2016年06月08日

笑顔の余韻 イキウメ 「太陽」


taiyo2016.jpg「太陽」は2011年、私が初めて観たイキウメの舞台。
前川ワールド全開の脚本のおもしろさは元より、演劇的な訴求力という面でも強く印象に残った作品です。
2014年には蜷川幸雄さんの演出で上演され、今年は前川さんによる同名の小説が出版され、映画化も。

この5年間イキウメを観てきて、再演作品を観るのは初めて。
自分の感じ方がどう変化しているかも含めて、とても楽しみにしていました。


イキウメ 「太陽」
作・演出: 前川知大 
美術: 土岐研一   照明: 松本大介   音楽: かみむら周平
出演: 浜田信也  安井順平  伊勢佳世  盛隆二  岩本幸子  森下創  大窪人衛/
清水葉月  中村まこと

2016年6月4日(土) 6:00pm ABCホール B列センター



2011年 初演の感想はこちら
2114年 蜷川さん演出版の感想はこちら


バイオテロ後の近未来。
ウイルスのキャリアとなって頭脳明晰、肉体は強靱で老いを知らないけれども太陽光に弱く夜しか活動することができない「ノクス」と、感染せずに生き残り、貧しい生活を続ける「キュリオ」。
あるキュリオがノクスを殺す事件をきっかけに経済封鎖された村。10年後、人口は激減し貧困生活を送るキュリオの村の、経済封鎖が解かれるところから物語は始まります。


ちょうどこのフライヤーの文字のように、びっしりと電球を並べた大きな丸い太陽がホリゾント中央に存在感を放ちます。
それが一斉に光を放って、日が昇ったことを表すオープニング。
それはまた同時に、一人のノクスの死を意味するのでした。

この太陽の舞台装置はずい分違うな、と思いましたが、無機質な雰囲気は損なわれないまま。
脚本も演出も、特に大きな変更はなくて、それは取りも直さず初演版の完成度が高いことを示しているのでしょう。
キャストも、結の清水葉月さん(初演の加茂杏子さんはその後イキウメを退団)、初演から客演を充てていた結の父・生田草一の中村まことさん(初演は有川マコトさん)以外の劇団員は全く同じ配役。鉄板です。大窪人衛さんなんて、ほんと、18歳の少年にしか見えないもの。


個人的な感触として一番印象的だったのは、
キュリオとして生きる生田草一とその友人でノクスとなった医師の金田洋次に、
よりフォーカスされていると感じたことです。

それは、初演からそうだったのかもしれないし、
鉄彦と森繁という若者2人に力点が置かれた(ように感じた)蜷川版
を観た後だからかもしれないし、
今回 草一を演じた中村まことさんがとてもよかったからかもしれません。

心ならずも結のノクスへの転換に手を貸すことになった金田。
ノクスとなって、まるで感情のない笑顔で話す結を見て号泣する草一。
そんな2人を悲痛な面持ちで見つめた後、草一に土下座して謝る金田。

「帰れよ。朝になるぞ」と草一。
「君と朝を迎えよう。太陽に背を向けては生きていけん」と金田。
「最初からそう言ってる。帰れよ、頼むから」と草一。

この2人のやり取りが、とても切なくてとても好きだなぁ、と。
演じる中村まことさんも安井順平さんもすばらしかったです。
初演を観た時も蜷川版でも、金田は自殺するのだろうな、と思ったのですが、
何故だか今回は、思い直して生きる道を選ぶような気がしたのは、中村まことさん草一の
「帰れよ、頼むから」がとても温かく聞えたせいかもしれません。


森繁が克哉の悪意によって手錠で繋がれ、そこに夜明けが迫ってくる場面は、初演時はヒリヒリするような緊張とドキドキと何とかしなきゃという思いで座席から腰が浮きそうでしたが、今回はさすがにそこまでではなかったです。このあたりは再演の功罪かな。


ノクスとなった結が得たものと失ったもの・・・
ポジティブで精神的に強靭になったけれど、人の苦しみや悲しみを思いやったり共感することができず、
自分の父親が泣く理由ももはやわからない結を目の当たりにして、
手にしていたノクスに転換する当選通知を自らの意志で粉々に破り捨てる鉄彦。
それを見てニヤリと笑う森繁。
ここで暗転して終演。

そうそう、これよ!と思いました。
言葉を発しなくても、説明を加えなくても、あの森繁の笑顔がすべてを物語ってくれて、
彼らの未来は決して平坦ではないに違いないけれど、それでも希望を託すことができて、
ノクスとキュリオの今後の生き方に、観る者のイマジネーションを掻き立ててもくれます。
あの余韻が残るエンディングがとても好き。

寓話的なSFの形を呈して、能力や種による差別とか、選民意識、被害妄想や自分が持たないものへの妬み、異種共存など、様々な問題意識を孕んでいますが、「人が人として人らしく生きる」という普遍的な人間の摂理を描いた物語なのだと改めて思いました。



私が観た翌日 6月5日がこの公演の大千秋楽だったのですが、さらにその翌日の夜になって、
伊勢佳世さん、岩本幸子さんの退団が発表されました。
とても驚き、残念にも思いましたが、その発表文に (ここ
「『太陽』は現劇団員の個性と強く結びついていて、役をシャッフルすることがほぼ出来ない」
と前川さんが書かれているのを読んで、今回の再演がどれほど貴重なものであったかを思い知り、
それを観ることができた幸せに感謝する思いでした。
そして、
「二人の退団を先にお伝えしてから公演すると、 さよなら公演みたいになってしまい、劇団が是としているものからかけ離れてしまう」
という言葉が、いかにも前川さんらしい、イキウメらしいとも思ったのです。

次のイキウメの舞台にお二人がいらっしゃらないこと、もうこのキャストで「太陽」を観られないことを、心から残念に思いますが、今後活躍の場を広げられる伊勢さん、俳優そのものを辞されるという岩本さん、そして二人を送り出すイキウメの皆さまの未来に幸多からんことをお祈りしています。


これがオリジナルに近い形で上演する最後の「太陽」 のごくらく度 (total 1575 vs 1580 )


posted by スキップ at 23:31| Comment(2) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。
私も、太陽の再演を見てきました。
その後発表された退団にとても驚き、もしかしたらもう再演はないのかも。。。と思うと、観ることが出来て本当に良かったと思いました。
その思いにとても共感したので、通りすがりにコメントしてしまいました。
これからも、イキウメの舞台は観続けたいと思います!
Posted by at 2016年06月17日 11:26
♪通りすがりさま

はじめまして。
コメントありがとうございます。

伊勢さん、岩本さんの退団はとても驚きましたし、残念なことですね。
おっしゃる通り、もしかしたら「太陽」の再演はもうないかもしれませんし、
あったとしても今回とは全く別の作品になるような気もします。
お互いに今回観られて本当によかったですね。

それでも、私もこれからもイキウメの舞台は観続けて、応援して
いきたいと思います。
Posted by スキップ at 2016年06月17日 22:52
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