
今年は生誕400年のシェイクスピアイヤーということで、「夏の夜の夢」が選ばれました。
パックが空を飛び、妖精と人間が織りなす物語はシェイクスピアの中でも好きな戯曲のひとつです。
音楽劇(A MIDSUMMER NIGHT'S DREAM)やこの作品をモチーフにした宝塚歌劇(PUCK)は観ましたが、オペラで観るのは初めてでした。
佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2016
「夏の夜の夢」 (B.ブリテン作曲)
指揮: 佐渡裕
演出・美術: アントニー・マクドナルド
訳詞: 松岡和子
出演: 藤木大地 森谷真理 塩谷南 森雅史 清水華澄
クレア・プレスランド イーファ・ミスケリー ピーター・カーク チャールズ・ライス ほか
合唱: ひょうごプロデュースオペラ児童合唱団
管弦楽: 兵庫芸術文化センター管弦楽団
2016年7月31日(日) 2:00pm 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール LD列
アテネの貴族の娘 ハーミアはライサンダーと恋仲ですが、親にディミートリアスとの結婚を強制されそうになったためライサンダーと駆け落ちして森へやってきます。
ディミートリアスと彼を愛するヘレナも二人の後を追って森へ。
森では妖精の王オベロンと女王のティターニアがインドから連れ帰った子供を取り合って大喧嘩。
オベロンはパックに命じてまぶたに塗ると「目覚めた時に最初に見たものに恋をする」という惚れ草の汁を取ってこさせ、ティターニアのまぶたに塗るよう命じます・・・。
イギリスを代表する作曲家 ベンジャミン・ブリテン作曲のオペラ。
1960年初演ということですので、オペラとしては比較的新しい作品といえるのかな。
美しい旋律に彩られた夏の一夜の夢物語。
ファンタジックで楽しいオペラでした。
オペラ歌手のことはほとんどわかりませんのでおいておくとして(笑)、印象的だったのは舞台装置の美しさ。
特に妖精たちが行き来して、パックが空を飛ぶ森の雰囲気がとても好きでした。
霧が立ち込める森をイメージした白い森。
大きな倒木が舞台いっぱいに横たわって、でこぼこと起伏の多い森。木々や色づかいなどリアルにつくり込まれている訳ではないのに、まさしくそこは森。しかも本当に妖精が棲んでいそうに幻想的で繊細で。
咲き乱れる花に囲まれたティターニアの白い大きなベッドも夢見るように素敵でした。
そんな森が回り舞台で大きく転換して職人たちの工房になったり、アテネ公シーシアスの宮廷になったり。

舞台だけでなく、劇場ロビーのポールもこんなふうにグリーンで覆われて、まるで妖精の森への入口のよう。
今回、演出と美術を手がけたのは、アントニー・マクドナルド。
やはりシェイクスピアの国 イギリスの人ならではの感性だなぁと思いました。
出演者は日本人とロンドンのオーディションで選ばれたイギリス人キャストの混成チームなのですが、おもしろいなと思ったのは、妖精はすべて日本人キャストで歌も日本語、人間はイギリス人キャストで英語の歌唱と分けられていた演出。
日本語=妖精語と英語=人間のことばという見立てに気づいて「なるほど~」と感心することしきり。
ティターニアがボトム(人間の職人)とのやり取りだけ英語で歌っていました。
登場シーンの妖精たちが子どもたちの合唱で、これがほんとに綺麗なコーラスで、小さい妖精っぽくって楽しかったです。
この子どもたちの中に、豆の花、芥子の種、蜘蛛の巣、蛾というティターニア付きの小妖精たちがいて、ロバに変身したボトムに何か言われると鼻をつまんだりして嫌そうに仕えるところも表情豊かで可愛かったな。
ティターニアの森谷真理さん。
本当に美しくのびやかなソプラノでした。
のびやかな声といえば、オーベロンの藤木大地さんがとても高い声で驚いたのですが、この役はカウンターテナーがやることになっているのだとか。
これまで観た作品ではオーベロンといえば強く骨太な男性のイメージ(宝塚月組では星条海斗さんだし)だったので、カウンターテナーは少し意外でした。
パックは飛んだり跳ねたり踊ったり、最後のあの口上(「影にすぎない私ども もしご機嫌を損ねたなら お口直しに・・・というアレ)を言う時には森の木のツルにつかまってフライイングみたいに空を飛んだり、と身体能力の高さを見せてくれて、歌わない人だなぁと思っていたら、塩谷南さんという、勅使川原三郎さんの公演などで活躍されているダンサーの方だそうです。
「パックは嘘をつきません」のところ、フライイングしながら「パックは嘘はつかへんでぇ~」って言ってました。
ご本人は東京ご出身のようですから、あれは兵芸スペシャルバージョンだったのかしら。
開演前、佐渡裕さんがご挨拶をされた時に、「ハーミア役のクレア・プレスランドさんが舞台上でひどい捻挫をしてしまいました。骨にひびが入る重傷で、舞台以外では車いすを使っているくらいです。公演中止も考えたのですが、本人の強い希望で、演出の一部を変更して上演します。松葉杖をついていましたが、昨日からはそれもなしでやっています」とお話がありました。
確かに、そう思って見ると傘を杖代わりにしているようなフシはあるし、動きも緩慢なところも見受けられましたが、周りのキャストにも支えられながら、とても美しい声を響かせていました。
カーテンコールで佐渡さんが真っ先に彼女をハグして労っていらしたのが印象的でした。

あの「ここ!」という時にタクトを持っていない方の左手人差し指を前にズンと出すの、相変わらずカッコイイ。
そして、最後のタクトを振り終えた瞬間、まずコンマスに手を差し出し、それから次々メンバーと笑顔で握手する佐渡さんを見るのが大好きです。
この日は大楽でした。
ホリゾントに映し出されたシェイクスピアの口からありがとうの言葉が飛び出し、それがいろんな国の言葉のありがとうになって、キラキラと降りしきる金銀の紙吹雪の中、佐渡さんも出演者もオーケストラメンバーもみんな笑顔。幸福感に満ちたカーテンコールでした。

開演前の泡です。
ほろ酔いでちょっとウトウトしちゃったりもして、遠くに綺麗な音楽が聞こえるという空間がとても心地よくて、まさに「夏の夜の夢」だわ・・・昼だけど(^^;;
来年は「フィガロの結婚」だとか。
昨年観た野田秀樹さん版との違いも楽しみ。
では、どちらさまも、おやすみなさい のごくらく地獄度



