二代目である当代吉右衛門さんを中心とし播磨屋さんゆかりの演目が毎年見応えたっぷりですが、今年は娘婿の(笑)菊之助さんが加わったり、夜の部は玉三郎さん主演の通し狂言だったり、私にとってはいささか新鮮でした。
松竹創業120周年
秀山祭九月大歌舞伎 昼の部
2015年9月20日(日) 11:00am 歌舞伎座 1階1列下手
一、双蝶々曲輪日記 新清水浮無瀬の場
出演: 中村梅玉 中村芝雀 中村錦之助 中村隼人 中村魁春 ほか
見取り上演されることも多い「引窓」で有名な「双蝶々曲輪日記」の序幕。
与兵衛(梅玉)と遊女都(魁春)、与五郎(錦之助)と遊女吾妻(芝雀)という2カップルの恋人同士にそれぞれ横恋慕する輩があり・・・というお話。
初見で、あらすじも読まずに観たのですが、物語の発端が描かれていて、「なるほど、この都さんが身請けされてお早さんになるのね。そう言えば廓あがりって言ってたな」とか、「あぁ、ここで与兵衛が人を殺してしまって、後の濡髪の『同じ人殺しでも・・』の台詞に繋がるのね」とか、合点がゆくところが多々あっておもしろかったです。
次に「双蝶々曲輪日記」を観る機会があったら、今までよりさらに興味深く観られそう。
梅玉さん与兵衛&魁春さん都の熟年(実は若い設定)、錦之助さん与五郎&芝雀さん吾妻の壮年(同じく若い設定)、両カップルがどちらもがユルユルいちゃいちゃデレデレしていて可愛い。
魁春さん都が自分に言い寄る手代権九郎に「指を切ったら嫁になる」と言い出した時には「何を言い出すやら」と思ったのですが、成り行きを観て、何て機転と悪知恵(ほめてます)が働くんだと感心。
捕らえられて「違う!」と助けを求める権九郎に、プイッと横を向いて知らんぷりする魁春さん都、おかしすぎ(笑)。権九郎さんは本当にお気の毒です。梅玉さんは品よくキリリとしていて、柔かみも愛嬌もある与兵衛。
まさか梅玉さんの宙乗りが見られるなんて。傘を片手にメリー・ポピンズみたい(笑)。
鳥笛をたくさん吊るした傘もおもしろかったな。
錦之助さん与五郎が梅丸くんの芝居好きの丁稚(かわいかった!)に花道で「好きな役者は萬屋錦之助」と言われて、「そんな役者は大嫌いじゃ」というのはお約束として、「まだセガレの隼人の方が・・」と続けたのはやんやの喝采が。
その後で出てきた役人・隼人くん。ナルホド良い男っぷりでした。
二幕の「紅葉狩」は思うところ多すぎて長くなっちゃったので別エントリーにします。
競伊勢物語(だてくらべいせものがたり)
序幕 奈良街道茶店の場 同 玉水渕の場/
大詰 春日野小由住居の場 同 奥座敷の場
出演: 中村吉右衛門 市川染五郎 尾上菊之助
中村米吉 中村児太郎 中村又五郎 中村東蔵 ほか
歌舞伎座での上演は、1965年以来、50年ぶりだとか。
もちろん初見で、文楽でも観たことがなく、ストーリーも全く知らなかったのですが、おもしろく拝見しました。
朝廷で惟喬親王と惟仁親王が対立する文徳帝の後継争いを背景にした物語。
大和国春日野に住む小由(東蔵)の娘 信夫(しのぶ/菊之助)は、玉水渕で惟喬親王方に奪われていた神鏡を銅羅の鐃八(又五郎)と争いながら手に入れますが、それは惟仁親王方の旧臣の子である夫の豆四郎(染五郎)に忠義を立てさせたい一心からことでした。
一方、公家の紀有常(吉右衛門)は小由のもとを訪れ、訳あって預けた実の娘である信夫を返して欲しいと頼みます。それは、信夫を豆四郎夫婦の首を打ち、危機に陥っている先帝の子 井筒姫と恋人在原業平の身代わりとするためでした・・・。
序幕は明るい茶店の場面。
新婚の豆四郎Love
善人と思っていたらまさかの悪人だった又五郎さん銅羅の鐃八からずぶ濡れになりながら神鏡を取り返したのもすべて愛する夫 豆四郎さんのため、な信夫ちゃんを観ていて夫婦愛の物語かと思っていたら・・・。
これ、「忠義のためにわが子を犠牲にする」っていう歌舞伎お得意の理不尽物語やーん
と気づいた二幕。
やむにやまれぬ子殺しの悲劇ではありますが、それぞれの役者さんの芝居や台詞がきめ細やかで、琴や砧や三味線、それに義太夫といった音曲がいかにも時代物の歌舞伎という趣き。有常と小由のやりとりには世話物の雰囲気もあって見応えありました。
リアル老女にしか見えない東蔵さんの小由がとてもよかったです。
有常にはったい茶をつくってあげて、それを飲みながら二人で昔の思い出話をする場面。
娘の信夫のことを本当に思っていて、心とは裏腹に勘当を言い渡す場面。
死ぬ覚悟の信夫が奏でる琴に合わせ、何も知らないまま砧を打つ場面。
それぞれに心情が切ないほど伝わってきました。
吉右衛門さんの有常は、まずその見栄えが立派で大きく、公家としてとしの品格もある姿は播磨屋ここにありという感じ。
初代の芸を継承しようとする強い意志が感じられる立ち姿でした。
紅白の布に包んだ二人の首を両手に抱えて立つ姿がとても立派なのですが、「でかしたなぁ」としみじみ発する声、その顔には悲しみとも怒りともつかない苦渋の表情が浮かんでいて、見ていて胸が締めつけられるようでした。
凛と美しい菊之助さんの信夫と柔かみも色気もある染五郎さん豆四郎は絵面も美しく、とても微笑ましい若夫婦なだけにその悲劇性が際立ちます。
菊之助さんはこの役のためにお琴を稽古されたそうですが、もの哀しそうにお琴を奏でる信夫を見ていて、玉三郎さんの「阿古屋」を継ぐ候補の一人は菊之助さんかな、とも思いました。
二人が身替りとなった井筒姫、業平の姿となって出てくる最後の場面は、やはり釈然としない思いも残りますが、二人に信夫と豆四郎の分の人生も重ね合わせて、幸せになってほしいと願うばかりです。
見応えたっぷり昼の部 のごくらく度
