2015年10月05日

萬斎さん入魂の 「開館10周年を寿ぐ三番叟」


sanbaso.jpg五穀豊穣を寿ぐといわれる三番叟。
代表的な祝言の舞で、劇場のこけら落としなど神聖な場で披露されることもしばしば。

その三番叟を、大好きな兵庫県立芸術文化センター開館10周年を祝って、野村萬斎さんが踏んでくださるというのですから、これは見逃す訳にはまいりません。


兵庫県立芸術文化センタープロデュース
開館10周年を寿ぐ「三番叟」

2015年10月3日(土) 2:00pm 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール 1階B列センター



解説: 野村萬斎

私は萬斎さんの解説が大好き。
ちょっと上から目線で(笑)、おもしろおかしくわかりやすく、初心者向けにも専門的なことも交えながらテンポよく。
解説つきだということを認識していなくて、会場着いてから知ってますます喜んだ次第です。

能舞台が設えられた兵芸中ホール。
上手の切り戸口から紋付き袴の萬斎さん登場です。

萬斎さん 「こんにちは」 
客席 「こんにちは~」
バラバラで元気ないからと3回もやり直しさせられました。小学生か(笑)。

兵芸開館10周年のお祝いということで、演目の解説ばかりでなく、それにちなんだお話も少し。

ご自身も世田谷パブリックシアターの芸術監督を務められている萬斎さん。
劇場運営の大変さもよくご存知で、
・全国至るところの公営会館に行きますが、元気なところとそうでないところはすぐわかります。
 こちらの芸文センターはいつも元気。あ、僕の公演だからかな?(笑)
・全国にいろんな会館がありますが、11:00公演があるのはここ芸文センターだけです。
 宝塚で慣れているからなのか・・・。
・1995年から96年にかけてロンドンに留学していて、その頃はインターネットも今ほど発達してなくて、日本のことはニュースで見るだけでした。そんなロンドンで日本の大きなニュースが2つ。
 一つは地下鉄サリン事件で、もうひとつは阪神大震災です。
・その大震災から10年後にこのホールができて、それからさらに10年と、続いていく時の流れを感じます。


本当に。
震災から3日目に西宮北口から仁川まで歩いた時、この目で見た北口周辺の建物の崩壊や阪神高速の橋梁が落下した様が今でも目に浮かびます。
あれから20年。
また美しい街として甦った西宮の今の姿に、時の流れと人間の生命力の偉大さを感じます。


演目の解説で印象的だったのは、
・「三番叟」は「舞う」のではなく「踏む」
・「三番叟」で跳ぶところがありますが、バレエだと2階席のバルコニーに向かって跳びますが、狂言は客席が舞台より低い位置にあるので、跳ぶことより「降りる」方に重点を置いていて、板を踏み抜くように降りる
・五穀豊穣の舞なので、田んぼで足をぺっと拭う振りがありますが、うち(和泉流)はより舞踊として洗練されたものを目指しているのでそんな振りではない
・「三番叟」は神聖な舞なので、普通はこんな10年も経って穢れた(笑)ところではやらない
・「三番叟」を踏む前日は女性と寝食を共にしないという決まりもあった・・・僕は昨日、寝食を共に・・多分しなかったんじゃないかな(笑)


「佐渡狐」
出演: 石田幸雄  月崎晴夫   高野和憲


京の都へ年貢を納めに行く越後と佐渡の二人のお百姓のお話で、「佐渡には狐は居ないだろ?」「いや、いる!」と売り言葉に買い言葉みたいな意地の張り合いから、役人を巻き込んで・・」というお話。
初めて観る演目でしたが、萬斎さんの解説がとてもわかりやすかったので、面白く拝見することができました。

萬斎さんが解説でおっしゃっていたように、「佐渡には狐いないんだって?」と言えば「そうなんだ。いないんだ」と素直に言えるのに、「いないんだろ?」と高圧的に聞かれると「いや、いる」と意地を張ってしまうあたり、人間の心情が織りなすあやが示唆に富んでいます。
一度嘘をついてしまったために、うそを塗り重ねるハメになる様も、観ていておかしいのだけど切ないような。
笑いながら人生の機微を描く・・こういう演目、狂言には多いですね。


「三番叟」
三番叟:  野村萬斎
千歳: 岡聡史
大鼓: 谷口正壽
脇鼓: 竹村英敏  小鼓頭取: 成田達志  脇鼓: 成田奏
笛: 左鴻泰弘


揚幕から紋付袴の人が出てきて、橋掛かり中ほどから舞台に向けて火打ち石で切り火。
一瞬飛び散る炎を見ていると、とても厳かで、いつもと違う特別な空間にいるんだという気持ちになります。

神聖で格式高くありながら、躍動感にあふれた萬斎さん入魂の三番叟。
目線の先、指先の一本一本にまで気迫と緊張感が漲り、どの動きも洗練の極みで美しい。
35分 あっという間。いつまでも観ていたいくらいでした。

本舞台を踏む力強い足音
1回、2回と音もなく舞い上がり、3回目にダンッと床を貫くように降りてくる跳躍
心洗われるような鈴の響き

千歳から鈴を受け取って以降、萬斎さんが解説で、「ここから繰り返し繰り返し同じ動作が続きます。それがトランス状態になっていって・・・」とおっしゃっていたことを身を持って実感。
何なのでしょうか、あの不思議な感覚。
正直言うと、「佐渡狐」ではふっと意識が遠のくこともあったのですが、この「三番叟」はピクリとも眠くならなかったもん(笑)。
終演後、「何か邪気を払ってもらった感じやね」とおっしゃっている方がいましたが、まさにそんな感じ。

本当によいものを見せていただきました。


そして、兵庫県立芸術文化センター 開館10周年 本当におめでとうございます のごくらく度 わーい(嬉しい顔) (total 1447 わーい(嬉しい顔) vs 1449 ふらふら)
posted by スキップ at 23:30| Comment(2) | TrackBack(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
萬斎さんのあのお声が聞こえて来るようです!
ほんと、常に公共劇場のあり方や劇場からの「発信」について、考えてらっしゃるんですよね。今でこそ、あちこちの劇場に芸術監督はいらっしゃいますが、行動する芸術監督の先駆者ではないかしら。
「三番叟」、岡さんが千歳だったのか、と感慨深いですし、お囃子は関西の方かしら、などなど、いろいろ新鮮です。
そういえば、今でこそ観劇遠征のハードルが低くなってますが、私の初遠征は、萬斎・裕基の「靭猿」でした(東京のチケットが取れなかった)。月日の経つのは早いものですねー。
Posted by きびだんご at 2015年10月08日 00:57
♪きびだんごさま

萬斎さんの三番叟を拝見できるだけでもホクホクでしたのに
解説までついていて、それもいつもとは少し趣きの違った
兵芸10周年にちなんだお話もしてくださって、とても興味深かったです。
ご自身の狂言師としてのご活躍のみならず、芸術監督としても
粉骨砕身していらっしゃる姿には頭が下がる思いですが、
ご本人はどこか飄々としていて軽々やってらっしゃるような
雰囲気なのも好きです(笑)。

この公演は2日間かって、初日の千歳は中村修一さんだったようです。

>今でこそ観劇遠征のハードルが低くなってますが
低くなっていますよね、お互いに(爆)。
Posted by スキップ at 2015年10月09日 00:05
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