2016年07月22日
松竹座 七月大歌舞伎 昼の部
今年の松竹座 七月大歌舞伎は五代目中村雀右衛門さん襲名披露興行。
芝雀さん時代からよく拝見していて、先代ともに「江戸の役者さん」というイメージが強かったのですが、「雀右衛門」という名跡は大阪に縁が深く、二世、三世の墓所は大阪にあるのだとか。
5月に墓参された雀右衛門さんご自身も「僕が生まれたのは大阪の病院」と5月の襲名披露茶話会の折におっしゃっていました。
中村芝雀改め
五代目中村雀右衛門襲名披露
七月大歌舞伎 昼の部
関西・歌舞伎を愛する会 第二十五回
2016年7月10日(日) 11:00am 大阪松竹座 3階2列センター
一、小さん金五郎
作: 大森痴雪
補綴: 戸部銀作
演出: 今井豊茂
出演: 中村鴈治郎 片岡孝太郎 中村亀鶴 中村児太郎 片岡松之助 大谷廣松 上村吉弥 中村錦之助 ほか
木津屋の若旦那六三郎(亀鶴)は、お崎(廣松)という許嫁がありながら芸妓お糸(児太郎)に入れあげ、家宝の茶入れを五十両で質入れしたため勘当されて太鼓持六ツ八となっています。2人を別れさせるよう頼まれた金五郎(鴈治郎)の計略にハマってしまったお糸は、同じ芸妓の小さん(孝太郎)に加勢を頼みます・・・。
喜劇味ある上方狂言。
今回初見でしたが、気軽な感じで楽しく拝見しました。
お江戸の役者さんも混じっていますが、鴈治郎さん筆頭に上方言葉を上手に操る役者さん揃いで違和感なく物語の世界をつくり出しています。
お糸に加勢して六三郎とくっつけようとする小さんと、六三郎をお糸と別れさせてお崎と結婚させようとする金五郎が丁々発止とやり合う中、互いに親が決めた許嫁であることがわかって急にラブラブになって、ラスト、小さん・金五郎、六三郎・お崎、新十郎・お糸という三組のカップルが階段の上と下でキマるラストには、ちょっと口あんぐり、というか、いかにも歌舞伎らしいなと苦笑い気味でしたが。
錦之助さん演じる広瀬屋の若旦那 新十郎が粋な遊び人。
茶入れの代金五十両欲しさに「私の体を買って」という小さんに、その心意気に免じて五十両をあげるという男気を見せたかと思えば、最後はべっぴんさん芸姑のお糸さんに惚れられるっていう、とてもいい役でした。
それとは逆に可哀想だったのは、金五郎に惚れているのに全く相手にされない髪結お鶴の吉弥さん。
いつもはクールビューティの吉弥さんですが、「悔しい~!」「びっくりぽんや」と表情豊かに楽しませてくれました。
児太郎くんお糸が綺麗で色っぽくて台詞もしっかり。
私が六三郎でもトーゼンお糸さんの方を選ぶワと思いました次第です。廣松くんガンバレ。
ニ、夕霧名残の正月 由縁の月
脚本: 今井豊茂
出演: 坂田藤十郎 中村雀右衛門 大谷廣太郎 大谷廣松 大谷友右衛門 片岡秀太郎 ほか
ここからニ幕 昼の部の襲名披露演目が続きます。
この幕間に襲名披露幕が登場。
明るい華やいでいて、雀右衛門さんらしい素敵な幕でした。
「夕霧名残の正月」は舞踊劇。
大坂新町の扇屋。
病でこの世を去った遊女・夕霧(雀右衛門)の四十九日。彼女の恋人であった藤屋伊左衛門(藤十郎)は、放蕩の末に家を勘当され、借金を抱え落ちぶれていますが、夕霧の死を知り、扇屋を訪ねました。起請を香華の代わりに手向けようとして気を失う伊左衛門。そこへ奥の襖が開き、在りし日の姿のままの夕霧が現れ・・・。
大店の若旦那 伊左衛門と遊女 夕霧の恋物語としては、「廓文章」(吉田屋)がポピュラーですが、ハッピーエンドの吉田屋に対して、悲しい結末の名残の正月。
短い舞踊劇ですが、まるで夢を見ているように(実際、伊左衛門の夢の中のお話なのでしょうけれど)幻想的で切なく、美しかったです。
雀右衛門さんが夕霧を勤められるのを初めて拝見しましたが、体を絞られた成果もあって儚げな風情が素敵でした。
そして特筆すべきは藤十郎さん。
あの色香とやわらかさ、放蕩のぼんぼんらしさ。
足の運びや台詞の滑舌など全盛期とは隔たりがあるかもしれませんが、それを補って余りあるものが。
「まだまだ若いもんには負けまへんでぇ」という藤十郎さんの声が聞こえてきそうです。
三、与話情浮名横櫛
木更津海岸見染の場/赤間別荘の場/源氏店の場
作: 三世瀬川如皐
出演: 片岡仁左衛門 中村雀右衛門 中村橋之助 片岡松之助 市川團蔵 中村歌六 中村梅玉 ほか
ご存知 お富与三郎。
江戸の大店伊豆屋の若旦那与三郎(仁左衛門)が木更津の浜見物をしているところへ、この界隈の顔役赤間源左衛門(團蔵)の囲われ者であるお富(雀右衛門)が通りかかり、互いにひと目惚れします。逢瀬を重ねる二人の関係を知った源左衛門により、与三郎は捕らえられ全身に三十四箇所の刀傷を受け生死の境をさまよいます。与三郎が死んだと思って海に身を投げたお富でしたが、和泉屋多左衛門(梅玉)に救われます。3年後、「切られ与三」の異名をとるならず者となった与三郎はある日、兄貴分の蝙蝠安(歌六)に伴われて鎌倉・雪の下の源氏店にたかりに入ったところ、死んだと思っていたお富と運命的な再会をします。
今回は、「見染」「源氏店」の他に「赤間別荘の場」が入って、与三郎とお富の密会とその発覚を描いてよりわかりやすくなっているということですが、この場は2013年年5月の明治座花形歌舞伎でも観た記憶があります。
直近に観たのが花形歌舞伎だったせいもあってか、とても「大人の」源氏店だと感じました。
仁左衛門さんの与三郎を観るのは2011年の南座顔見世以来5年ぶり。
相変わらずのカッコよさで、時の流れを感じさせません。
大店のぼんらしい品のよさを残しつつ、命の危険に晒され、お富さんに裏切られたと恨みに思う世を拗ねたところがきっちり見える与三郎。
切られ与三となって蝙蝠安とともに花道から登場した時、前幕で鳶頭金五郎とともに同じように花道を歩いた時とは別人のように背筋を伸ばして反り返って歩く背中に、この人の流転の人生が見えるようでした。
個人的な感触としては、仁左衛門さんは、以前観た頃に比べると、与三郎をとても緻密に理詰めでつくりあげている印象。
あの有名な、「え、御新造さんぇ、おかみさんぇ、お富さんぇ、いやさ、これ、お富、久しぶりだなぁ~」という台詞を放ちながらお富ににじり寄って行くところも、一つひとつの足の運び、仕草、声色、目線まで計算しつくされた印象を受けました。
いやそれにしても、あのカッコよさ、色っぽさは何なんでしょ。
見染の場の「羽織落とし」の美しさ、源氏店で蝠安がお富と話している間、外で所在なげに石を蹴って待つ姿、家の中での体育座り(笑)、惜しげもなく晒したナマ脚、最後にお富を抱きしめる時の腕・・・そのどれもフレームに入れて飾っておきたいくらいです。
雀右衛門さんは一途に与三郎を思っていることが感じられるお富さん。
ああ、この人だったら与三郎が死んだと思うと後を追って海に飛び込むくらいはするだろうなと納得いく役づくりでした。
情に厚く、その分、源氏店のちょっと高び~で取り澄ました感じは若干薄めながら、強請に動じず啖呵を切る気丈さも見せてくれました。
蝙蝠安の歌六さんが出色。
卑屈で胡散臭い小悪党感の中に愛嬌も散りばめて。
脅す時の強面、兄貴分として与三郎に見せる温かさ。
初役というのが信じられないくらいです。
多左衛門で梅玉さんが出て来た時、椅子から転げ落ちそうなくらいびっくりしたのですが(だって、それまでの演目どれにも出演されていないし、そもそも松竹座に出ていらっしゃるなんて知らなかったし)、冷静で知的で、やさしさと包容力がにじむ多左衛門、よかったです。
木更津海岸の場で、与三郎とともに客席を練り歩く鳶頭金五郎は、橋之助さん。
私が観た日は祇園甲部総見で舞妓さん、芸妓さんたくさんお出ましで、客席がとても華やかだったのですが、「綺麗な花が咲いてるなぁ~」とご満悦の与三郎さん。
松竹座では雀右衛門襲名披露興行をやっている、夜の部が特に面白い、と口もなめらか。
「そういえば来年は芝翫さん襲名披露もこの松竹座で・・・」と橋之助さんの芝翫襲名にも触れられていました。やさしい。
松竹座の大向うさんはここぞというツボを押さえて揃っていていつも気持ちいいのですが、さすが襲名披露。夕霧の、お富さんの、登場で一斉に「京屋っ!」とかかる声。
「源氏店」のラストは絶妙の間合いで「京屋!」「京屋!」「京屋!」と三連続でした。
もちろん「松嶋屋っ!」も のごくらく度 (total 1599 vs 1600 )
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