
国立劇場を楽しく打ち出された後、タクシーで歌舞伎座へ。
運転手さんに行先を告げると、「ダブルですか。すごいですね。そんな人あんまりいないんじゃないですか」と言われました。
私の周りにはゴロゴロいますが、何か?(笑)
半蔵門→東銀座は地下鉄だとちょっぴり面倒ですが、タクシーだと10分かからないくらい。
「直侍」観たら、きっとお蕎麦が食べたくなるに違いないということで、開演前に富士そばに駆け込んでお蕎麦いただく余裕もありました。
ちなみに、いただいたのは「ゆず鶏ほうれん草そば」(お腹ペコペコだったので画像はない)。初めていただきましたが、おいしかったです。
歌舞伎座 壽初春大歌舞伎 夜の部
2016年1月16日(土) 4:30pm 歌舞伎座 1階1列センター
一、猩々
出演: 尾上松緑 中村梅玉 中村橋之助
「猩々」中国の伝説の霊獣で、無類の酒好き。
その猩々が、酒売りから買った酒を飲んで上機嫌に謳い踊るという舞踊。
明るくおめでたい演目なので、初春に上演されることが多いようです。
楽しい舞踊ですが あの広い舞台に黒紋付でズラリと並ぶ囃子方さん、華やかながら格調高く品のある背景画や衣装を観ていると、「あぁ、歌舞伎座だぁ」と思いました。
松竹座とも国立劇場とも、もちろん浅草公会堂とも一線を画した格式と威厳。
舞踊のことはよくわからないのですが、3人とも端正で品もお行儀も良い踊りという印象。
中では梅玉さんが、お酒を楽しんでいるという茶目っ気が見えて可愛かったです。
二、吉田絃二郎 作 秀山十種の内 「二条城の清正」
二条城大広間の場/淀川御座船の場
出演: 松本幸四郎 中村魁春 松本金太郎 大谷桂三 市川高麗蔵 坂東彌十郎 市川左團次 ほか
史実にもある関ヶ原の合戦後の徳川家康と豊臣秀頼の「二条城会見」を題材にした演目。
秀吉への恩を忘れず秀頼に仕える加藤清正が、秀頼と家康の対面に病身をおして同席し、秀頼を守りぬくというお話です。
歴史好き、大河ドラマ好き、かつ関ヶ原は西軍贔屓なのでこのあたりの史実にも結構詳しい方だと思いますが、歌舞伎で観るのは初めてでした。
歌舞伎座で会ったお友だちに「あれって、真山青果なの?」と聞いたくらい、動きの少ない台詞劇(←私の真山青果のイメージ

二条城大広間の場は緊張感にあふれ、淀川御座船の場は清正-秀頼の主従愛に心奪われたから。
その中心にいたのは松本金太郎くん。かつて染五郎さんも勤めたという秀頼役ですが、この対面の時、秀頼は18歳ぐらいだったと思われ、10歳の金太郎くんではいかにも時期尚早
・・・はもちろんそうなのだけど、よくまぁ、あれだけの量の台詞覚えてちゃんと感情込めて話して、というだけでおばちゃん、胸いっぱい。
毅然として家康に位負けしない品の高さと豊臣家嫡子としてのオーラを放ち、しかもその美少年ぶりときたら・・・最前列かぶりつきにもかかわらず、オペラグラスでガン見したよね。
幸四郎さんの清正は、いかにも無骨で一徹という清正の雰囲気がよく出ていました。
家康相手に一歩もひかず、ひたすら秀頼を守ろうとする清正は本多佐渡守を圧するほどの大きさと貫禄が十分でした。
帰りの御座船。
ようやく大坂城も見えるところまで来て、
「じい そちは死んではならぬぞ」 と秀頼。
「死にはしますまい。じいはいつまでも生きておりますぞ」と清正。
この後、待ち受ける悲劇をお互いに呑み込んでいるような二人に涙

三、玩辞楼十二曲の内 廓文章 吉田屋
出演: 中村鴈治郎 中村歌六 市川寿猿 中村吉弥 坂東玉三郎 ほか
放蕩の末に勘当された藤屋の若旦那伊左衛門が恋人の夕霧太夫に会いたい一心で紙衣姿で吉田家を訪れます。主の計らいで座敷に迎え入れられた伊左衛門は姿を見せた夕霧と痴話げんかを始め・・・。
これもともすれば意識を失いがちな私にとっての危険演目・・・だけど全然寝なかった。
というか、今回の歌舞伎座、四演目とも全く眠くなりませんでした・・・演目がどれもおもしろかったのもありますが、最前列だから寝ちゃいかん!と緊張していたのかも(笑)。
「吉田屋」というと仁左玉が最強で、鴈治郎さんだとまずビジュアルで、ちょっとなぁ、と思ってしまいます。
が、それを補うくらいの、いかにも大店のぼんぼんらしいおおらかさや愛嬌があって、可愛らしい伊左衛門はんです。
仁左衛門さんの比べるといく分子どもっぽい造形かな。
玉三郎さんの夕霧はもう、登場した時からオーラ全開。
懐紙で隠していた顔を露わした途端、客席からため息ともどよめきともつかぬ声が。
吸い寄せられるようにうずっと観てしまって、他のものが目に入らなくなったコマル。
客席に背を向けて、金糸の鮮やかな鳳凰や大輪の緋牡丹が描かれた打掛けを披露するところなんて、たぶん口開けて観ていたと思います。
凄味を感じるくらいの美しさなのだけど、可愛さもあるところがすばらしい。
さり気なくきっちり鴈治郎さんのイ菱の紋の入った袱紗を見せていました。
吉田屋喜左衛門夫妻が歌六さんと吉弥さんできっちり。
四、雪暮夜入谷畦道 直侍
作: 河竹黙阿弥
浄瑠璃 「忍逢春雪解」
出演: 市川染五郎 中村芝雀 中村吉之助 松本錦吾 中村東蔵 ほか
悪事を重ね追われる身の直次郎(染五郎)は、雪深い入谷の蕎麦屋で按摩の丈賀(東蔵)に出会います。
丈賀が、恋仲の遊女・三千歳(芝雀)のもとに療治に行くと知り、直次郎は手紙を託した後、ひと目会いたいと忍んでいきます。直次郎は三千歳と束の間の逢瀬を楽しみますが、そこへ捕手が迫り・・・。
この演目、高麗屋の若旦那贔屓としてはハズせないところですが、期待以上でした。
染五郎さんの直次郎。
あの端正なお顔が眼光鋭く、常に周囲に気を配って追われる者の緊張感とやさぐれ感を出しつつ、元は御家人の息子という育ちのよさ、優しやや情も垣間見せ、かつ「堕ちていく」アウトローの色気ね(贔屓目全開)。
雪の道をそろりそろりと歩いたり、傘をパッと開いたり、手ぬぐいでほっかむりしたり、お蕎麦食べたり、手紙書いたり、股火鉢する姿までもが色っぽい。
ほんと、カッコよかったなぁ。ナマ脚たっぷりだし(笑)。
台詞の声もとてもよかったです。
三千歳と二人の場面は、連れて行けないけれど殺していくことなんてとうてい出来ない、辛く切ない思いがあふれていました。
こんなの見せられると、染五郎さんで観たい役がまたグンと増えます。
芝雀さんの三千歳は、観る前は染五郎さんとではバランスが(見た目的にも年齢も)・・と思っていましたが、あまり気にならなくて、いかにも一途に直次郎を想っている情の深さと儚げな風情が出ていてよかったです。
東蔵さんの丈賀も、朴訥とした中に誠実で人のよい感じがにじみ出てよかったな。
しんしんと降り積もる雪。
老夫婦が営むひなびた蕎麦屋。
三千歳の目の前で捕手に囲まれる直次郎。
その雪のように静かに広がる世界がとてもドラマチック。
はぁ~、染五郎さん直はん、もう1回観たい のごくらく度


