2016年07月27日
時間は巻き戻せない 「グレイト・ギャツビー」
夢見る少女だった頃、ロバート・レッドフォードが大好きで、彼の出演する映画が公開されるたびに全部観ていました。
その頃観た作品の一つが「華麗なるギャツビー」。
まだ子どもでギャツビーの心情やあの世界観を理解するには未熟過ぎて、レッドフォードのハンサムぶりと退廃的で美しい画面や衣装のきらびやかさだけが記憶に残っていました。
2013年にはレオナルド・ディカプリオ主演で再度映画化されていますが、これは観ていません。
大学生になって英米文学を学んで、フィッツジェラルドの原作がアメリカ文学を代表する作品だということを知り、原書で読んで初めていろいろなことに気づいたり、持っていたイメージとの違いに驚いたりもしました。
この作品が舞台化、しかもミュージカルってどんな感じだろう(過去に宝塚歌劇で舞台化されていますが未見)と興味シンシンでした。
ミュージカル 「グレイト・ギャツビー」
作: F・スコット・フィッツジェラルド 「The Great Gatsby」
脚本: 羽原大介
演出: 錦織一清
音楽: 岸田敏志
振付: 川崎悦子
出演: 内博貴 相葉裕樹 愛原実花 大湖せしる 山口馬木也 RiRiKA
木村花代 コング桑田 ほか
2016年7月17日(日) 12:00pm ロームシアター京都 サウスホール 1階1列センター
物語の舞台は狂騒の時代と言われる1920年代のアメリカ。ニューヨーク・ロングアイランド。
証券会社で働くためにNYにやってきたニック・キャラウェイ(相葉裕樹)はある日、毎夜華やかなパーティを開く隣の豪邸の主 ジェイ・ギャツビー(内博貴)から招待状を受け取ります。
実はギャツビーは、ニックの従姉妹で、今は富豪のブキャナン(山口馬木也)と妻となっているデイジー(愛原実花)のかつての恋人でした・・・。
原作で描かれたエピソードはきっちり押さえつつ、わかりやすい物語の流れで手際のよい脚本。
岸田敏志さん作曲の楽曲は耳馴染みもよく、歌もダンスシーンも聴き応え、見応えある仕上がり。
原作は、ギャツビーのデイジーへの変わらぬ純愛を中心に置きながら、彼の負の部分や、アメリカが抱えている社会の歪み・・・貧富の差や人種差別など・・・が澱のように、物語を覆っていると思うのですが、そのあたりも丁寧に描かれていたと思います。
たとえば、
生まれながらにして裕福に育った白人至上主義のトム・ブキャナンと対照する形で描かれるプア・ホワイトを代表する存在のジョージ・ウィルソン。
働いても働いても貧しさから這い上がれないジョージの絶望感。
その妻でブキャナンの愛人でもあるマートルのヒリヒリするような上昇志向。
それぞれの前でいい顔しながら実はどちらにも心を寄せていないブキャナンの傲慢。
観ていて切なくなるようなスレ違いの会話もきっちり。
ただ、ショーアップされている分、原作を知らずに観た場合、このあたりの「芯の部分」がどれくらい伝わっているのかなという思いも少し。
あと、映画を観た時に感じた退廃的なムードは感じられなかったかなぁ。
久しぶりにこの物語を観て、やっぱりデイジーは好きになれないという思いを強くしました。
最初に「ロバート・レッドフォードにあんなに愛されてるのにデイジー何よ!」から入っている訳ですが(笑)、それを差し引いても、本人が意識しているかどうかは別として、上流階級特有の傲慢を「女であること」「美しさ」に包み込み、ギャツビーの思いに応えると見せて結局今の生活を手放すことができないデイジー。
あまりにも弱く、あまりにも打算的なデイジー。
2人が別れたあの日から、ギャツビーの時間は止まったままなのに、デイジーの時計は片時も休むことなく時を刻み続けていたことを、最後になって2人とも知る皮肉。
「時間は巻き戻せない」という言葉が切ないです。
あの最期の電話は本当はデイジーからのものではなかったけれど、
彼女からの電話だと信じたまま逝ったギャツビーは幸せだったのかな。
演出で気になることが2つ。
一つは、一昨年観た同じ錦織一清さん演出、内博貴さん主演のミュージカル「ザ・オダサク」でも感じたのですが、時折挟み込まれる無駄な小笑いがどうしても苦手。
丹下段平とか何ごと?という感じです。
脚本は違う人なので、演出家の好みということですね。
もう一つは、衣装がショボい(笑)。
スーツ着用の男優陣はともかく、女性は、「華麗なるギャツビー」のミア・ファローが着ていた1920年代アメリカファッションが大好きだったので、今回の舞台はみんな「ダサい普段着?」のように見えてしまいました。
ギャツビーを演じた内博貴さんは、イメージしていたよりずい分恰幅がよくなった印象でしたが(役づくりかな?)、美しいし歌も上手いし、ブキャナンに正体を暴かれて、「汚く稼いだ金を綺麗に使って何が悪い!」とそれまでの紳士ぶりから豹変するところもとても上手かったです。
このワク(錦織さん演出のJ枠?ではない作品でも観てみたいところですが、いろいろ難しいのかしら。
デイジーは愛原実花さん。
スタイル抜群でチャーミングなデイジー。
デイジー以外の女性は、ベイカー(大湖せしる)にしてもマートル(木村花代)・キャサリン(RiRiKA)姉妹(この姉妹の歌唱は圧巻)にしても強くてたくましい人ばかりの中にあって、ちょっと儚げな雰囲気。
台詞の声もよく通りますが、もう少し緩急が欲しいところ。
ギャツビーがいよいよブキャナンに2人のことを話す、という時になって「暑いわ、暑いわ」と繰り返すデイジーの言葉が、心の不安定さの現れというより、ただイライラしていてうるさいと感じてしまいました。
それから、ラスト近くのボブではない方の髪型(デイジーの若い頃?)がどうしちゃったの?というくらいイケてなかったので、そこはご本人もスタイリストさんもがんばっていただきたいところです。
デイジーの夫 トム・ブキャナンは山口馬木也さん(←実はこの人が一番のお目当て)。
クラシカルな白いスーツをピシリと着こなして、相変わらず濡れたようなセクシーな瞳で。
裕福に育ったエリートで、ある意味アメリカを代表するような選民意識の強いブキャナンを体現していました。
低音ボイスがよく響く歌声もステキで、「馬木也さんの歌声、初めて聴いたワ」と思っていたら、これがミュージカル初挑戦なのだそうです。
ブキャナンの大学の後輩でデイジーのいとこ、そしてギャツビーの隣人という、すべての人を繋ぐニック・キャラウェイは相葉裕樹さん。物語の語り手のような役回りも兼ねています。
ニックはこの物語の良心のような存在でしょうか。
それぞれの人たちに振り回されながら、少し醒めたやさしい目線を送っています。
歌もダンスもお上手だしアイドル系のビジュアルだし、Jの人かと思っていたら、テニミュの人だったのですね。
コング桑田さんがジョージ・ウィルソンのような役をやるのは珍しいと思いましたが、ギャツビー邸のパーティでは黒人バンドのメンバーとしてご活躍でした。
この日は終演後、女子チームのアフタートーク。
愛原実花さん、大湖せしるさん、RiRiKAさんの予定に急遽 木村花代さんも参戦。
ちょうど祇園祭開催中で、京都入してからあそこ行った、こんなことした、という女子トークから、大湖せしるさんのキスシーン披露大会に。
大湖さんは16年の宝塚歌劇団在籍中、最後の4年間を娘役に転向して、「ルパン三世」の峰不二子役に代表される色っぽい娘役が定着していましたが、男役時代のカッコよさを思い出しました。
京都会館がロームシアター京都になって初めてでした。
サウスホールは716席で、ウッディな落ち着いた内装。
1階は36席☓15列なので少し幅広ですが4列目から段差がついていてとても観やすいホールでした。
トイレも個室数多くてキレイ(←大事)。
何より、ロームシアターのある岡崎界隈は緑あふれた場所で、ちょっとしたお出かけ気分になります。
最前列だったので、ギャツビーのマンションがこんなに近く(笑)。
幕全体はこんな感じでした。
この公演を観てほどなく、井上芳雄さん主演、小池修一郎先生演出のミュージカル「グレート・ギャツビー」の上演が発表されました。
これも何かのサイン?(笑)
よい復習予習になりました(←この作品に失礼でしょ) のごくらく地獄度 (total 1602 vs 1606 )
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