてられているよう。


シアターコクーン・オンレパートリー2016
「ゴーゴーボーイズ ゴーゴーヘブン」
作・演出: 松尾スズキ 
美術: 二村周作 
音楽: 伊藤ヨタロウ 音楽監督: 門司肇
出演: 阿部サダヲ  岡田将生  皆川猿時  池津祥子  
宍戸美和公  村杉蝉之介  顔田顔彦  近藤公園  
平岩紙  岩井秀人  伊藤ヨタロウ  松尾スズキ  
吹越満  寺島しのぶ ほか
邦楽演奏: 綾音 

2016年8月9日(火) 7:00pm 森ノ宮ピロティホールJ列センター



物語: 内戦状態にある架空の国 ジャワンガスタン。
過激派の人質となった先輩 ヤギ(吹越満)を助けるためこの国に潜入したベストセラー作家の永野(阿部サダヲ)は、「ゴーゴーボーイ」と呼ばれる少年たちによる売春の世界であやしげな美少年、トーイ(岡田将生)に心を奪われ、トラブルに巻き込まれていきます。
一方、日本では、永野の妻で女優のミツコ(寺島しのぶ)が元マネジャーのオカザキ(岡田将生二役)と浮気していましたが、行方不明になった夫を捜索する悲劇のヒロインとして現地に向かうことになります・・・。


ジャワンガスタンそのもののように、物語の世界も混沌として雑多。
エネルギーにあふれつつダークでブラック。
笑いを散りばめながら毒気もたっぷり。

松尾スズキワールド全開の舞台でした。

吹越満さん扮するヤギが人質となって銃をつきつけられながら「助けて下さい」とメッセージを書いたプラカードを手にしたカメラ目線の映像をはじめ、私たちの周りでリアルに起こっている事象が次々出て来て、それをシニカルな目線で描写したり、パロディにして笑いに転化したり風刺したり。
もちろん性的タブーなんてお構いなしで、ゲイありエロもグロもあり。

それでも、全編を流れるのは、「愛」。
祖国への愛。
綺麗な男の子への愛。
夫と妻が互いに思いやる愛。



「アンディ・ジャーの椅子」になることを願い続けるトーイも、トーイに寄せる永野の思いも切ないけれど、その永野とミツコのラストにはちょっと言葉をなくす思い。

紆余曲折の末、やっとミツコに会えた永野。
豪華なドレスを着て笑顔のミツコ。
でも手術の後の包帯。

「何の手術をしたんだ!」」と周りの医者を責める永野に
「私は何も変わってないから。むしろ夢を見なくなったし、ここの生活も気に入ってるから」と微笑むミツコ。

これって、ロボトミー手術が施されたということですね?
・・・「カッコーの巣の上で」が思い浮かんで暗澹たる気持ちになったのでした。

「自由がないことが安全で幸せ」という、管理統制された平和への松尾さんのアイロニーが込められているのでしょうか。

「必ずここから助け出す」という永野。
「一組の夫婦の行方がわからなくなった」というナレーションで終わる物語。
これ、私にはとても永野がミツコを助けてどこかに逃げることができたとは思えませんでした。
厳しく、切なすぎる幕切れ。


パワー全開で飛ばしまくる皆川猿時さんはじめ、個性豊かな大人計画メンバーの中に入って、
客演ともいえる寺島しのぶさん、岡田将生くん、吹越満さん、岩井秀人さんはいずれも異彩を放っていました。

特に寺島しのぶさんの振り切れたような熱演が強烈な印象。
頭に鳥かご乗せたり、ヒゲつけたり、上半身ハダカで性奉仕する後姿ばかりか手ブラだったり。
どんなにテンション高くても言葉がちゃんと耳に入ってくる台詞術もさすがです。
一幕終わりで、着物着て扇子持って阿部サダヲさんと踊る、ちょっと日舞テイストのダンスが二人ともキレッキレで、あのダンスだけでももう1回観たいくらいです。

岡田将生くんは「皆既食」のランボーでも感じましたが、美しいばかりでなく透明感のある佇まい。
「男」の人生を狂わせる魔性の美少年がハマるハマる。

吹越満さんはすぐに殺されてヤギになっちゃうけれど、ずっと淡々としていて、格別笑いを取りにいく訳でもないのにおかしくて、どこかペーソスも漂う。
あの声と語り口、大好きです。

そして岩井秀人さんですよ。
もう、何だか出てくるだけで笑っちゃう感じ。ハイバイの時のイメージト180℃違う怪演で心底オドロキ。

そんな個性的な面々を向こうに回して、終始真面目で端正に受けの芝居を繰り広げる阿部サダヲさん永野はさすがという他ありません。
うっすら無精髭のサダヲちゃん。何だか色っぽくてカッコいいゾ。


音楽も独特で、歌舞伎の松羽目のように舞台後ろの上段にずらりと並ぶ和楽器の囃子方の生演奏。
「綾音」という邦楽ユニットの皆様だそうですが、浄瑠璃が義太夫を語るようなスタイルで、女性が謡い語り、さらに伊藤ヨタロウさんの長唄風な語りも加わって面白かったです。
この語りには文楽の豊竹咲甫大夫が協力されたそうですが、この公演に先立って、「ヨタロウさんと咲甫さんを結びつけた」という方のお話も伺っていて、とても興味深かったです。


IMG_0317.jpg  

こちらはロビーに飾られていたゴーゴーボイズたち作「アンデイー・ジャーの椅子」。



しっかし盛りだくさん過ぎて拾いきれないのでもし映像化されたら(できるのか?)確かめたいこと多々 の地獄度 (total 1619 vs 1621 )



posted by スキップ at 23:37| Comment(2) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私は7月8日に見て、頭が破裂しそうで(お腹もいっぱいで)何もまとめられなかったんですが、今こうして拝読するといろいろ思い出します。いつもありがとう!
あのラスト、考えることを放棄する(しつつある?)現実への、痛烈な一打に感じました。
そうそう、しのぶちゃんとサダヲくんのダンス、すっごくよかったですよね。私ももう1回見たいです。映像化は……?ハテ。松尾さんのオツーブなんて、モデルは明らかだけど、名前もそんなことだったのか、とか、後から発見しましたわ。
Posted by きびだんご at 2016年08月28日 11:03
♪きびだんごさま

私も観てから少し時間経ってしまいましたので、取りこぼしは
たくさんあると思います・・・というか、記憶が新しいうちに
書いたとしてもきっと全部は拾い切れないくらい盛りだくさん
でしたね。質・量ともに。

>あのラスト、考えることを放棄する(しつつある?)現実への、
痛烈な一打に感じました。
あー、そうですね。
「夢を見ない」ことをよしとするというのはそういうことなのだと思います。

オツーブ・・漢字で書くと・・・ですね。
松尾さん、よくそんなこと考えつくなぁ、そして、そんなことも
あんなことも、よく怒られないなぁと思います。
ほんとに映像化は??ですね(笑)。
Posted by スキップ at 2016年08月29日 00:12
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