2016年07月21日

愛の喜びに命捧げても何も惜しくない 雪組 「ドン・ジュアン」


donjuan.jpg2004年 カナダで初演されたフレンチ・ミュージカル。
モリエールの戯曲やモーツァルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」等で広く知られるスペインを舞台とした「ドン・ジュアン伝説」を、フラメンコをベースにした情熱溢れる珠玉の名曲でミュージカル化した作品です。

フレンチ・ミュージカルを宝塚歌劇で日本初演するのは、「ロミオとジュリエット」「太陽王」「1789」に続いて4作目。
全作品観ていますが、4作とも全部好き。

宝塚歌劇 雪組公演
ミュージカル 「ドン・ジュアン」
DON JUAN  un Spectacle Musical de FELIX GRAY
International Licensing & Booking of «Don Juan» NDP Project
潤色・演出: 生田大和
出演: 望海風斗  香綾しずる  彩風咲奈  永久輝せあ  有沙瞳  彩みちる/
英真なおき  美穂圭子 ほか

2016年7月9日(土) 4:00pm シアター・ドラマシティ 12列センター



女と酒、そして快楽を求め続け、数多の女達を魅了するセクシーなプレイ・ボーイ ドン・ジュアン(望海風斗)。
ある夜、いつもの如く女との愛を愉しんでいたドン・ジュアンは、彼女の父である騎士団長(香綾しずる)の怒りに触れ、決闘を申し込まれます。ドン・ジュアンは決闘に勝利し、騎士団長は「いつか、愛がお前への罰になるだろう」という言葉を遺して亡くなります。
騎士団長の言葉が呪いのように亡霊の姿で付きまとうようになる中、ドン・ジュアンは、騎士団長の石像を作る彫刻家の娘 マリア(彩みちる)と運命に導かれるように出会いますが、マリアには結婚を誓い合った恋人 ラファエル(永久輝せあ)がいました・・・。


見応え、聴き応えありました。
いかにも海外ミュージカルらしく、歌で表現される場面が多く台詞少なめ。
フラメンコを基調にした華やかなダンス、騎士たちの足を踏み鳴らすタップのような躍動感あふれるダンス。
重厚で壮大な楽曲も印象的な旋律で耳に残ります。
セットは高さのある二層になった回り舞台。シンプルながら効果的でした。

主演の望海風斗さんは宝塚の中でも歌唱力に定評のあるスターさんですが、その望海さん筆頭に出演者は皆熱唱。コーラスも、「ローマの休日」チームと組を分けて少人数でやっているのを忘れるくらい重層的で厚みのある歌声を聴かせてくれました。
芝居、群舞、立ち回り含めて、雪組精鋭と専科のお2人で、クオリティの高い舞台を見せてくれました。


自分の娘を穢されたからと騎士団長の方からドン・ジュアンに決闘を申し込んで敗れ去ったのにもかかわらず、周りの人たちはドン・ジュアンを「騎士団長殺し」とまるで罪人のように言うのが個人的に納得いかず、「あいつは騎士団長殺しだ」と聞くたびに、「だってあれ、決闘じゃん」と心の中で言い返していたくらい、ストーリーのその部分は納得できなかったのですが、ドン・ジュアンのあの自堕落な生き様を見るとそういう言われ方もむべなるかな、とも思います。

それにしても、毎日酒と女に溺れて剣の稽古や鍛錬なんて全くしていないドン・ジュアンに、騎士団長はもちろん、戦場からただ一人生き残って帰ってきた現役兵士のラファエルも全く歯が立たないって、ドン・ジュアン どれほど剣の天才なんだっていう・・・(というか、他の2人が情けないのか?)

一度は愛して結婚したらしき妻 エルヴィラ(有沙瞳)の言うことも、献身的な友情を示すドン・カルロ(彩風咲奈)の言葉にも耳をかさず、父 ドン・ルイ(英真なおき)に対しては憎しみすら感じているように見えるドン・ジュアン。
遊んだ女たちは口では彼のことを恨みながらも、心はまだ寄せている様子。
そんなドン・ジュアンがただ一人、心から愛したマリア。

この2人の出会いのシーンがことのほか印象的でした。
亡霊に導かれるように、騎士団長の大きな石像の前にたどり着くドン・ジュアン。
その石像を見て怒り心頭のドン・ジュアンの表情が、石像の影からひょいと現れたマリアを見て一変します。
他の女たちのように着飾っている訳でもなく、エプロンをかけ、化粧気もなく粉まみれのマリアに心惹かれるドン・ジュアン。
Aimer 愛の喜びに命捧げても何も惜しくない と歌うドン・ジュアン。

マリアの方もドン・ジュアンにシンパシーを感じながらも、「あなたと私は住んでる世界が違う」と告げます。
「でも今日はあなたと私の世界が交わったのね」と。

マリアに会いたい一心で騎士団長彫像完成除幕式に姿を見せるドン・ジュアン。
取り囲む人々に騎士団長殺しと蔑まれ、石像に跪いて許しを請うよう言われても言う通りにするドン・ジュアン。
それでもマリアに会わせず連れ出そうと揉み合う中、「君の住んでる世界へ来たぞ!」とマリアに向かって叫ぶドン・ジュアン。

「彼は私に会いに来ただけよ」 「こんな像があるからいけないのね」とマリア。
完成したばかりの石像にハンマーを振りかざすマリア。
大きく崩れ落ちる騎士団長の石像。
その前で手を取り合う2人。
周り始める運命の歯車。

ビジュアル含めて、とてもドラマチックな一幕幕切れ。


どうしようもない男なんだけど女がほっとけない色気があり、狂気もチラつく悪の華でありながら、心の底にピュアな部分も持っている・・・
望海風斗さんはこんな役がとてもお似合い。
圧倒的な歌唱力はもちろん、美しさ、品のよさと荒々しさを兼ね備え、立ち回りも鮮やか。
望海風斗の魅力炸裂。当たり役のひとつになるに違いありません。

彩みちるちゃんといえば何といっても「るろうに剣心」の弥彦の好演が記憶に新しいところですが、マリア、とてもよかったです。
少し切れ長の目でいわゆるお姫様タイプの娘役さんとは印象が異なりますが、それも含めて、凛とした雰囲気がマリアにぴったり。
お芝居はさすがに上手く、台詞も聞き取りやすくて歌もしっかり。

役柄的にはこちらの方がウエイト大きいかもしれないエルヴィラの有沙瞳さん。
演技にも歌唱力にも定評ある娘役さんですが、数々の歌唱、感情の振り幅広いエルヴィラを見事に見せてくれました。
実力と美しさを兼ね備えた娘役さんですが、個性の強い役が多い印象です。

そのエルヴィラに秘かに思いを寄せているらしいドン・カルロの彩風咲奈さん。
突き放されも疎まれても、ドン・ジュアンを見捨てず忠告し続ける真摯さはどこからくるのでしょう。
狂言回し的な役柄を兼ねていて、ドン・カルロの歌で物語は幕を開けます。
歌上手くなったねぇ~。
あの超歌ウマの美穂圭子さんと渡り合ってひけを取らない力強い歌唱。
長身脚長のビジュアルに歌唱力という武器が加わって、雪組の正三番手ナルホドと納得。

プロローグの兵士たちの中に、超イケメンがいる!とよく見たら永久輝せあさんでした。
金髪をアシンメトリーに伸ばした髪型が、ロミジュリ初演の柚希さんロミオを思い起こさせました。
「女は仕事なんかせず家に」という保守的な考えを持っていて、それがマリアを束縛していることに気づきもしない若さの傲慢で、ある意味ドン・ジュアンと同類かもしれないラファエル。
だからドン・ジュアンにとって、「最期の切り札」的存在になったのでしょうか。
どこにいても目立つ華やかビジュアルながら暗い瞳も印象的。歌もダンスも殺陣もハイクオリティ。
元より注目の若手男役さんですが、「ひとこちゃん、いよいよキター!!」という感じです。

もう一人、忘れちゃならない騎士団長 亡霊の香稜しずるさん。
亡霊は、「エリザベート」のトートのように、ドン・ジュアンの心を投影した存在なのかな。
操っているようでいて、それは結局ドン・ジュアンが自ら選び取った運命のように感じました。
香綾さん、あのメイク、コワイから(笑)。
存在感もすごかったですが、舞台上にいながらその存在感の消し方もすばらしかったです。気づいたらすぐ後ろにいる、みたいな。


とても面白かったし、宝塚向きとも、逆に宝塚の枠をはみ出しているとも思える作品。
もう少し話も役柄も膨らませたら、大劇場の本公演、イケるのではないかしら。



情熱に生きて 愛のために散った懐かしき友よ その名はドン・ジュアン のごくらく度 (total 1598 vs 1600 )


posted by スキップ at 23:50| Comment(0) | TrackBack(0) | TAKARAZUKA | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック