明治34年に開館した近畿最古の芝居小 永楽館。
平成20年に大改修して復元された座席数341席のこの芝居小屋で翌21年から毎年開催されている永楽館歌舞伎。
ずっと行ってみたいと思っていたのですが、8年目の今年、ついにデビューすることができました。
第八回 永楽館歌舞伎 第二部
2015年11月8日(日) 4:00pm 永楽館 ろ枡上手(1列目)
一、青雲の座 出石の桂小五郎
作・演出: 水口一夫
出演: 片岡愛之助 中村壱太郎 中村寿治郎
上村吉弥 中村雁治郎 ほか
永楽館歌舞伎は必ず新作を上演する決まりだそうで、まずはその新作歌舞伎から。
蛤御門の変で長州が敗れた後、京都を逃れて出石に潜伏していた桂小五郎と彼を取り巻く人々を描いています。
幕末好きの私ではありますが、まるで時分の花とてもいうように(方向は間違っていたかもしれないけれど)幕末を駆け抜けた新選組や、志半ばで非業の死を遂げた坂本龍馬や高杉晋作などと比べると、桂小五郎は、劇中にも出て来たとおり「逃げの小五郎」で、何となく要領よく逃げまわって生き延びたというイメージ(あくまで個人的な印象です)で、あまり興味がわかず、出石に潜伏してことも全く知りませんでした。
幕開きは、スクリーンに「活動写真」と言われた時代の白黒映画で始まります。
映画のクレジットのように役者さんの名前が映し出され、池田屋事件の場面はナマの弁士さんの語り・・・と遊び心たっぷり。
そして場面は芝居小屋。
青い隊服を着た新選組の隊士たちが通路から入ってきて、「桂小五郎がこの小屋に逃げ込んだ」「貴様、知らぬか?」と観客に聞いたりしながら客席をウロウロ。
やがて、「この桟敷席が怪しい」と客席下手の桟敷席の幕がするすると上がるとそこには芸妓 幾松(壱太郎)が。
この壱太郎くん幾松がとてもよかったです。
凛とした美しさ、艶やかさはもちろん、「桂はんの居所なんか知らしまへん」「たとえ知っていたとしてもこの幾松、死んでも言うたりしまへんっ!」という毅然とした佇まいが、さすが桂小五郎の愛した女性という度量も見せてくれました。
この後、客席の後ろから「そうやそうや!新選組帰れ!」みたいな声がかかって(多分大向うさんかな?)煽ると、観客も口々に「帰れ」「帰れ!」とぶんすか言い始めてびっくり&楽しい。
その勢いに恐れをなしたか、私の目の前にいた隊士さん、台詞噛んでました(笑)。
そんなふうに「つかみはOK」みたいな感じで始まったお芝居。桂小五郎(愛之助)は、広戸屋甚助(寿治郎)に助けられて久畑の関所を越え、出石で孝助と名を変えて、甚助の妹おすみ(吉弥)を妻にして荒物屋を営んで暮らします。
出石奉行・堀田半左衛門(鴈治郎)は関所で小五郎とわかっていながら見逃してやりますが、幕府の追手が迫っていることをそれとなく知らせたりもします。
小五郎はといえば、城崎温泉の旅館の若い娘おたき(純弥)とも恋仲だったらしく、おたきとおすみが鉢合わせすると慌てて逃げたり、という情けない男っぷりですが、やがて迎えに来た幾松の説得で、再び京都へと発って行くのでした。
地元の人ならわかるだろうなと思える場所や、お国なまり、「弱い者を助けるのは但馬の者の持って生まれた気質」という台詞など、地元を意識したサービスたっぷりの脚本でした。
小五郎と半左衛門が碁を打つ場面で「どんな役者が好き?」「あんな役者は大嫌い」とお約束のお遊びの後、「片岡愛之助」について、「近頃世間を騒がさせているようじゃが・・」と鴈治郎さんがおっしゃったことが初日のニュースで流れていましたが、私が観たこの日は、「いいじゃないですか、幸せそうで」と愛之助さん笑いながら反論していました。ほんとにハッピーなのね。
二、お目見得 口上
下手から、吉弥さん・寿治郎さん・愛之助さん・壱太郎さん・鴈治郎さんと並んでの口上。
永楽館の舞台って本当に近くて、高さもそれほどないので、かぶりつきのワタクシ、「え?私に言ってるの?」と思いましたよ(違)。
愛之助さんとともに永楽館歌舞伎第一回目から全回出演している壱太郎くんは豊岡市の観光親善大使らしく、名産品をPR。
ゆるキャラ?のこうのとりのコーちゃんと玄武洞の玄さんのぬいぐるみを前に置いたまま、今度は袖から「コウノトリ育むお米」を出してきて「とてもおいしいお米です」と紹介していました。
「コウノトリのためのお米」と言ってしまって、「あ、コウノトリのためじゃないっ」と言い直した時、お隣の鴈治郎パパ筆頭に舞台上全員頭たれたまま肩プルプルさせてたよねー。
その鴈治郎パパは、6年ぶり2回めの永楽館で、「その間に翫雀から鴈治郎に変わりましたが、相変わらず壱太郎の父です。「倅は私の母(扇千景さんね)の血を引いているようで、そのうち豊岡市議に立候補するかもしれません」と。
ご当地では壱太郎くんの方が有名で、「町を歩いていると『壱太郎くんのお父さん』と呼ばれます・・・ワタクシ 鴈治郎でございます」とおっしゃっていました。
前に来た時は夏だったので、今年はとてもうれしい・・それはカニを食べられるから、なのですって。
「こういう芝居小屋は全国津々浦々にありますが、 ここのように8年も公演が続いている小屋はなかなかありません。 客席と舞台が近い小さな芝居小屋だからこその臨場感は江戸時代の雰囲気そのままで、歌舞伎の原点。
観客は役者の息遣いを直に感じ、役者は観客の反応を直に感じることで,より一層舞台がいいものになる。 客席も歌舞伎の一部であるというあらわれ。永楽館歌舞伎は役者に力を与えてくれます」という鴈治郎さんの言葉がとても印象的でした。
吉弥さんが「青雲の座」で演じたおすみさんは実在の人物ですが、史実によると14歳。
どうしようかと思っていたら、脚本では、「薹のたった花嫁で桂小五郎よりも歳上」となっていたと(笑)。
三、蜘蛛絲梓弦 片岡愛之助五変化相勤め申し候
出演: 片岡愛之助 中村壱太郎 澤村國矢 片岡千次郎
大好きな演目ですが、これまで観たのは亀治郎さん時代を含めて猿之助さんばかりで、愛之助さん大丈夫なの?と少し思っていましたが、大丈夫でした(笑)。
少し短いバージョンで六変化ではなく五変化。
最近お痩せになったこともあって、一番心配していた傾城薄雲太夫も、若干ごついかなという印象はあるものの、美しかったです。
源頼光(壱太郎)の家臣・碓井貞光(國矢)と坂田金時(千次郎)が睡魔に襲われ濃茶が飲みたいと思うと小姓寛丸がお茶を持って現れるところから。
→ 舞台上で太鼓持 愛平に早替り → 舞台奥の麩に飛び込んで引っ込む → 花道から座頭松市 登場 → すっぽんに引っ込み → 傾城薄曇太夫 セリで登場 → 御簾の内に消える → 隈取した蜘蛛の精 登場して大暴れ
という流れでした。
こんぴら歌舞伎の金丸座同様、セリもすっぽんも人力なので、ガタガタ揺れていたり、登場前にギシギシ音がしたりもします。
それがいかにも芝居小屋らしい趣きで楽しい♪
國矢さん貞光も千次郎さん金時も凛々しかったです。
千次郎さんはご自身のtwitterでも「こんな大きなお役をやれて幸せ」とツイートされていましたが、赤っ面もよくお似合いで気合たっぷり。
壱太郎くん頼光の気品ある立ち姿にも惚れボレ。
愛之助さんの五役もどれもよかったですが、それぞれの役の振り幅、という点ではまだまだ猿之助さんの方が一歩も二歩も先行ってるかなぁ。
傾城の色っぽさとか、蜘蛛の精のオドロオドロしさとか、「もっと」と思ってしまいます。
それでも、蜘蛛の精の凄み、大きさ、やはりこの人は立役の人だなぁと思いました。
蜘蛛の糸をパッと撒く華やかさ、その糸が描く弧の美しさ。
それが小さな芝居小屋いっぱいに満たされる高揚感。
ここで観るすばらしさがあふれていました。
いや~、しかし、小さな小屋でかぶりつきだったこともあって、自分史上最大量の蜘蛛の糸を浴びました。
何だかうれしくなっちゃう。
幕が降りた後拍手が鳴りやまずカーテンコール。
「本来歌舞伎ではカーテンコールはしないんですけど、お客様が拍手してくださるから」と愛之助さん。
壱太郎さん、國矢さん、千次郎さんもひと言ずつご挨拶されてお声が聞けたのもうれしかったです。
たーっのしかったぁ永楽館。できれば来年もまた行きたい のごくらく度 (total 1470 va 1470 )
2015年11月18日
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