2016年01月19日

松竹座 壽初春大歌舞伎 夜の部

IMG_7558.jpg週末に東京で三座の歌舞伎を観てきて、浅草はともかく、国立劇場も歌舞伎座もさすがの人数が出演。
それに比べると松竹座はかなり省エネ版だなぁと改めて感じました。
もちろん、小品ながら楽しい演目が並んでいて、見応えはたっぷりですが。


松竹座 壽初春大歌舞伎 夜の部
2016年1月14日(木) 4:00pm 松竹座 1階左側



夜の部はこの三演目。

hatsuharukatsura.jpg  hatsuharutogitatsu.jpg  hatsuharushibahama.jpg


一、桂川連理柵  帯屋
出演: 坂田藤十郎  中村壱太郎  坂東竹三郎  中村寿治郎  片岡愛之助  中村扇雀 ほか


帯屋の養子にして主である長右衛門(藤十郎)が23歳も年下の隣家の娘お半(壱太郎)と契りを結んでしまったことから起こる悲劇を描いた「桂川連理柵」。
長右衛門を追い出して店を乗っ取ろうとする義母おとせ(竹三郎)とその連れ子の儀兵衛(愛之助)、長右衛門を信じ守る養父繁斎(寿治郎)、妻お絹(扇雀)などの愛憎を描いた帯屋の場です。

文楽では観たことがありますが、歌舞伎で観るのは実は初めて。
前後の流れもわかっているので「帯屋」だけの見取り上演でもおもしろく拝見しました。

捨て子だったにもかかわらず養子となり、店の主として取り立てられたのですから長右衛門は本来デキる男のはず。
それがふとした過ちから窮地に立たされ、進退極まる様が、何とも上手いです、藤十郎さん。
優柔不断っぽいのですが、悩める中年?男のうじうじした感じの中に若い娘にも惚れられる色気がちゃんと見えるあたり、さすがです。
よくできた女房お絹さんや、息子思いの年老いた父繁斎の前で、お半ちゃんが身ごもっていることも、正宗の刀を紛失してしまったことも、それゆえ死を覚悟していることも言い出せず、まるで運命に導かれるようにお半を追って桂川の入水へと突っ走ってしまう長右衛門が切ないです。

その長右衛門の運命のお相手 お半とお半に横恋慕する丁稚 長吉の二役は壱太郎くん。
長吉はただのアホの丁稚ではないしたたかさも垣間見せ、お半は可憐。

帯屋のお店を狙うおとせの竹三郎さんとその息子 儀兵衛の愛之助さんのヒール母子が揃って活き活き楽しそう。
特に竹三郎さんおとせのあのネチネチ長右衛門を責める嫌味っぷり(ほめてます)。
お二人ともネイティブなのでストレスなく達者な関西弁が聴けるのもよかったです。二、研辰の討たれ
作: 木村錦花
脚色: 平田兼三郎
演出: 今井豊茂
出演: 片岡愛之助  市川中車  中村壱太郎  片岡松之助  嵐橘三郎  
市川笑也  坂東秀調 ほか


野田版ではない研辰を観るのは、染五郎さんが辰次を演じた2012年の「二月花形歌舞伎」以来です。善通寺の場面で染ちゃんグリコポーズやってたなぁとか思い出しちゃったよ。

作、脚色とも同じ方なので、多分同じバージョンだと思われます。
木村錦花さんの「研辰の討たれ」は1925年初演だとか。

町人から武士に取り立てられた辰次を妬み、出自が武士でないことを馬鹿にして仲間外れにする同僚。
立身出世のためになりふりかまわず奥方様にお追従する辰次。
家老に侮辱されたことを恨んで闇討ちし、事の重大さに怯えながらも自分の話で持ちきりになることを喜ぶ辰次。

平井兄弟の仇討ちから逃げまわった挙句、ついに善通寺で捕まり、姑息に何度も命乞いをする場面はおかしさの中に哀しみも滲み、野田版を待つまでもなく、人の命の尊さ、復讐の連鎖の虚しさが感じられます。
同時に、群衆心理に対するシニカルな目線も。
・・・まるで今の世界にもそのままあてはまるような普遍的な物語だなぁと改めて感じました。

頭の回転が速く口も達者で調子のいい男ながら臆病で小心者、という辰次を愛之助さんが嫌味もユーモアもたっぷりに演じていらっしゃいました。
が、何と言ったらいいのでしょう。勘三郎さんや染五郎さんの辰次に備わった愛嬌というか、ほんっと、姑息でヤな奴なんだけどどこか憎めない、というところがあまり感じられなかったのは私の偏見でしょうか(笑)。

辰次を親の仇と追う平井兄弟は中車さんと壱太郎さん。
生真面目で冷静で大人な兄はただ仇討のために人を殺すことに一抹の苦渋も見せ、若い弟は世間を知らず、まっすぐ一途にひたすら仇討ちだけを見据えている・・・よい対照の兄弟でした。
中車さんはやたら「土下座ネタ」振られていましたが、もういいって(笑)。
中車さんは研辰役も観てみたいな。


この日は客席に素敵なお着物お召しのハイヒール・モモコさんがいらしてて、愛之助さん辰次 客席通路逃げ回る時、立ち止まってモモコさんに向かって拍手打って拝んでて、モモコさんも笑いながら辰次に手振ってました。


三、芝浜革財布
出演:  市川中車  中村亀鶴  嵐橘三郎  中村歌女之丞  片岡松之助  
市川笑也  中村扇雀 ほか


三遊亭円朝の落語が原作。
大酒飲みで商売より酒、という魚屋・政五郎(中車)が芝の浜辺で大金の入った財布を拾ったことから巻き起こる物語。
落語知らなくても、「ははーん、ここはおたつが政五郎を立ち直らせるためにひと芝居打ってるんだな」と容易に想像がつく肩のこらない人情劇です。

楽しく心温まる物語で、初春公演の打ち出しにぴったり。
劇中に出てくる獅子舞もお正月気分を盛り上げてくれます。
そういえば、私が子どもの頃は家のまわりにも獅子舞来てたよなぁとすっかり忘れていた記憶が蘇ったり。

中車さんはさすがに芝居が上手い。
いかにも江戸っ子のお調子者らしい政五郎。
でもやり過ぎないというか、そのあたりもお江戸風味。
扇雀さんのおたつとの息も合って、立派な大店の旦那になったラストとの切り替えも鮮やか。
ただ、歌舞伎の世話物味は少々薄めかなぁ。
普通の時代劇のお芝居観ているような印象を受けました。
もっともそれは扇雀さん、笑也さんの場面でも感じたので、この芝居全体がそういう味付けだったのかもしれません。

そういえば、可愛らしい笑也さんお君ちゃん、好きな役者は市川中車で、「どんなところが好きなの?」と問われ、「土下座のお芝居が上手いところ~」って、笑也よお前もか(笑)。

一番歌舞伎らしかったのは、政五郎が長屋の仲間たちとお酒飲んで大盛り上がりする場面。
「俺の女房が一番べっぴん」「同い年の女房ほど仲がいい」「一つ年上の女房ほどいいものはない」と、それぞれの女房自慢も楽しかったな。


IMG_6674.jpgこの日は某デパートの半額チケットで観たのですが、左側の、歌舞伎座や南座なら桟敷席にあたる場(テーブルはないけれども)。
当然舞台はナナメに観ることにはなるのですが、座席が高くなっているので視界良好でストレスフリー。
こんな眺めです。

花道も近いし、「研辰」の時には愛之助さんや中車さん、壱太郎くんが横の出入り口に何度も現れてなかなかオレ得なお席でございました。



コンパクトな座組の分、出演者重なっちゃうよね のごくらく地獄度 わーい(嬉しい顔) ふらふら (total 1501 わーい(嬉しい顔) vs 1503 ふらふら)
posted by スキップ at 23:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック