
今年の上演作品が「オセロー」であることは昨年から情報公開されていましたが、今年発表されたこのフライヤーを見て、「緑色の目をした怪物だ!」と思いました。
お気をつけなさい 将軍
嫉妬というやつに
こいつは緑色の目をした怪物で
人の心を餌食とし それをもてあそぶのです
そのためだ そのためなのだ
まるで暗闇がオセローに囁きかけるように始まる物語。
子供のためのシェイクスピアカンパニー 「オセロー」
作: ウィリアム・シェイクスピア
翻訳: 小田島雄志
脚本・演出: 山崎清介
出演: 伊沢磨紀 山口雅義 戸谷昌弘 若松力 河内大和
加藤記生 大井川皐月 山崎清介
2016年7月24日(日) 1:00pm 近鉄アート館 A1列センター
ヴェニスの将軍でムーア人のオセロー(河内大和)は、議員ブラバンショー(戸谷昌弘)の娘デズデモーナと恋に落ち、反対を押し切ってひそかに結婚します。
自分を差し置いてキャシオー(若松力)を副官に任命したオセローを恨むイアーゴー(山崎清介)の「デズデモーナがキャシオーと浮気をしている」という奸計にかかり、嫉妬と怒りで疑心暗鬼となりデズデモーナを殺害。すべての真相が露見した後、自ら命を絶ちます。
シェイクスピア四大悲劇の1作。
これまでに違う演出で何作が観ていますが、何度観てもあの結末はやり切れない思い。
ラストに向かって人がバンバン死んで、このカンパニーは相変わらず「子供に観せていいの?」というクオリティの高い舞台を見せてくれます。
このカンパニーのお約束である人形は、今回「旗持ち」の役。
本来「旗持ち」であるイアーゴーはその旗持ちを持つ、「旗持ち持ち」でした。
旗持ちの人形 ココロがその名のとおり、イアーゴーの心の代弁者ともなり、オセローを言葉巧みに翻弄したりもしてイアゴーの心情を二分化。
「嫉妬という名の緑色の目をした怪物」に取り憑かれて自分を失い、破滅へと導かれたのはオセローですが、このココロの存在によって、イアーゴーの心理も際立ち、彼もまた「緑色の目をした怪物」に魅入られた一人だということがよく表れていました。
ただ、そこに重心を置くあまり、描ききれなかった部分があるようにも感じました。
勇敢で聡明で人の上に立つ度量を持つオセロー、デズデモーナのことを心から愛していたオセローがどうしてあんなにもたやすくイアーゴーの奸計にかかってしまったのか。
その根底にはオセローの「ムーア人」としての在り方があったと思うのです。
肌の色や血筋や家柄・・・デズデモーナのように若くて美しく身分も高い女の子を妻にできたことに、オセローは心のどこかに不安を持っていたのではないでしょうか。
俺は本当にこの幸せを手にしたのか・・・裏を返せば、ヨーロッパのキリスト教貴族社会の中で、ムーア人でありながら傭兵から上り詰めて将軍となったマイノリティとしてのコンプレックスが常にあったように感じます。
私の気づく限り、このあたりのオセローの心の襞には触れられていなかったように思いました。
机と椅子を使ったシンプルなセットに代表されるように、いろんなものを削ぎ落とした演出がこのカンパニーの特徴であり強みだと思うのですが、今回それが少し裏目に出たかなと思わないでもありません。
「オセロー」って、やはり深くて難しい戯曲なのだわと改めて気づいた次第です。
オセローを演じた河内大和さんはとてもよかったです。
剛で直球、そしてデズデモーナをこよなく愛するオセロー。
長身で逞しい体躯、スックとした立ち姿も美しく、あのオリジナルな髪型(笑)もオセローにぴったり。
イアーゴーは演出も担当されている山崎清介さん。
もちろん芝居も上手い方ですが、イアーゴーはもう少し若いギラギラした嫉妬の炎をたぎらせているような人がいいかなぁ。
若松力さんのイアーゴーが観たかった気もしますが、そうするとキャシオーは誰が、という問題も。
そして忘れちゃならない伊沢磨紀さんのエミリア。すばらしかったです。
まるで良心と正義感のかたまりのようなエミリアが自分の夫であるイアーゴーを糾弾する場面はこの悲劇の中で唯一胸のすくような場面ですが、伊沢さんエミリアの啖呵、本当に気持ちよかったです。
老若男女何でもござれの変幻自在の女優さん。
来年は「リア王」ということですが、どんな役をされるのか今から楽しみ。
この日は珍しく早く会場に着いたので、イエローヘルメッツを最初からフルで聴くことができました。
楽しかったけれど、MCがオリンピック選手の容姿にかかわることで(たとえばケンブリッジ飛鳥くんに対する桐生くんとか)、悪気がないのはわかりますが、聞いていてあまり気分のいいものではありませんでした の地獄度


