2016年03月30日

まっことめぐしい家族たち 「裸に勾玉」


magatama.jpgこのところ毎年新作を投入してくるMONO。
今年は劇団初となる時代劇・・・といっても弥生時代の物語で、ちょっと「時代劇」というイメージとは違います。
そこに生きるのは、まるで”今”の私たち。


MONO 第43回公演 「裸に勾玉」

作・演出: 土田英生
出演: 水沼健  奥村泰彦  尾方宣久  金替康博  土田英生
/山本麻貴  もたい陽子  高橋明日香  松原由希子

2016年3月25日(金) 7:30pm ABCホール XA列センター


物語: 弥生時代、邪馬台国と隣合わせの狗奴(くな)の国。
村はずれに暮らすのは、やさしいけれど気が弱い長男、何をするにも不器用な次男、
口がうまい三男と彼の2人の妻、そしてしっかり者の妹。
村人から疎外されながらも、仲良く楽しく暮らす彼らのもとに、ある日奇妙な服装
をして不思議な言葉を話す男が現れます。
邪馬台国のスパイかもしれないと、村人に見つかる前に男を追い出そうとする兄たち。
育ての父 オトヒコの教えを守り、毅然として「かくまう」と言い放つ妹・・・。


弥生時代にスーツを着た現代人が紛れ込んだことによる顛末を描いた物語ですが、こういうタイムスリップ的なものというと、たとえば「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に代表されるように、迷い込んでしまった側の視点で描かれることが大半だと思いますが、これは迷い込まれた側、受け容れる側の戸惑いや混乱を描いているのがまず新鮮でした。

彼らが生きる二つの時代の違いを表現する「言葉」のつかい方が秀逸。
「ひとり」を「ぴとり」、「どうした」を「とうちた」・・・濁音がなく半濁音が目立つ弥生人たちの言葉が何とも可愛いらしく耳に残ります。
ありがとうという感謝の気持ちを表す時は、手話のありがとうのように右手を出して「かたじけなし」。
愛おしいという意味で使われる言葉は「めぐしい」。

一方、現代から来たサクライはいつも私たちが耳にしている言葉。
「ボキャブラリー」とか「ラブラブ」とか。
三男シコオとその2人の妻 ウシメ、マトリメの諍いを聞いていたサクライが、「それ、嫉妬でしょ」というくだりでは、「この人たち、嫉妬という感情なかったんだ」と驚いたり。

そんなことをしながらも、互いに歩み寄り、理解し合っていく彼ら。
何をするのも下手な次男アクタが、サクライの言葉を覚えてすぐリピートする才能(?)を見せて笑わせます。
爆笑しながら聞いた「ショックでめちゃ凹む」という言葉を、終盤泣き笑いしながらもう一度聴くことになるなんて。


ここで描かれるムラ社会は、
皆と同じことをしない者への排他的な同調圧力だったり
マイノリティへのいわれのない差別だったり
弱者から強者に転換した者が見せる傲慢だったり
大義なき暴力(戦い)だったり
そのどれもが現代の私たちに繋がって思い当たることばかり。

それを笑いに包みながら、説明的でも説教臭くもなく見せていく土田さんの作劇。
構成の上手さとそこに綿密に組み入れられたメッセージの切れ味にはいつものことながら感心しきり。
そして時折放たれる鋭い言葉たち。

この何とも「めぐしい」家族たちがずっとハッピーでいられますようにと観ながら願ったことはもちろん叶わず、追手が迫り来る終盤に
「家長たから 俺か残る」
「それは俺かやる」
「いや 俺のしことだ」
3人の兄たちが見せた優しさ、切なさにウルウル。

そしてその後、「あれ?泣いてんの?」と言われているようなエンディング。
この結末については、「タイムスリップものって、現実に戻る時をどうするかっていうのが難しいところなんだよね」とアフタートークで土田さんがおっしゃっていましたが、ここで「今」に引き戻してくれるところも土田さんの優しさでしょうか。
それが束の間の夢であったか現実のことなのかはともかく、あの家族たちと出会った後のサクライが、妻や上司とこれまでと同じ関係を続けていくのかどうかも興味のあるところです。


竪穴式住居が左右に一棟ずつ、真ん中に高床式倉庫がしつらえられたつくり込んだ舞台装置。
そういえば、狗奴の国というのは、2013年に土田さんが脚本を書かれた「二都物語」に出てきた国名だということを後でHP読んで知りました。
その時、弥生時代の資料を読んで「ああ面白いなあ」と思っていたのが今回の作品のきっかけだとか。
作家さんの発想ってすごいなぁ。

基本的にあて書きなのだと思いますが、MONOの役者さんは本当に一人ひとりがその役にぴったりハマっています。
特に、長兄オユマローの金替康博さん、次兄アクタの水沼健さんの空気感はすばらしい。
客演の女優陣4名も前作「ぶた草の庭」に続いての出演ということでアンサンブルもよかったな。
兄弟の妹アマリを演じた松原由希子さんのよく通る澄んだ声としっかり前を向く視線が印象的でした。


この日のアフタートークは土田英生さんと水沼健さん。
水沼さんが着替える間に土田さんが、MONOを立ち上げたいきさつや、大学の1年後輩である水沼さんがかつて劇団を辞めて東京へ行った時、追いかけてアパートに居座った話などを一人トーク。
水沼さんは「今回は趣向を変えて僕が質問して土田さんに答えてもらう形に」といくつか質問を用意していたようですが、相変わらずユルユルでした。


でもあんなにたくさん話す水沼さんを見たのは初めてかも のごくらく度 (total 1540 vs 1546 ) 


posted by スキップ at 23:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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