2015年09月30日

秀山祭九月大歌舞伎 夜の部 「伽羅先代萩」

1509sendaihagi.jpg「伽羅先代萩」の乳人 政岡は女方はもとより立役が演じることが多い大役。
この役を通し狂言で一人で演じるとなると、歌舞伎界に数多いる役者さんの中でも限られています。
私がこれまで拝見したのは、坂田藤十郎さん、尾上菊五郎さん、尾上菊之助さん、そして、坂東玉三郎さんの政岡は今回が2度目でした。


松竹創業120周年
秀山祭九月大歌舞伎 夜の部
通し狂言 「伽羅先代萩」
花水橋 竹の間 御殿 床下 対決 刃傷
出演: 坂東玉三郎  中村梅玉  中村又五郎  
尾上菊之助  中村児太郎  中村歌六  上村吉弥  
尾上松緑  市川染五郎  中村吉右衛門 ほか

2015年9月20日(日) 4:30pm 歌舞伎座 3階東側



玉三郎さん、吉右衛門さん筆頭に役者揃いで大変見応えのある先代萩でした。

政岡は、母性豊かで愛情あふれる乳人であり母親でもありながら、忠義に根ざした強靭な心も持った女性。
そのあたりが立役が演じることが多い所以かもしれません。
玉三郎さんはたおやかな女性らしさの中に内に秘めた強さが蒼い炎のように時折揺らめくような、そんな政岡という印象を受けました。

「竹の間」で、八汐(歌六)に責められて「獄屋に送る」と言い渡され、下手の端で畏まる姿はとてもおどおどと弱々しく小さく見えた政岡が、「御殿」では、わが子がなぶり殺しにされるのを目の当たりにしながら、鶴千代君を左手の打掛けで守りつつ、一点を睨んですっくと立つ仁王の如き厳しさ、力強さ。
栄御前が去った後の「でかしゃった でかしゃった」は、藤十郎さんの濃い政岡に慣れてしまった“西”の目には、いささか淡白にも感じられるのですが、懐剣を床に突き立て、千松に覆いかぶさるようにして、「三千世界に子を持った親の心は皆一つ、子の可愛さに毒なもの食うなと云うて叱るのに・・・」と苦しく絞り出す言葉は、悲痛そのものでした。

今回 玉三郎さんの政岡でもう一つ印象に残ったのは「飯炊き」。
お腹をすかせた鶴千代君と千松に、政岡が茶道具を使って食事を用意するのですが、茶の湯にも精通していらっしゃると伺う玉三郎さんの柄杓やお茶杓、袱紗など茶道具捌きの美しさは、静謐な雰囲気さえ漂っていました。
あー、これ、1階の間近で観たかったなぁと、チケット代節約したことを後悔した次第です。歌六さんの八汐は、千松の喉もとに何度も懐剣を突き立てるところなど、もちろん憎々しいのですが、どこか滑稽さも感じられて、「残忍」感はあっさり目だったでしょうか。
後で演じる忠義一途の渡辺外記左衛門の方が本来のニンだと思います。

その八汐をやり込める沖の井の菊之助さんもとてもカッコよかったですが、驚いたのは、御殿医の妻小槇の児太郎くん。
この女方さんたちに伍して台詞も動きも立派で、こう言っては失礼ながら最初出て来た時、誰だかわからなかったくらい。
もちろん足りない部分はまだまだあるでしょうか、これまでの役や21歳という年齢を考えると、俄然楽しみな女方さんに加わりました。

吉右衛門さんの仁木弾正は、あの登場シーンで歌舞伎座全体持って行かれちゃった感じ。
巻物を口にくわえ、すっぽんから登場する仁木弾正。
燕手の鬘、鼠地の長裃姿、眉間の傷。
面明かりに浮かび上がるその妖気漂う姿に目が釘づけです。
ひと言も発さず、不敵な含み笑いを見せながらゆらりゆらりと音もたてずに花道を行く弾正。
風格も凄みも、そして色気もだだ漏れの弾正の姿を、客席は静まり返って注視するほかないのでした。

このお家騒動を鮮やかに捌く細川勝元は市川染五郎さん。
紺碧鮮やかな裃に身を包んで颯爽と登場する勝元は水も滴るいい男っぷり。
声は少し高めにつくって早口でまくし立てている印象でしたが、のらりくらりと逃げようとする弾正と好対照でした。



終演時間遅くて最後まで観られなかったのが心残り の地獄度 ふらふら (total 1443 わーい(嬉しい顔) vs 1446 ふらふら)
posted by スキップ at 23:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック