2016年05月24日

人は来て 人は去っていく 「グランドホテル」


grandhotel.jpg動乱の1920年代ベルリン-豪華絢爛なホテルに行き交う人々の光と影を描き出す群像劇。
今回のトム・サザーランド演出版では、GREEN と RED
2つのキャストと2つの結末が用意されました。
プリンシパルキャストが発表された時、「ヅカファンならGREENよね」と当然のごとくGREENのチケットを取ったのですが、その後、結末が違うという情報が流れ、REDにも興味を持ったものの日程的に厳しく、最終的にはGREENを観てからREDを観るかどうか決めようと思っていました。

GREENを観ている途中までは「これで十分かな」とも思っていたのですが、あのラストで、一列に並んだ人たちの上に被せられるヒトラーの演説と、そこから赤ん坊を抱えて走り出すエリックを観ていたら涙がぶわっとあふれてきて、この結末がREDではどう変わるのか俄然興味が湧き、終演後にリピーターチケットを購入。
マチソワでGREEN → RED を観るというトラップにまんまとハマったのでした。

ミュージカル 「グランドホテル」
原作: ヴィッキー・バウム
脚本: ルーサー・ディヴィス
作詞・作曲: ロバート・ライト&ジョージ・フォレスト
追加作詞・作曲: モーリー・イェストン
演出: トム・サザーランド
振付: リー・プラウド
音楽監督: マイケル・ブラッドリー
翻訳・訳詞: 市川洋二郎
出演: GREEN/中川晃教  宮原浩暢  戸井勝海  昆夏美  藤岡正明  
           湖月わたる  樹里咲穂  光枝明彦  安寿ミラ ほか
     RED/成河  伊礼彼方  吉原光夫  真野恵里菜  藤岡正明  
         湖月わたる  土井裕子  佐山陽規  草刈民代 ほか

2016年5月7日(土) 12:00pm 梅田芸術劇場メインホール 1階4列上手 (GREEN)
/5:00pm 2階3列センター (RED)



1928年 ナチスの不穏な影が忍び寄るベルリン。
回転扉が旅客を迎える格式ある豪華ホテル「グランドホテル」を訪れる様々な人々がが行き交い、その人生が交錯する2日間の物語。

黒衣のダンサーが舞台中央に置かれたベルを鳴らすのが合図のように動き始めます。
重厚感のあるホテルのフロント。
「こちらグランドホテル ベルリン。ご用件は?」

回転ドアが回る中、このホテルに集う人々が次々現れ、重厚なコーラスとともにオッテンシュラッグ医師が登場人物を紹介して歌うプロローグの The Grand Parade がまず圧巻。
20分位あったでしょうか。
登場人物それぞれの歌声が重なり、同時に彼らの人生が重なり、物語が回り始めるこのオープニングで一気に引き込まれました。


重い病を患い、人生の最期の時間をこの豪華ホテルで過ごしたいと願うユダヤ人の会計士オットー
借金に追われながら見栄を張り、優雅に軽薄に生きる貴族フェリックス・フォン・ガイゲルン男爵
倒産寸前の会社を立て直そうと躍起になっている社長プライジング
ハリウッド女優を夢見るタイピスト フレムシェン
引退ツアー中の峠を超えたプリマバレリーナ グルシンスカヤと彼女の付人 ラファエラ
今まさに出産しようとしている妻を残して仕事に就いているホテル従業員エリック

それまで接点のなかった人々・・年齢も性別も身分も経済力も違う人々の人生が、このグランドホテルという場所で交錯し、そこから生まれる様々な物語。
そこに没落貴族や特権階級、ナチスの台頭とユダヤ人の迫害、世界恐慌といった時代背景が巧みに織り込まれて重厚なドラマに仕上がっています。
友情が生まれ、老いに悩み、愛が芽生え、死が訪れ・・・それはその人たちばかりの一夜の物語ではなく、まるでこの世に生きるすべての人々の人生の縮図のよう。

「グランドホテル、ベルリン。いつも変わらない。誰かが来て、誰かが去っていく。ひとつの命が終わり、ひとつの命が生まれる。ひとつの心が引き裂かれ、ひとつの心が高鳴る。ひとりの男が牢獄へ行き、ひとりの男がパリへ旅立つ。いつも変わらない。時は過ぎる、淡々と。人生も回り続ける。では、私はもう一日、いるとしようか。」


Bad End とされるGREENは「恐怖からの渇望、未来への希望」
Happy End というREDは「人生賛歌」 
なのだとか。

その違いはエンディングに凝縮されていると思うのですが、
GREEN版では、軍靴の音とヒトラーの演説が響き渡る中、ホテルの従業員たちが突然、旅立とうとする客たちを襲い、暴力を振るい、衣服や持物を略奪し始めます。

そんな中、生まれたばかりの赤ん坊を抱いたエリックが現れると、傷つき倒れた人々は彼にコートを着せかけ、鞄を持たせ、背中を押して外へと送り出します。
この後、ファシズムと独裁と戦争の道をひた走ることになるドイツ。
エリックが進む道に待ち受けているものは決して平坦ではないかもしれないけれど、新しい命の誕生が希望の象徴のように私には感じられました。

一方のRED。
客たちは互いに手を取り、悲しいことなど何もなかったかのように笑顔でホテルから旅立って行きます。
やはり笑顔のホテル従業員たちの手で降り注がれるフラワーシャワーの中、まるで凱旋パレードのように客席通路を行く彼ら。

なるほど、確かに明るいハッピーエンド。
ですが、全く違うようでいて、傷ついたGREENの人々と同様、この笑顔のREDの人々もまた1928年のドイツに生きていることは動かし難い事実で、その先を考えずにはいられないのです。

悲劇の中に生きるエネルギーが感じられるGREEN
輝く笑顔の向こうに時代の翳りが見え隠れするRED

どんなことがあろうとこの世界は続いていくし、人は生きていかなければならない。
フレムシェンが言うように、「誰だって死に向かっている」のだけど、だからこそ今を精一杯、自分らしく生き抜きたいと願う二つの物語。

この物語は二つでひとつ。
表裏一体なのだなと思いました。
(ちなみに、REDを観る前は、「ハッピーエンドてどんなのだろう。もしかして男爵は死なないとか?」と思っていたのはヒミツです

ただ、細かい違いはわからないのですが、エンディングが異なるだけでなく、そこに至る空気感のようなものまで違って感じられる二つの演出はすばらしいと思いました。
そうそう、演出といえば、舞台観ていていろんな場面で「タイタニック」がフラッシュバックしてどうしてだろうと思っていたのですが、どちらもトム・サザーランドさんの演出だったのね・・(今さら)。改めて調べてみたら、出演者も結構重なっています。

もう一つ、GREEN と RED で私の印象の違いを挙げるとすれば、
GREENはグルシンスカヤと男爵の出会いと恋がメインストーリーで、REDはオットーと男爵の友情により重心が置かれた感触です。
このあたりは、演出というより演じる役者さんの持ち味の違いや、私個人の役者さんの好みによるものかもしれません。
そのあたりの検証はまた改めて。


・・・という訳で「キャスト編」につづく

posted by スキップ at 23:25| Comment(2) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
三度こんばんは!(連投すみません・・・)
スキップさんもトラップに見事に嵌りましたね!
私もGREENを観た後にREDのチケット追加しちゃいました(笑)。
あのオープニングは本当に圧巻でした。
ああ、スキップさんと語り合いたいです!
キャスト編も楽しみにしておりますねv
Posted by 恭穂 at 2016年05月25日 22:55
♪恭穂さま

三度いらっしゃいませ。
何度でも大歓迎です!

どちらか一方を観ると絶対もう一つの方も観たくなるという
・・・トム・サザーランドさんにしてやられましたね(笑)。

あのオープニングだけでも1本観たような重量感で
目も耳も足りないくらいでした。
もし映像化されたら何度も一時停止して見ちゃいそうです(笑)。

私も恭穂さんとたくさん語り合いたいです。
この作品のことばかりでなく他にもイロイロ(笑)。
今年はぜひその機会がありますように!
Posted by スキップ at 2016年05月26日 00:38
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