2016年06月01日

できるさ、おまえはまだ生きてる Team申 番外公演Ⅳ 「男たちの棲家 ~ドッコイ!俺たちはここに居る~」


teamsaru2016.jpg佐々木蔵之介さんが主宰する演劇ユニットTeam申。
2011年 東日本大震災の年に「今、僕らができること」をテーマにこの番外公演が始まりました。

今回で4回目ですが、1回目から全作品コンプリートしています。
前3作が朗読劇だったのに対して申年の今年は「12年に一度の申祭り」「お芝居も踊りもトークショーも?! 内容盛り沢山のお祭り公演」と告知されていて、とても楽しみにしていました。


京都芸術劇場開場15周年記念
京都芸術劇場 春秋座 芸術監督プログラム
Team申 番外公演 Ⅳ
「男たちの棲家~ドッコイ!俺たちはここに居る~」
脚本・演出: 長部聡介
出演: 佐々木蔵之介  市川猿之助  佐藤隆太

2016年5月21日(土) 1:00pm 京都芸術劇場 春秋座 1階2列センター



析が入り、幕が開くと八重澤瀉と三ッ猿かな?二つの紋が色違いで染め抜かれた手ぬぐいで顔を隠した白拍子。
舞台上手には天上に向かって伸びる縄。
お囃子を聞くまでもなく、「きゃ~ん!『恋の手習い』じゃーん!!」とテンション上がります。
桜の花が散りばめられた華やかな着物で舞う猿之助さん。
衆知のとおり踊りの名手ですが、手ぬぐいを鏡に見立てて紅をさしたり、手紙を書いてみせたり、流れるような舞踊の中で所作の一つひとつがとても細やかで綺麗。
その中に白拍子花子実は・・の恋のときめきも情念も織り交ぜて。
この舞踊だけでもいつまでも観ていたいくらいでした。

後でパンフレット見たら、八千代座では「道行」を踊られるとか。
それも観たかったなぁ~・・・というか、猿之助さんの「京鹿子娘道成寺」 フルで観たいです。

踊り終えた花子が静々と下手にはけるとそこに重なるザワザワとした声。
舞台がはねた後の役者さんやバラシをしている裏方さんたちの声のように聞こえました。


再び幕が開くと、壁沿いに鏡と化粧前が並び、中央には大きなテーブルがある楽屋のような部屋。
その床を這いまわるルンバ。
ルンバを使っているのは佐藤隆太さんで、ここに派遣されている清掃員。

そこへ登場する佐々木蔵之介さん。
何だか思い入れたっぷりに「マクベス」の「バーナムの森」の台詞を朗々と謳い上げます。
木の枝を剣に見立てて(笑)。

2人の会話から、ここはとある劇場の楽屋で、今日は何も上演されていない日。
もうすぐ閉館時間で早く出て行かないとシステムでロックされてしまう、ということが明らかになります。
にもかかわらず、「自分は出番を待っている役者だ」と言い張る蔵之介さん。

噛み合わないやり取りをしているうちに時間切れとなり、楽屋に閉じ込められてしまった2人。
仕方がないので舞台を通って外に出ようとする隆太くんに、「舞台に出るのか?」と問う蔵之介さん。
そうして隆太くんが舞台へと向かう扉を開けると、向こうからいきなり入ってくる白塗りの男・・猿之助さん。


驚く隆太くんを尻目に、「やっぱりダメだ。舞台は光だらけで眩しくて怖い」
「またダメだったか?でもあそこまでは行けたんだろう?」
「次は何で行く?」「白浪だ!」みたいな会話を続ける2人。
仲のよい役者仲間のようで、隆太くんの話なんて全く耳に入らないように動きまわったり、
台詞言ったり差し入れのかりんとう食べたり(笑)。
(そうそう、差し入れのくだりで猿之助さん「ふたばのだいふく」とおっしゃっていました。
出町ふたばのことかしら)


ここからの流れは、まるで芝居と芝居を愛する人たちへのオマージュのよう。
次々繰り出される芝居の台詞を聴きながら、感激したり、これまで観た作品の場面が
フラッシュバックしたり。

猿之助さんの「知らざあ言ってきかせやしょう」や「首が飛んでも動いてみせるわ」が聴けるなんてね。
蔵之介さんが自分の恋バナをする時に、「こんな塀くらい軽い恋の翼で飛び越えました」とロミオ の台詞を言えば、猿之助さんがジュリエットで応じたり、蔵之介さんが風呂敷をマント代わりに貫一になって「来年の今月今夜、俺の涙で必ず月を曇らせてみせる・・」と言い始めれば、猿之助さんが走り出て来て「そんな酷いことを、貫一さん~」とお宮になるという具合。
ここのお宮さん、楽屋にあった土瓶をハンドバッグに見立てて右腕にかけていて爆笑しちゃいましたが、浴衣にステテコ?で羽二重とって白塗り落としかけた姿で瞬時にジュリエットになったりお宮さんになったりできる猿之助さん、そして本当にそう見えてしまう猿之助さん。やっぱりスゴイ。
「久々にこれどう?」と猿之助さんが蔵之介さんに渡した台本が「空ヲ刻ム者」で、「歌舞伎は・・イヤだ」と蔵之介さんが答えるのも笑ったな。

そんな2人に呆れた清掃員隆太くんは出て行こうと舞台から客席へ(本当に客席に登場)。
客席の肘掛けに座ったりしながらブツブツ文句言っていると、劇場のあちこちからいろんな役者さんたち様々な台詞が聞こえてきます。

「コーデリア・・・」とリア王の台詞が平幹二朗さんの声で聞こえたきた時には震えました。
平さん主演の「リア王」は蜷川シェイクスピアの数ある名作の中でも マイ ベストスリーに入る作品。
あの台詞をあの声でまた聴けるとは。
わかったもの、わからなかったもの含めて他にもたくさんの台詞が流れましたが、これもパンフレットにさわりが掲載されていてありがたい。
平さん以外に阿南健治さんの声はわかりましたが、有川マコトさんもいたのね。
そして驚いたことに、「あの女優さんはどなたかしら」と思っていたら声の出演に女優さんはいなくて、
あれって段之さんだったのね。

そんな声たちに恐れをなしてまた楽屋に戻る隆太くん。
猿之助さんの提案で無理やりしりとりをすることになって、それまで隆太くんが言う言葉に散々文句つけていた2人が、「芝居」という言葉が出てきた時、
「いいな」
「芝居はいいな」
と穏やかな笑顔になったのが印象的でした。


それまでぼんやりと感じていたことが明らかになる真実。
近づく警備員の声に、「捕まるぞ」と隆太くんが忠告しても、「奴らには俺たちは見えない」と静かに言い放つ2人。

蔵之介さんと猿之助さんはともに役者(志望)でしたが、どちらも志半ばで不慮の死を遂げ、舞台や芝居に思いを遺してこの劇場を「棲家」としている存在。
隆太くんが客席で聞いた芝居の台詞も、かつてこの舞台に立ち、魂を込めた役者さんたちの声だった訳です。

「じゃあなぜ俺にはおまえたちが見える?」
「おまえ、舞台に出たかったんだろ」

隆太くんはかつて役者を目指してオーディションを受けて落ちた経験があったのでした。
自分ではその気持に蓋をしてきたけれど、心の奥底にあった舞台への情熱が、2人の姿を見せ、声を聴かせたのでしょう。
自分の気持ちにもう一度向き合う隆太くん。

「俺なんかどうせダメだ」という隆太くんに
「できるさ、おまえはまだ生きてる」
と応える猿之助さんの言葉が強く心に響きました。

「おまえの行くとこはそっちじゃない」
2人に背中を押されて、煌々とした照明に照らし出された舞台へ足を踏み出す隆太くん。

芝居や役者という題材をとっていますが、これは「生きている」ことへの賛歌であり応援歌なんだなと思いました。
そういう意味でも、「今、僕らができること」というこの公演の趣旨にぴったり。
たくさん笑って感動して、生命の尊さと有り難さを感じつつ、背筋を伸ばして生きていかなければという元気もいただいて、とても贅沢な時間でした。


お芝居の後はトーク&抽選タイム。
CM出演されているスポンサーからの豪華景品の数々・・・当たらなかったけど。
箱から引いた番号を読み上げる時にも3人それぞれの個性が表れておもしろかったな。

今後の予定を聞かれた猿之助さんが、「ずっと歌舞伎座」とややヤサグレて言った後、
「僕は幸四郎のおじさんと生まれて初めて一緒に芝居する」とおっしゃったのにオドロキ。
そうだったんだー。息子さんの方とはよく共演してきたのにね。

猿之助さんは京都に来るとあちこち行くところがあって忙しいそうです。
「昨日(5/20)も舞台稽古終わって本番までの2時間足らずの間にも出かけてた。それぐらい中におれんの」って蔵之介さんにツッコまれていました。
佐藤隆太くんは「逆にホテルから一歩も出ないで過ごそうと思って」だそうです。


猿之助さんがこの後の八千代座公演のこと、博多座で「ワンピース」公演中に地震にあった時のお客様との会話などを紹介されて、「この後、僕たち3人 募金箱を持ってロビーに立ちます」と。
終演後、待合せをしていたので、ササッとロビーに出たらまだそれほど混雑していなくて、猿之助さんの募金箱に新券で用意しておいた心ばかりの募金をさせていただくと、「ありがとうございます。お気をつけてお帰りください」と笑顔でおっしゃって、自ら右手を出して握手もしてくだって、驚くやらうれしいやら。
預けていた荷物を受け取ってロビーを出る頃には長蛇の列になっていて、もう握手もされていないようでしたのでラッキーでした。


過去の3公演はこちら。
いずれもとてもよかったですが、Ⅱ の醍醐寺がとりわけ印象的。
あの時いただいた散華、今も大切に持ち歩いています。

番外公演 Ⅰ 「家守綺譚」 (2011年)
番外公演 Ⅱ 「幻色江戸ごよみ」 (2012年)
番外公演 Ⅲ 「お文の影」「野槌の墓」 (2013年)



uryu1.jpg uryu2.jpg

こちらは募金をしたらいただいた瓜生通信の表裏表紙。
こんな素敵なものまでいただいて、何だかとても得した気分 のごくらく度
(total 1572 vs 1577 )


posted by スキップ at 23:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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