
「リンカーンやん!」と思いました。
見覚えのあるリンカーンの肖像画を小奇麗にした感じで
男の人にしか見えない(笑)。
そして舞台を観た日。
そこに立っていたのは、まさしくリンカーンその人でした。
宝塚歌劇 花組公演
ミュージカル
「For the people —リンカーン 自由を求めた男—」
作・演出: 原田 諒
出演: 轟 悠 英真なおき 高翔みず希 瀬戸かずや 鳳真由 桜咲彩花 仙名彩世 水美舞斗 柚香光 亜蓮冬馬 ほか
2016年2月14日(日) 12:00pm シアター・ドラマシティ 21列センター
リンカーンについて私はそれほど詳しい訳ではなくて、
共和党から選出された初の大統領だということ
奴隷解放を訴えて、南北戦争へと走ったこと
そして、あの有名な「人民の人民による・・」というゲティスバーグ演説
くらいでしょうか。
この作品は、弁護士でイリノイ州議会議員でもあった若き日のリンカーンが、自分の理想を実現するために国政に出て、一度は政敵に敗れ挫折するものの、本当に目指すべきは「ホワイトハウス」ということに気づき、やがてアメリカ合衆国第16代大統領となるまでが一幕。
二幕では、奴隷解放という強い信念を持って南北戦争を北軍の勝利へと導き、その6日後に凶弾に倒れるまでの生涯を描いています。
南北戦争というと「風と共に去りぬ」がすぐ思い浮かぶくらい、南軍に馴染みがあるのですが、北軍側から描いているのも新鮮でしたし、何よりアメリカ史の勉強にもなりました。
ほんとにタカラヅカって、私にいろんなことを学ばせてくれます。
贔屓組でなくても贔屓スターがいる訳ではなくても、良質の作品には感動できるというお手本のような舞台でした。
理想と現実の狭間を強い意志で乗り越えていくリンカーンを軸に、あの時代の揺れるアメリカの問題も描かれ、思想の違いから対立するライバルの存在やリンカーンの夫婦愛、親子の葛藤、師弟の敬愛、などが細やかに描かれていて、見応えのある作品に仕上がっていました。
リンカーンはもちろん、登場人物いずれもキャラクターが立っていて、それぞれにドラマがあって、何度もウルウル。リンカーンは、法廷で殺人罪に問われた黒人少年を弁護して無罪を勝ち取る冒頭をはじめ、妻メアリーとの出会いの場となったパーティでは服が濡れてしまった黒人メイドを気遣うなどリベラルで公正な面が強調される一方、劣勢にもかかわらず南北戦争に一歩も引かぬ強い意志、そして息子からは反発されるというネガティブな面まできっちり描かれていて人間味たっぷりで好感。
演じる轟悠さんは、主役というだけではなく存在感が抜きん出ています。
話題の顎髭もお似合いでビジュアル完璧。
歌唱は迫力ありますし、今回はかなり踊っていらしてうれしいオドロキ。
Government for the people ~ とあの有名な演説を力強い歌で表現する演出も、
歌う轟さんリンカーンもすばらしい。
南北戦争に勝利した直後、階段を上る途中で銃弾に倒れる後ろ姿の美しさ。

プログラム裏表紙のこのシルエットもステキ。
二番手の役は本当なら柚香光さん演じるフレデリック・ダグラスということになるのでしょうが、
瀬戸かずやさんのスティーブン・ダグラスの方がより印象が強かったです。
リンカーンの生涯の政敵であり恋のライバルでもあったスティーブン。
思想は違っても、国を思い憂える気持ちは通じ合い、リンカーンの憲法改正に協力もして、やがて病に倒れる最期もヒーロー感たっぷり。
演じる瀬戸さんは立ち姿も凛として美しく、いかにも頭も育ちもいい白人のエリート然。
スティーブンが手強くないとまたリンカーンも引き立たないという重要な役柄で、轟さん相手に一歩もひけをとらないところもお見事でした。
柚香さんのフレデリック・ダグラスは柚香さん自身の演技が云々というよりフレデリック自身の描き方がこの作品では少しもの足りなかったかなぁ。
脚本自体がリンカーンの物語で、差別される側の黒人にまでは踏み込めなかった感じ。
柚香さんは黒塗りで眼も光鋭く美形は光っていましたし、失意のリンカーンを勇気づけるアカペラから始まる歌もとてもよかったです。
そうそう、手錠をかけられた黒人奴隷たちが奴隷商人に鞭で打たれ、彼らの苦しそうなうめき声が響くシビアなシーンから始まるプロローグ。
場面暗いしみんな黒塗りなので誰が誰だかさっぱりわからず、その中のカップルが手を取り合って客席通路を逃げて行ったのですが、物語の後になって、「あの時君と一緒に逃げた」というフレデリックの台詞を聴いて、「おー。あれ、カレーくんだったのか」とわかった次第です(笑)。
水美舞斗さん演じるエルマーはもうけ役。
リンカーンの助手ながら、息子であるボビーの唯一心許せる存在。
スプリングフィールド時代から爽やかな美青年っぷりで目をひきましたが、何と言ってもその悲劇的な最期

そのボビーは子ども時代が聖乃あすかさんで成長してからは亜蓮冬馬さん。
どちらも大きいんですけど(笑)。
亜蓮くんは使われ方を見ていると花組期待のホープのように感じられますし、実際実力もあると思いますが、お顔立ちに特徴ありすぎて役の幅を狭めているような気が少しします。
娘役さんはあまり活躍の場がなくて、リンカーンの妻 メアリーの仙名彩世さんとフレデリック・ダグラスの妻 アンナの桜咲彩花さんが目立ったところでしょうか。
仙名さんは「社交界の花」といった形容がぴったりな華やかな美しさで歌声ものびやか。リンカーンとボビーの間で悩む母としての顔も見せてくれました。
桜咲さんは黒塗りで顔がわからず、「あれはべーちゃんか?べーちゃんなのか?」と思いながら観ていたのですが最後まで自信が持てず(笑)。
リンカーン亡き後、誰もいない階段。
まるでリンカーンが立っているかのようにピンスポットがあたり、そこに跪いて手をつく柚香フレデリック。
白い燕尾服にシルクハットの轟リンカーンが現れ、残された者たちの力強い合唱が響きわたる中、スティーブンもエルマーもスポットに照らし出されて。
みんなが For the people ・・・誰もが自由に暮らせる国をつくろうとする希望が感じられたラストでした。
木製の大階段が場面によって形を変えたり、物理的な上下の位置や心理的な距離を表したりする装置もとても印象的でした(美術: 松井るみ)。
For the people~ という主題歌の歌詞を知りたいのだが外箱公演もル・サンク出せばいいのに のごくらく地獄度



