
「ゴシックホラーの名作」ということですが悲劇色が濃い。
運命の十字架を背負った母と子の、切なく哀しい血の悲劇。
「夜の姉妹」
脚本・演出: わかぎゑふ
出演: 山本裕典 彩乃かなみ 佐藤永典 平野良
宮下雄也 原嶋元久 田中崇士 中野咲希
菊地美香 黄川田将也 八代進一 近江谷太朗
粟根まこと
2015年12月27日(日) 1:00pm 近鉄アート館 Cブロック3列
ストーリー: 舞台は19世紀初頭のドイツ バーデン大公国。
「椿姫」を書いたアレクサンドル・デュマ・フィス(山本裕典)はある女学生に招かれてこの国やって来て、皇太子 ラインハルト(彩乃かなみ)と出会い、心を通わせるようになります。
ラインハルトにはローザ(平野良)というイタリア人の恋人がいて、彼女は妊娠していましたが、母であるマルガレーテ王妃(八代進一)からは結婚を反対されていました。そこには、ラインハルトを国王の跡継ぎにしたくないという意図があるようでしたが・・・。
冒頭 赤ん坊を抱いた二人の女性が、「おやすみなさい 机の上のコップ」「おやすみなさい ・・・」と子守唄のような詩のような言葉をつぶやきながら歩きます。
この二人こそがタイトルロールの「夜の姉妹」だとわかるのは物語がずっと進んでから。
そしてこの時の詩が後になって、あんなに切なく胸に響くことになるなんて・・・

わかぎゑふさんの作劇が光ります。
王位継承を巡る陰謀プンプンな雰囲気を漂わせ、それを新聞記者志望の女学生リンダ(佐藤永典)が憶測して筋立てし、そうかな、とデュマにも客席にも思わせておいてからの真実の衝撃。
酒場で白ワインを飲んだくれていたデュマが、「白は潔白の色。でも人は本性と反対の仮面を好むものよ」という酒場の女の言葉で、「赤ワインが好きだ」と言っていたラインハルトの言葉を思い出し、「まだ真実がある」と目覚める展開など、物語の序盤に置かれた様々なエピソードを伏線としてラストに向かって回収されていく心地よさ。エグロシュタイン男爵夫人(粟根まこと)が「血が止まるかどうか確かめなければ」と言った時に「血友病なんだ」と気づいたのですが、後のラインハルトの手紙に書かれたヴィクトリア女王のくだりを待つまでもなく、「血友病は王家の病」と言われていたことも思い出して、それが実在したバーデン大公国とも重なって、この物語に不思議なリアリティを持たせていました。
女系家族であったため、男性にしか現れない血友病の血筋であることを知るのが遅れ、王に嫁き王の子を産み、そのわが子を死なせてしまったマルガレーテ王妃。
「ただ愛しただけなのに」・・・静かに、だけど切り裂かれそうな悲しみを込めた言葉を吐く王妃。
その悲しみを胸に秘め、悲劇を繰り返さないためにラインハルトの結婚に反対し、夫である王には世継ぎを産む妾をあてがおうとします。
その王妃を見守り、ともに行動する実の姉・・やはりわが子を同じ病気で失ったエグロシュタイン男爵夫人。
生まれてきた男の子が血友病かどうかを見分けるには、その子を傷つけて血が止まるかどうかを確かめるしか方法のない時代。
もし血が止まらなければ、その子はそのまま死んでしまう・・・そんなことを愛する母や伯母にさせたくないと、病床を抜け出して、自らわが子に刃を向けるラインハルト。
それぞれの思いの切なさ。
子どもの血は止まらず、天に召された産まれたばかりのわが子の亡骸を抱きしめ、自らも瀕死のラインハルトが「子どもの頃よく聞かせてくれた妖精の詩を聞かせて」と母である王妃にねだって、「おやすみなさい・・」とそれが最初の場面につながるとわかった時の哀しさ。
ラスト。
ラインハルトの葬列に、弟のリヒャルト皇太子(中野咲希)がまるでラインハルトの生き写しのように杖をついて現れた時には言葉を失くす思いでした。
この作品の演出の最大の特徴は男女完全入替。
男優が女性を、女優が男性を演じていることです。
「男性の繊細さと女性の大胆さを引き出し、悲劇をよりクローズアップする」という意図があるそうですが、私は男女を入れ替えることで少し寓話的というか、ファンタジーの要素が加わったことと、男とか女とかを超越した普遍的な「人間の」物語であることがより強調されているように感じました。
それを最も体現していたのはラインハルト皇太子を演じた彩乃かなみさんです。
わかぎゑふさんが、「ラインハルト役は、できたら宝塚歌劇団出身で、『娘役』だった人がいいな、という希望がありました。『男役』ではなく『娘役』。宝塚で男役の人たちが何をしてきたか目の当たりにしてきた人が一番この作品のスピリッツを理解してくれるんじゃないかなと思いまして」と語っていらしたのを読んだのですが、まさしくその意図がズバリハマっていました。
儚げだけど凛々しくて、カードやワイングラスを扱う手の動きは繊細で美しい。
声も無理に低く男っぽくしている訳ではないのに男性として違和感ありませんでした。
女性を演じた男優陣の中ではマルガレーテ王妃の八代進一さんがさすがに際立っていました。
所作の美しさ、声のよさ、王妃のオーラ、母としての哀しみ。
立ち姿、ドレスの裾さばきも美しくてうっとり。
あんなにマーメイドドレス似合う男の人いる?(しかもそこそこおじさん

粟根まことさんのアンナ・エグロシュタイン男爵夫人もよかったです。
王妃とは対照的に化粧気もなく、厳格そうで、強い意志があって、だけど本当は妹とその家族のことを心から心配していて。
近江谷太朗さんのハンナの温かさ。
「子供はみんな神様からの贈り物なんですから、誰かが面倒みてあげないと」
「どんな子どもにも誇りはあるわ」
・・・ハンナの言葉の向こうにゑふさんの子どもに向けるやさしい視線も感じます。
以上3人がおじさんチームかな?(笑)
若者チームでは山本裕典くんと黄川田将也くん以外は存じ上げなくて、みんな小綺麗であまり見分けもつかず・・ごめんなさい

実は黄川田くんも出てること知らなくて、「あのやけに姿勢のいい背の高い女の人は黄川田くんに似てるけど・・」と思っていたらご本人でした。
いつも背筋を伸ばして凛として、ちょっと距離感のおかしい黄川田くんヨゼファ、好きでした。
誰かがアドリブ言ってた時、マジ笑いしてたよね。
山本裕典くんは、女装している男性に見えてしまいました。ビジュアルも所作も。
そういう演出なのか彼自身の演技プランなのかわかりませんが、ちょっとオトコ出過ぎかなぁ、と。
フィナーレは、元々の男女に戻った役者さんたちが黒のタキシードやドレスで華やかに踊ります。
いや~、まるでタカラヅカのフィナーレのようで楽しかったですが、ここは好みの分かれるところでしょうか。
あの何とも切なく哀しいラストシーンの余韻はすっかり消え去ってしまいました。
千穐楽だったので、カーテンコールでは一人ずつご挨拶ありました。
彩乃かなみさんが、「ずっと男役をやってきて、人が生きていくということは男も女も年齢も関係ないなと思いました」とおっしゃったことが、私がこの男女入替のお芝居を観て感じたことと重なって印象的でした。
ロマンスグレーの髪がステキな八代さんは、「普段はこんなおっさんです。花組芝居という劇団でネオ歌舞伎やっています。ググってみてください」と若者ファンにアピール。

最後に、フロアに残っていたお花を山本裕典くんが投げてくれたものが飛んできて首尾よくキャッチ。
全部で10本だけなのでかなりラッキー

気分よく劇場を後にしました。
初演のラインハルトは美津乃あわさんだったんだって。観てみたかったな のごくらく度

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