
「奇跡は諦めない奴の頭上にしか降りて来ない」
「ワンピース」には様々な登場人物による数々の名言があって、ネットで少し検索しても「名言集」のようなものがたくさん出てきますが、今回のスーパー歌舞伎Ⅱ「ワンピース」の中では、私は二幕でイワンコフの放つこの言葉が一番好き。
この後、「奇跡ナメんじゃないよォ!!」と続く訳ですが、ほんと、努力もせずにただ待っているだけでは奇跡なんて起こすことできないのよね、と、これからの自分への戒めとも励ましともしたいです。
スーパー歌舞伎Ⅱ 「ワンピース」
原作: 尾田栄一郎
脚本・演出: 横内謙介
演出: 市川猿之助
スーパーバイザー: 市川猿翁
出演者等詳細は 1回目の記事ご参照
2016年3月21日(月) 11:00am 松竹座 1階3列センター
2回目ということもあり、舞台から近い席ということもあって、1回目には見逃していた細部にも気づき、さらに理解も深まり、より一層楽しむことができた「ワンピース」。
二幕の滝の場面では、イナズマに、サディちゃんに、ボン・クレーに、思いっきり水を飛ばされましたがそれもまた楽し。
二幕ラストの通称「ファーファータイム」では、通路を練り歩くたくさんの役者さんたちやスッピンな囚人の右近くんともハイタッチしてテンション上がってご機嫌

そして三幕 白ひげとエースの最期。
「この戦闘によって受けた刀傷 実に二百六十と七太刀」から始まるマルコの台詞。
「その誇り高き後ろ姿には・・・あるいはその海賊人生に、一切の逃げ傷なし!!!」 でついに落涙

ざっとした感想は1回目に書きましたので、今回は印象に残った登場人物と役者さんについて。
以下、個人的に好きな役 (not 役者さん)順。
白ひげ: 市川右近さん
「ワンピース」のことをほとんど知らない私は白ひげも今回初めて認識したキャラクター。
白ひげ海賊団の大ゼリ回転しながらの登場は「ヤマトタケル」みたいだし、白ひげの最期の闘いぶりは、そのビジュアル含めてまんま「大物浦」の知盛だし。
自分を刺したスクアードに「バカな息子をそれでも愛そう」という度量の大きさ。
「最後の船長命令だ! よぉく聞け…白ひげ海賊団!お前らと俺はここで別れる!全員必ず生きて、無事新世界へ帰還しろ!」という覚悟。
で、トドメに上述したマルコの「一切の逃げ傷なし」の台詞。
もうヤラレっ放しです。
これを演じる右近さんが、重厚感があって本当にこの役にハマっていて。
それにつけても澤瀉屋さんの層の厚さが印象的。
猿弥さん筆頭に、笑三郎さん、笑也さん、春猿さん、猿三郎さん・・と、出てくるたびに、「この人もいた、あ、この人もいるんだった」と思いながら観ていて、満を持したように三幕から登場する右近さん白ひげのラスボス感ハンパない。
マルコ: 尾上右近さん
今回の松竹座公演から加入した右近くん。
新しく加えられたサディちゃんも、ピンクのヒョウ柄とい、美しさといい、そのSっぷりといい大好きですが、何といっても不死鳥のマルコ。
元々、軍団のNo.2といったポジションの人に惹かれるタイプの私に今回の白ひげの物語のマルコがどんぴしゃ。
白ひげが「俺をおいていけ」と言った時に、とても辛そうに、それでも意を決したように毅然として「行こう」と仲間に促す姿にホレボレ。
右近くんはつくり込んだメイクや、身体能力の高さで見せてくれますが、何といってもその声。
あのラストの台詞を放つのが右近くんで本当によかったと思います。
スクアード: 坂東巳之助さん
巳之助くんが演じた3役・・・ゾロ、ボン・クレー、スクアードの中では、ボン・クレーの評判がダントツですが、そしてもちろんボンちゃん大好きですが、私はスクワードの方が好み。
赤犬にまんまと騙され白ひげを刺してしまう、その後、事実を知って男泣きするスクアード。
やはり巳之助くんも口跡、声ともによい役者さんなので、それがよく出ていたのもスクアードだと思います。
ボン・クレーの方でいえば、本水の立廻りからの幕外の引っ込みも特筆もの。
巳之助くん、劇場中の耳目を一人で惹きつけられる大きな役者さんになったなぁ、と感慨無量。
連続バク宙でひっこむアクションアンサンブルの役者さんとともに、巳之助くんボン・クレーのおかま六方。忘れられません。
エース:平岳大さん
自分の出自に屈折した思いを持ち、悲壮感漂ういかにも悲劇のヒーローな火拳のエース。
一旦は仲間とともに逃げようとしたものの、白ひげを侮辱する海軍をどうしても許せず、白ひげをおいて行くことができずに再び戦火の中に戻るエース。
「お前に助けられる日が来ようとはな」というのは先ごろ「附けの會」で右近くんが挙げた好きな台詞ですが、最期に「ちゃんと助けてもらえなくてごめんな」という言葉にも胸キュンです。
平岳大さんも松竹座から新加入組ですが、長身が舞台に映えて、目元なんてお父様にそっくり。
あんなに甘い声と語り口だったかしら、と気づいたり、赤犬とのあの大旗の殺陣では、あんなにできる人だったとは・・・とは意外なオドロキ。
サンジやってもイナズマやってもおっとこ前、超カッコいいハイキックも見せてくれた中村隼人くん。
ジンベエ、黒ひげ どちらも安定感たっぷりの市川猿弥さん。
イワンコフ、センゴク・・善悪2役を振り幅大きな演技で見せてくれた浅野和之さん。
言葉に忘れずにはさまれる「ニョン語」が何気にツボだった「恋はいつでもハリケーン」ニョン婆 市川笑三郎さん。
・・・もう次々心に浮かんで書ききれません(笑)。

そしてもちろん市川猿之助さん
主役のルフィと、アマゾン・リリーの女帝ハンコックと、赤髪のシャンクスの3役。
一幕ではルフィとハンコックの早替りが見せ場にもなっていますが、まぁ、澤瀉屋さんの早替りは見慣れていますので・・(汗)
召使たちに向かって「バチン」と音が聞こえそうなウィンクしたり、ラストの小林幸子とか(笑)、ハンコック楽しそうでした。
ルフィの腕がびよ~んと伸びる時のダンスも、サーフボードに乗った宙乗りも、あんなにノリノリな猿之助さん初めて見たというくらい。
演出して、全体に目を行き渡らせながら3役やるって本当に大変だったと思いますが、さすがのスーパーぶりでした。
2回の観劇は、3階の宙乗りお迎え席と1階の水かぶり席。
それぞれのよさを楽しむことができて、自分にでかしたゾといいたい。
1階の間近で観て感じるライブ感は何ものにも代えがたいですが、本水がザンッて落ちてくるところや、劇場全体を揺るがすようなプロジェクションマッピング、床に映る凝った照明などはやはり3階から観た方がマル。
要するに、どちらからも見なさいということでしょうか(笑)。

楽しかった

この作品を歌舞伎で、と最初に聞いた時は「どうなるのかしら」と思いましたが、原作を大切にしつつ、歌舞伎への敬意を込め、最新テクノロジーを駆使する一方でマンパワーをこれでもかと見せてくれる、本当に芝居を愛する人たちがつくり上げた作品。
そして何より、演じる役者さんたちが皆楽しそうで、それが客席の私たちにも伝わって、この上なくハッピーになれる舞台でした。
観るたびに楽しくなるワンピース のごくらく度


