
出産時の医者の治療が元で薬物依存症に陥った母 メアリー
将来を嘱望されながらドロップアウトして酒浸りの兄 ジェイミー
詩作の才を持ちながら肺結核を患う弟 エドマンド
そんな家族4人の、1912年夏のある1日の物語。
「夜への長い旅路」
作: ユージン・オニール
翻訳・台本: 木内宏昌
演出: 熊林弘高
出演: 麻実れい 田中圭 満島真之介 益岡徹
2015年9月27日(日) 1:00pm シアター・ドラマシティ 3列上手
ユージン・オニールが生前の上演を禁じたという自伝的戯曲(エドマンドがオニール自身)。
元は5時間超の大作を2時間40分に短縮しての上演なのだとか。
あまり得意ではない翻訳劇の中でも特に苦手感漂う現代アメリカものですが、4人のキャストが魅力的だったことと、「アドルフに告ぐ」がとてもよかった木内宏昌さんが翻訳・台本を書かれたということで興味あって観ることにしました。
家族4人がそれぞれ抱える問題やこの家族を覆う愛憎が、自分自身にも自分の周りにも現実には起こらないようなことばかりなのに、不思議なくらいリアルに感じられて、翻訳劇だということを忘れそうでした。
メアリーは自分が薬物中毒になったのは、エドマンドを産んで産後の肥立ちが悪い時にモルヒネを打ったせいだと考え、息子たちは父親が医療費をケチってやぶ医者に診せたためだと思っている
メアリーには二人の息子の間にもう一人子どもがいて、その子が亡くなったのはジェイミーのはしかが伝染ったせいだと彼を憎み、ジェイミーは才能あるエドマンドに屈折した思いを抱いている
夫と妻、父と息子、母と息子、兄と弟・・・互いに互いの罪を挙げ、愛情や憎しみや軽蔑などをぶつけ合う家族は、それをしながら自分自身も深く傷ついているように見えて、とても痛々しい。
壊れかけているように見える家族を、それでもつなぎ止めているものは、最後にはそれぞれの心の奥底にある互いを思いやる気持ちなのかな。役者さんはさすがに全員ハイクオリティ。
心に闇を抱え、静謐な雰囲気を漂わせながら正気と狂気を瞬時に往き来する麻実れいさんメアリーの凄み。
その妻を、憐れみともあきらめともつかぬ目線で静かに見守る益岡徹さんのジェームズの滋味。
そして二人の息子たち。
ともに繊細で傷つきやすい心を持っていながら、
それを抱えきれず、自分を傷つけることを含めて外への攻撃へ出てしまう田中圭くんのジェイミー
対照的に内へ内へと自分を湛めていく満島真之介くんのエドマンド
ともに母親の愛を渇望しつつ、狂気の母を気遣う姿が切ないです。
二幕で、泥酔したジェイミーがエドマンドに、嫉妬と独占欲と、屈折した愛情とでぐちゃぐちゃになりながら絡むシーンがかなり長く続くのですが、ここ好きだったな。
「オレがお前をつくった。お前はオレのフランケンシュタインだ」
「そうだよ。僕は兄さんのフランケンシュタインだよ」
って、何なのー、この兄弟

カーテンコール。
にこやかな笑顔の麻実れいさんを中心に、劇中とは打って変わって幸せそうに肩を抱き合う4人の家族。
こんなふうになりたかっただろうし、こうなれたはずの家族だった、と思うと一層切なかったです。
ほの暗い照明が印象的だったのですが、惜しむらくは暗くて、役者さんたちの表情が見えにくいシーンが多かったことです。
後ろの方の席の人たち見えたのかな の地獄度


