
最初に役者さんが一人ずつご挨拶するところで、
「今回はスケジュール詰まっててみんな忙しいし、試演会やめておこうか、という話が出た時、勘九郎が、『お父さんの意志(遺志?)だからどうしてもやってほしい』と言った」
という橋之助さんの言葉を聞いて泣きそうになりました。
18人の隠れ勘三郎さんの目に見守られるばかりでなく、「意欲ある若手を舞台の中心に立たせて勉強させたい」という勘三郎さんの思いも受け継がれて、舞台も客席も、熱く温かい。
勘三郎さんがつくり上げた、中村座ならではです。
大阪平成中村座 試演会2015年11月19日(木) 5:30pm 大阪平成中村座 竹席1階15列上手
一、平家女護島 俊寛
出演: 坂東彌風 中村獅一 坂東彌紋 中村翫蔵 中村仲弥 中村橋三郎 ほか
くじ引きで役を決める試演会。
坂東彌十郎さんのお弟子さんの彌風さんが主役の俊寛、彌紋さんが丹波少将成経と重要な役を演じられて、彌十郎さんは終演後、「肩が凝りました」とおっしゃっていました。
私は夜の部を未見なので橋之助さん以下本役さんたちの演技はまだ観ていませんが、「俊寛」は勘三郎さんはじめ、仁左衛門さん、吉右衛門さんと何度か観ていて、若手にはずい分ハードルの高い演目だなぁと思っていました。
もちろん、足りないところもいっぱいありますが、たくさんの人に支えられて熱い思いが伝わるような力演、観ているこちらまで胸が熱くなるような舞台でした。最初に俊寛が出てきた時、ちっともヨロヨロ弱っているように見えなくて、ここの歩き方って難しいんだなぁと思いました。
それは、花道から出くる丹波少将成経や 平判官康頼にも同じように感じて、ただ歩くのではなく、その人物として歩くことがどれほど芝居心が必要なのか、普段何気なく観ている役者さんたちの歩き方がいかに上手いか、改めて知りました。
座談会で扇雀さんが、「昼間は私たち役者にこき使われてくたくたになりながら終演後毎日一所懸命稽古して・・」とおっしゃっていた通り、みなさん本当によくお稽古されたんだなぁということが伝わってきました。
特に俊寛の彌風さん、丹波少将の彌紋さん、そして瀬尾の獅一さんの台詞、声がとてもよかったです。
彌風さん俊寛の、最後岩の上でじっと黙って遠くを観る表情に、勘三郎さんの面影が重なって見えました。
中村獅一さんは、先日昼の部を桜席で観た時、幕間に桜席にいらっしゃって、「中村獅童の弟子、中村獅一と言います。『女暫』では◯◯、『三升猿曲舞』では□□役をやっていました。19日に試演会をやりますので、よかったら切符買ってください」とチケットを手売りして、それを舞台からご覧になっていた大道具さんたちやんやの拍手して、それをまた獅一さんが「何でだよぅ」と照れる、という微笑ましいひと幕がありました。
その時、私は何の役をされるのか存じあげなかったのですが、チケットはすでに買っていたので、「もうチケット買いました。がんばってください!」と言うと「ありがとうございます」と笑顔を見せてくれた爽やか好青年があの憎々しい瀬尾になるとは、さすが役者さん。声はいいし上背もあるし、俄然注目の役者さんの仲間入りです。
中弥さんの千鳥もかわいかったな。
丹左衛門尉基康役の橋三郎さんは橋之助さんのお弟子さん。
橋之助さんが松王丸をやった「寺子屋」の子役さんだったそうで、
「『大きくなったら橋之助さんの弟子になります』」と言ってらっしゃった子供が、本当に大きくなって・・」と橋之助さんが感慨深げにおっしゃっていました。
大向うもたくさんかかっていましたが、ホンモノの大向うさんばかりでなく、出演しない若手の役者さんたちも大向うされていたそうです。
舞台上の役者さんたちはもちろん、見守る師匠、先輩、後輩の役者さんたち、つけ打ちさん、義太夫さん、大道具さん、お茶子さん、そして観客、すべての温かさが小屋じゅうにあふれているような試演会でした。

劇場内の大提灯にも隠れ勘三郎さん。
お弟子さんたちの成長をうれしそうに見守っていらしたことでしょう。
二、おたのしみ座談会
出演: 中村扇雀 中村勘九郎 中村七之助 坂東新悟 中村国生 中村虎之介
中村鶴松 中村歌女之丞 片岡亀蔵 坂東彌十郎 中村橋之助
関西テレビの山本悠美子アナウンサーの司会で、まずは皆さんひと言ずつご挨拶した後、用意された質問に答える形で進行。全員ステキなお着物の装いでした。
以下は印象に残ったことを思い出すままメモ。
亀蔵さん: 舞台稽古も観ましたが、今日が一番よかった。
お客さんが入るとこうも変わるのかと思いました。
私たちも日々お客さんに助けられているのだなと。
国生くん: 初めて人に教える・・教えられるほどではありませんが・・ということをやりました。
自分の思っていることを人に伝えるのは難しいと知りました。
新悟くん: 後ろで観ていたんですけど結構寒かったので、これから座談会40分位ありますが、
皆さん風邪をひかれませんように(客席笑)。
鶴松くん: 前回と同じ千鳥を演じていますが、のりパパに見られているようでプレッシャーを
感じながらやっています。
扇雀さん: 「狐狸狐狸ばなし」 伊之助の役づくりは?
哲明さん(勘三郎さん)のマネをしたらダメだと思って衣装から全部変えました。
死ぬ場面も海老ぞりやったりして・・
哲明さんは体硬いから海老ぞりできないからね(笑)。
橋之助さん: 「俊寛」について
博多座で初めてやった時、勘三郎兄さんが「お稽古なんていいよ!」と
飲みに行った。
今日試演会を観て、獅一の瀬尾がとても良かったから、今まで俊寛目線でしか
見たことなかったけど瀬尾の側からも見られて、いい役だと思った。
いつか勘九郎が俊寛やる時には僕は瀬尾をやりたい。
彌十郎さん: 空き時間の過ごし方は?
「阿弖流為」で腰とひざを痛めてしまったので、リハビリのためにも
一旦ホテルに帰ってプールで歩いたり泳いだりしています。
前に勘三郎さんと飲みに行く約束していたのにちょっと行き違いがあって
行けなかったら、翌日舞台装置の下から「裏切者っ!裏切者っ!」と
台詞と同じ言葉で言われた(笑)。
勘九郎さん: 「三升猿曲舞」で大阪城に向かって一礼するのは?
初日開いて5日目ぐらいに大阪城にお辞儀したくなって。
此下兵吉にとっては大阪城は夢であり理想だから。
-初日も幕が閉まってから大阪城に一礼してました(桜席 目撃談)
七之助さん: 「女暫」 巴御前の幕外は?
あそこは巴御前ではなく七之助に切り替えてやっています。
芸妓に戻る、というのが本当なんですが、兄弟のやり取りをお客さんも
楽しんでいただいているので、どちらかといえば素の七之助に近い。
「狐狸狐狸ばなし」で伊之助に赤飯食べさせられる場面は?
ここで扇雀さん: 「(自分がおきわやった時)あんたのお父さんから赤飯やら饅頭やら
死ぬほど食べさせられたから 今 仕返ししてる。
覚悟しなさい。キライなもの聞いてあるから」
と不敵に笑ってらっしゃいました。おきわちゃんピーンチ!
亀蔵さん: おそめについて
顔するのにすごく時間がかかる。
「なめる練習してるよね?」と橋之助さんからツッコミ入っていました(笑)。
国生くん: 新悟さんと鶴松さん、二人の千鳥は?
新悟にぃも鶴もそれぞれ可愛いです。
・・・と話しているところへ
国生はエライと思うよ。2人ともおなかの中、真っ黒なのにね~
とチャチャ入れる勘九郎さん。
上手端の床机に虎之助くんを挟んで並んで座っていた新悟くんと鶴松くん、
同時に立ち上がる(芸人かっ!)
「真っ白ですっ!」と新悟くん。
虎之助くん: 唯一の現役高校生ですね。
新悟さん、鶴松さんと一緒の楽屋で2人の素晴らしい役者さんに囲まれて
学ぶことがいっぱいあります。
-何だか棒読みですね、と山本アナウンサー ナイスツッコミ。
困った時頼りになる人は?
(少し考えて)・・いないです。 ←いないんかい!
反対側で新悟くんが話している時に、勘九郎さん、七之助さん、国生くんが3人で何やらコソコソしゃべって笑い合ったり、
橋之助さんが声かけたり、七之助さん足ブラブラさせたり・・・本当にひとつの大きなファミリーのようで、観ているこちらまで温かい気持ちになりました。
最後に、試演会で主要な役をやった彌風さん、獅一さん、彌紋さん、仲弥さん、橋三郎さんが登場してひと言ずつご挨拶。
皆さん感謝の気持ちを述べられていましたが、
彌風さん 「役をいただいてから今日まで地獄の日々」
彌紋さん 「前回くじではずれて今日はできて嬉しい」と涙ぐみ
仲弥さん 「前回も今回もいいお役いただいて、10年分位の運を使い切ったんじゃないか」
とそれぞれの思いが印象的でした。
あと橋三郎さんが「師匠や国生ぼっちゃん」とおっしゃっていたのも。やっぱりぼっちゃんなんだ。
そして、サプライズ企画として役者さんからのプレゼントが。
「皆さんとじゃんけんしてたら時間がかかるので役者は皆番号を決めています」と扇雀さん。
扇雀さんのプレゼントは「盲目物語」 お市の方で使っていらっしゃる扇子にサイン入り。
「僕の誕生日は12月19日なので、12列19番の人」と。
自ら客席に降りてプレゼント渡しに行って、舞台に戻りながら「皆さんいいですか。僕の誕生日12月19日ですからね。南座にいまーす」ですって。
この後も扇雀さんの仕切りっぷりがとても手際よくて感じよくて、めちゃ好感度アップ。
この後、橋之助さん、彌十郎さんと押隈が続いて、勘九郎さん。
「僕のプレゼント、しょぼいです」(笑)・・「押隈ってねぇ」と小声でボソッと言ってました。
「ミズノの帽子です。先日ゴルフに行った時にかぶったもの。父がゴルフが好きだったので、月命日の5日に七之助とゴルフ行ってきました」
自分でくんくんキャップの匂いかいで「くっせぇー」と笑っていました。
当たった方に後で見せていただいたら、つばのところにサインが入っていて、「中村勘九郎」の千社札も貼ってありました。全然ショボくない。
七之助さんは「今日の昼の部 巴御前の押隈。当たった桜席の人に自ら届けるサービスつきでした。
そして
扇雀さんが 「最後に特別ゲストに登場していただきましょう」とおっしゃって
舞台奥が開いて夜の闇に大阪城がくっきりと浮かび上がり
「勘三郎のお兄さんが建てた中村座」
という言葉を聞いて、ぶわっと涙出ました。
あぁワタシ、やっぱりこんなにも勘三郎さんが好きなんだ

平日の夕刻開演ということで東京ではなかなか行けない試演会。
ちょっとムリしたけどやっぱり行ってよかった。
中村座の温かさ、すばらしさに満ちていました。

「中村座は永遠に不滅です」 by 扇雀 のごくらく度


