
なかなか関西には来てくれなくて(今回が初めての関西公演とカーテンコールで近藤芳正さんがおっしゃっていました)、東京へ遠征した時には組み入れる余裕もなくて、今回が初観劇となりました。
近藤芳正さんが一人で立ち上げたユニットバンダ・ラ・コンチャンとの合同公演で、戸田恵子さん、高田聖子さんが客演という豪華キャストです。
劇団チョコレートケーキ with バンダ・ラ・コンチャン
「ライン(国境)の向こう」
脚本: 古川健
演出: 日澤雄介
出演: 戸田恵子 高田聖子 小野賢章 清野菜名 浅井伸治
岡本篤 西尾友樹 谷仲恵輔 寺十 吾 近藤芳正
2016年1月9日(土) 3:00pm すばるホール 1階C列センター
物語: 第二次世界大戦終戦後、南北に分断された日本。
農業で生計をたてる山奥の小さな集落も県境で国境線が引かれることとなりました。
国境では両軍の兵士が一人ずつ警備兼見張りをしています。
両国に住む二つの家族(村上家、高梨家)は両家の娘が互いの家長に嫁いだ親類同士。
田植え、草引き、稲刈りといった人手が必要な作業は互いに行き来して手伝い合い、父祖の代からの田畑で農業を営んでいます。
村上家の長男 義男が北日本軍を脱走し戻ってきたことから両家に波紋が広がる中、ついに南北の国家で「日本戦争」が起こります・・・。
日本が分断されたという設定は架空のものですが、朝鮮半島やベトナム、東西のベルリンやパレスチナ問題といった世界情勢を見てきた私たちにはとても絵空事とは思えません。
平和な時ならないも同然だった国境が、物理的にばかりでなく、それぞれの人の心にもくっきりとラインを引く、そのやり切れなさ。
妻子を原爆で失ったアメリカへの恨み、開拓団の仲間を皆殺しにされたソ連への憎しみ、それぞれの事情にナショナリズムが重なり、普段は隠れていた差別意識も露呈して、相手を排除する方向へと壊れていく2つの家族関係。
そんな家族を救ったのはやはり「家族」への思い。北軍の兵士が義男を出せと銃口を向けた時、盾のように全員でその前に立ちはだかる両家族。
一人前へ出て、「渡さない」ときっぱり言い放ち、後ろの列で怯える夫にハッパをかける叔母の文子。
義男の考えに同意できず、「勘当だ」と絶縁していたにもかかわらず、「子どもを守るのは親の役目だ」と銃口の前へ出る喜作。
続いて現れた南軍の兵士の銃口から、息子を、甥っ子を、兄を、従兄を
折り重なるようにして必死で守る二つの家族。
その姿を見ているだけで胸がいっぱいになりました。
すべてが終わった後、すず子(高田聖子)と二人きりになったところで「何だか疲れちゃった」と堰を切ったように泣き出す文子(戸田恵子)。
きっといっぱいいっぱいだったのだろうと思いますが、抱き合って笑い泣きする二人を見て、母は強くてたくましいと思いました。
そしてこのニ女優、やっぱりタダモノではありません。
北軍、南軍の二人の兵士。
それぞれの家族に溶け込み、時には農作業を手伝ったりもする二人。
義男が脱走してきたことも見て見ぬふりをして、両家族を温かく見守っていた・・・はずの二人の終盤の豹変。
「お遊びはこれまで」とばかりに軍の命令が軍人の本能を目覚めさせたのか
壊れかけた二つの家族の繋がりを元に戻すために打った芝居だったのか
その答えは示されず、判断は観る側に委ねられているようです。
私は後者だと信じたい。
軍人だからこそ民が知らない情報も入手し、この戦争の不毛を察していたはずの二人。
その前の会話で、二人はそれぞれ死を覚悟しているようにも思えました。
不毛な戦争に身を投じなければならない自分たちの、ただひとつの安らぎであった家族だけは、昔のまま、温かいままでいて欲しかったのではないかな。
そしてこれが彼らからこの家族たちへの、感謝を込めた最期の贈りものだったのではないでしょうか。
そこにこの物語の切なさも救いも感じます。
「これが僕たちの戦争でした」
という言葉でこの物語は締めくくられます。
戦争の大義や国家の主張も、元を正せば個人的な憎しみや恨みから派生していくということに暗澹たる気持ちにもなり、
同時に、小さなコミュニティでも一人ひとりに明確な意志があって、その力が一つの方向を向けば、国家権力に抵抗する力を持つこともできるのだということを示されて、救われた思いにもなりました。
近藤さん、戸田さん、高田さん以外の役者さんは初めて拝見する方ばかりでした。
全員がチョコレートケーキの劇団員という訳ではないということも後で知りましたが、皆さんとてもよかったです。

こんな人物相関図を兼ねたキャスト表、関連年表や語句をまとめた資料集も配布されて、「そうそう、小劇団の公演ってこんな感じだったよね」と思い起こさせてくれた劇団チョコレートケーキ。
これからも観続けていきたい劇団です。
次回公演は「治天ノ君」。オリジナルキャストで再演とか。地方公演ありと書いてありますが、関西でもぜひ のごくらく度


