
尾上右近くんのこの会にかける並々ならぬ意欲が感じられます。
尾上右近自主公演 「第二回 研の會
2016年8月7日(日) 4:00pm 国立劇場小劇場 9列下手
一、仮名手本忠臣蔵
五段目 山崎街道鉄砲渡しの場
同 二つ玉の場
六段目 与市兵衛内勘平切腹の場
出演: 尾上右近 中村米吉 中村種之助 尾上菊十郎 尾上菊三呂
市村橘太郎 上村吉弥 市川染五郎 ほか
演目が発表された時、「これを自主公演で?」と少し驚きました。
幹部俳優さんが演じる大歌舞伎で観ることの多い演目。果敢な挑戦だなぁと思いましたが、とても充実していました。
右近くんの勘平は、菊五郎さんに教えていただいたそうですが、教えられたことを真摯にきっちり、お行儀よく。
印象に残ったのは表情で、六段目 与市兵衛内で自分が舅を殺してしまったと思い込んでからの動揺や不安、悔恨がありありと現れていました。
勘平は実年齢でいえば右近くんの世代に近いとも思われ、かなりリアリティのある勘平でした。
後半は段取りに追われがちとも感じられましたが、武士としても気概も誇りもちゃんとも見せつつ、「色に耽ったばっかりに・・」を感じさせる色気。
初役にして上等だったと思います。
米吉くんは儚げで美しく、心から勘平のことを思っていることが感じられるいじらしいおかるちゃんでした。
お茶の出し方が少しサッサとしすぎていたり、義太夫味が薄くて世話物のように感じられる面もありましたが、若さで乗り切った感じ。
吉弥さんのお才が花街のおかみらしい貫禄と上方味。
菊三呂さんののおかやもよかったな。おかやが責める意地悪さがあって勘平の悲劇もより浮かび上がるというものです。
染五郎さんは斧定九郎と不破数右衛門の二役。
さすがにこのメンバーの中に入ると華と存在感が際立っています。
染五郎さん定九郎の「ごじゅう~りょううぅ」が聴きたくてこの公演を観ることを決めたといっても過言ではないくらい(笑)ですが、期待に違わず・・というか、期待以上でした。
低く響く「五十両~」の声。カッコよくて美しくて色気もある悪の華。
染五郎さんの色悪好きだー

いやほんと、右近くん、この役を染五郎さんにオファーしてくれてありがとう、というカンジ。
数右衛門も落ち着いた重みがあって立派でした。
ニ、新歌舞伎十八番の内 船弁慶
出演: 尾上右近 中村種之助 中村鷹之資 市村橘太郎 上村吉弥 市川染五郎 ほか
出は静から。
まるで能面をつけているのかと見紛うほどの冷ややかな美しさの中に気品も漂わせる静。
踊りの上手さには定評がありますが、指先、足先まで神経が行き届いた美しい舞。
義経への思慕と、その別れを悲しむ心情が感じられるようでした。
一転して後ジテの知盛の霊は勢いがあって力強く勇壮。
右近くんは絵心があってお化粧も上手なので、フライヤーにもなっている知盛の隈取もとてもお似合いです。
花道の引っ込みの直前、「はっ!」という声に、気合いの入りっぷりが伝わりました。
鷹之資くんが日頃の精進ぶりが見えるような台詞回し、声もよく響き、立ち姿も美しく、15歳とは思える堂々とした義経。
染五郎さんん弁慶とちゃんと主従に見えました。
幼い頃の舞台や、お父様の富十郎さんとご一緒のところを劇場でお見かけしたこともありますので、あの鷹之資くんがこんなに立派になって・・と感無量です。
染五郎さんは堂々と落ち着いて貫禄ある弁慶。
低く響く声。念珠を持つ型も美しい。
また染五郎さんで「勧進帳」の弁慶 観たいと思いました。
種之助くんの舟長、橘太郎さんと珍しい髷姿の吉弥さんの舟子を引き連れてイキイキ楽しそうでした。
終演後、知盛の霊の拵えのまま下手幕外に正座する右近くん。
「悔いはたくさんあります」と表情を引き締めて、「この悔いを埋めていつかは本公演でこの演目を」と言って、湧き上がる万雷の拍手に感極まって、「がんばりますのでっ!」と負けじと声を張り上げる姿に目頭が熱くなりました。
まだ若く、足りない部分もたくさんあるには違いないけれど、志高く自主公演を立ち上げ、自分がやりたいと思ったことを一つひとつ実現していく情熱と強い心、その覚悟に胸が震える思いです。
幕間にパンフレット買いに行ったところ、噂に聞く米吉店長が。

米吉: これだけ?

米吉: 勘平もいっときましょか。

あ、写真、一緒にいいですか?
米吉: もちろん!たくさん買ってくれる人、だーい好き(笑顔)
-聞きしに勝る甘え上手でございました。

このパンフレット、演目の解説や出演者紹介はもちろん、昨年第1回の舞台写真や、右近くん・種之助くん・米吉くんの鼎談、「研の會ができるまで」など盛りだくさんでとっても充実。
下にちらりんと見えるのは「勘平もいっときましょか」と店長にススメられた勘平のクリアファイルです。
グッズ販売はやり手の米吉店長に加え、隼人くん・梅丸くん・國矢さんが並んで閉店セール エラいことになっていました。
3月の「附けの會」でお話を伺って楽しみにしていた「研の會」。
来年は8月27日・28日だとか。
右近くんの果敢な挑戦をこれからも見守りたい のごくらく度


