
染五郎さんが初役で勤める松浦侯を観たかったからですが、東コースですから当然ながら関西の会場はありません。
少し遠出でにはなりましたが、金沢でちょっとした旅気分を味わえたし、おいしいお鮨もいただけたし、もちろん舞台は楽しかったし、大満足でございました。
平成28年度 全国公立文化施設協会主催 東コース
松竹大歌舞伎 夜の部
2016年7月23日(土) 5:00pm 石川県立音楽堂 邦楽ホール 1階6列上手
一、ご挨拶
市川染五郎
定式幕の前にスーツ姿の染五郎さん登場。
巡業で訪れる各地ごとにその地の名所や名物、ご当地ネタを紹介されているそうです。
金沢の「近江町市場」を紹介する時に手元の原稿を見ながら確認するようにおっしゃっていたので、「なんかたどたどしい・・」と笑っていたら、「昼の部では『近江市場』と言って『町がない』とツッコまれたのよ」とお隣の方が教えてくださいました。
会場の石川県立音楽堂には平成13(2001)年の開館の年にも歌舞伎公演でいらしゃったそうで、「とてもいいホール」とお気に入りのご様子。
金沢にちなんだ俳句も披露
巡業は できれば金沢 一カ月
金沢に 22世紀 歌舞伎座を
「22世紀には僕たち生きてないですけどね」のオチつき。

題して「SOMEGORO'S CHALLENGE」
それ聞きたさに何年かぶりかでイヤホンガイド借りたよね~。
(上演中はイヤホンはずして幕間だけ聞くというヘンな人でした)
金沢のご当地クイズは
・前田藩お抱えの火消しの名前は?
・一般的には白いのに金沢では紅白のものは?
の2問でした。
正解は「加賀鳶」と「鏡餅」
どちらも結構早く正解されていました。
この日の演目についても見どころなどをご紹介。
「松浦の太鼓」で大高源吾を演じる中村歌昇くんは、生後4ヵ月のお子さんが前日に来られたそうで、久しぶりの対面で「そのパワーが吉と出るか、空回りするか」 と(笑)。
ご自身が大高源吾役で出演されていた時はもちろん、出ていない時も舞台袖から吉右衛門さんの松浦侯を観ていたという憧れの松浦侯を初役に演じるにあたり、その吉右衛門さんに教えていただいたということで、観る前から期待が高まります。
「『粟餅』では最後に壱太郎くんと2人、手ぬぐいを撒きますが、何ぶん数に限りがございますので、もらった人はあまり見せびらかさないように、またもらえなかった人はもらった人をニラまないように」と茶目っ気たっぷり。
染五郎さんが座頭としてこの巡業を盛り上げよう、お客様に楽しんでいただこうという心意気が伝わってくるご挨拶でした。
それにしても染五郎さん、着物だとあまりわかりませんが、スーツの時に下半身はかなり恰幅よくなっていらしてちょっとびっくり。
二、晒三番叟
出演: 中村壱太郎 中村又之助 坂東玉雪 ほか
箱根権現で奉納された源氏の白旗が紛失し、騒ぎになっているところへ現れた曽我二の宮(壱太郎)。
周囲から怪しまれる二の宮は、奉納だと三番叟を踊り始めますが、実は、この二の宮は平忠度の娘 如月姫。やがて、姫は奪った源氏の白旗を使って布晒しを見せるのでした。
箱根権現前のいかにも歌舞伎らしい色鮮やかな舞台で繰り広げられる長唄舞踊。初見でした。
とにかく、如月姫の壱太郎くんがずっと出ずっぱり踊りっぱなしです。
可愛い容姿ながら実は闘うオンナ如月姫。
壱太郎くんのキレのある踊り。
引き抜きが二度あってパッと着物が変わったかと思えば、後半の晒さばき。
うちわの先に長い晒がついたものを両手に持ち、新体操のリボンのように軽やかに泳がせながら踊ります。
晒の先は決して床につくことはなく、しかもいつも左右均等の高さ。
手首のグリップを効かせて螺旋の軌跡を描いたり、晒の動きが本当に綺麗。
姫を捕らえて白旗を取り返そうとする佐々木小太郎と結城三郎の背中を台にして海老反りしながらも晒しは綺麗に空を舞っていたのには目を見張りました。
華やかで楽しい舞踊の中に、壱太郎くんの踊りの地力の高さを改めて感じた一幕でした。
三、秀山十種の内 松浦の太鼓
出演: 市川染五郎 中村歌昇 嵐橘三郎 市川高麗蔵 ほか
忠臣蔵外伝。
12月13日。雪積もる両国橋。
赤穂浪士の大高源吾(歌昇)は俳諧の宗匠 宝井其角(橘三郎)と出会い、、「年の瀬や水の流れと人の身は」という其角の上の句に、「明日待たるゝその宝船」と詠んでその場を去ります。
翌 12月14日。
隠居して自適の生活を送る旗本 松浦鎮信(染五郎)の屋敷で句会が開かれています。
招かれた其角から前日 源吾の詠んだ句のことを聞かされた松浦侯がその意味を考えていた時、隣の吉良邸から陣太鼓の音が聞こえ始めます・・・。
大高源吾・宝井其角と、この「明日待たるゝ・・」の句は「忠臣蔵」の中でも有名なエピソードでドラマなどでもよく採り上げられますが、上方歌舞伎にも「土屋主税」という同工異曲があります。
染五郎さんが大高源吾を演じた「土屋主税」 2011年1月の松竹座で観て、泣いたよね~(涙)。
染五郎さんの松浦侯。
さすがに憧れてよく観ていただけあって、時折「吉右衛門さんだ」と感じるくらい、よくなぞって勉強しているという印象。
隠居した旗本のお殿様にしては若すぎて些か貫禄に欠けるのはやむなしといったところですが、わがままで気分屋だけど、正義感が強く、愛嬌があって憎めない、愛すべき松浦侯を表情豊かに演じていらっしゃいました。
それにしても松浦侯、喜怒哀楽・・というか感情の起伏 激しすぎ(笑)。
討ち入りをワクワクしながら待っているかと思えば、なかなか討ち入りしないと機嫌悪くなったり、お縫さんが源吾の妹だからといってツンケンしたり、ついに討ち入ったと知るや、馬に乗って今にも助太刀に飛び出さんばかり。
いやはや、周りのご家来衆のご苦労、お察し申しあげます。
実に愛すべきお殿様で、客席からも笑いが絶えませんでしたが、そんなふうに笑える部分はあっても、旗本としての威厳や品は保っているところがまたすばらしい。
年を重ねるごとにさらにゆとりある大きな松浦侯になるのではないかしら。
大好きなお役を「誰よりも演じる回数が多くなるように、を目標にしております」と語っていた染五郎さん。
秀山十種の内でも代表的な演目と言われる「松浦の太鼓」。
ぜひ染五郎さんの持ち役にしていただいて、この先何度も観たいものです。
染五郎さんの松浦侯が初役なら、歌昇さんの大高源吾も初役。
序幕の笹売りに身をやつして人目を避けるような遠慮がちな風情から、終盤、討ち入り装束で現れて子細を語って聞かせる晴れ晴れとした様子へと変化がくっきり。
若々しい勢いも凛々しさもあって、よい武士ぶりでした。
太くよく通る声、キリリとしたキメ顔もピタリ。
橘三郎さんのどこか飄々とした其角もよかったな。
いかにも俳諧の宗匠らしいやわらかさもさばけた雰囲気もあって。
そういえば橘三郎さんは「土屋主税」でも其角をお勤めでした。
四、粟餅
出演: 市川染五郎 中村壱太郎
江戸の街中にやって来た粟餅売りの杵造(染五郎)とおうす(壱太郎)。
二人は粟餅をつきながら曲投げを見せたり、六歌仙の人々の様子を踊ったり、団扇太鼓を打ち鳴らしたりと賑やかに踊ります。
染五郎さんの杵造に壱太郎くんのおうすという組み合わせ。
花道を二人が駈け出してきた瞬間、場内がパッと明るく華やいだよう。
そのまま花道でちょっといちゃついたりして・・・眼福でした。
「団子売」と似た雰囲気の粋で明るく楽しい舞踊。
いかにもテキパキして元気な町人の女房 壱太郎くんおうす
そんなおうすと息もぴったりに粟餅をつきあげる染五郎さん杵造
粟餅を持ち上がるところなんて、本当のお餅のようでした。
杵造は六歌仙を踊り分ける、ということですが、これは正直のところよくわからない(笑)。
ここばかりはイヤホンガイドの解説を聞いて、ナルホド~と思いました。
いやしかし、踊り巧者のお二人の舞踊は、意味がわからなくても観ているだけで楽しいです。
最後に予告通りお二人で手ぬぐい撒き。
残念ながら私のところには飛んで来ませんでしたが、野球大好き染五郎さんの遠投も見られて

6月30日に始まった1ヵ月にわたる巡業も、いよいよ7月31日の厚木市で千穐楽。
27ヵ所 計50公演はこれまでの巡業で最多だそうです。
暑い中、各地で熱い舞台を見せてくれた染五郎さんはじめ一座の皆さま。
本当にお疲れさまでした。
とびきり楽しい舞台をありがとうございました。
金沢巡業 病みつきになりそう のごくらく度



私は石川県人ですが、生憎金沢公演の日は仕事で行けず、翌日の富山公演に行って来ました。富山でも充分楽しめましたが、石川で染五郎さんがどんなお話をしたのか気になっていたので、知る事ができて良かったです。有り難うございました。
金沢を堪能したようで、嬉しいです。
音楽堂は駅から近いし、音響も良いので好きな会場の1つです。でも、歌舞伎はまだ拝見したことがありません。狭いので、すぐにチケットが売り切れるのが難ですが。
それでも、県外の方に来てもらえるのはとても嬉しいし、有り難いです。
歌舞伎好きの石川県人としては、金沢に歌舞伎座出来て欲しいなぁ。あ、歌劇座はありますが(笑)21世紀美術館の近くです。
去年は平成中村座「怪談乳房榎」を4日間、今年は秋に中村屋の錦秋公演と、愛之助さんの公演が予定されています。
また機会がありましたら、金沢来て下さい。今度は是非お泊まりで。
はじめまして。
拙いブログをいつも読んでいただいてありがとうございます。
コメントもとてもうれしいです。
せっかく石川県での公演でしたのにお仕事では残念でしたね。
でも富山でご覧になれてよかったです。
金沢公演のレポが少しでもお役に立ててよかったです。
石川県立音楽堂、本当にいいホールでした。
染五郎さんも大変お気に入りのご様子で、とてもほめていらっしゃいました。
お隣の、多分東京からいらした方が、「巡業でちゃんと花道があるホールは
久しぶり」とおっしゃっていました。
そうそう、金沢で「怪談乳房榎」やっていましたね。
確か北陸新幹線開業記念公演でしたか。
てっきり音楽堂だと思っていましたが、歌劇座というのが別にあるのですね。
金沢は初めて旅行した時とても気に入って、その後何度か続けざまに訪ねたことが
あるのですが、今回本当に久しぶりで、金沢のすばらしさを再認識しました。
本当に、次回はぜひ泊まりでゆっくり訪れたいと思います。