
初演で主役の河辺隆次を演じたのは、なーんと仁左衛門さん(当時 片岡孝夫)。ヒロインお琴は大竹しのぶさんだったそうです。
「もとの黙阿弥」 浅草七軒町界隈
作: 井上ひさし
演出: 栗山民也
美術: 松井るみ
出演: 片岡愛之助 貫地谷しほり 浜中文一 大沢健 波乃久里子 床嶋佳子 渡辺哲 真飛聖 早乙女太一 ほか
2015年9月12日(土) 11:30am 松竹座 1階1列センター
明治初期 文明開化の日本。
新旧、和洋、華族と庶民・・・様々な価値観が混じり合い、転換しようとしていた時代。
興行停止処分を受けた浅草の芝居小屋・大和座で座頭 坂東飛鶴(波乃久里子)が営む「よろず稽古指南所」が舞台。
そこへ、かつて大和座で働いていた書生 久松菊雄(早乙女太一)が男爵家の跡取り 河辺隆次(片岡愛之助)を伴ってやって来ました。隆次は鹿鳴館での見合いのために、飛鶴に西洋舞踏を習うことになります。
一方、成金政商の長崎屋新五郎(渡辺哲)も良縁が舞い込んだ娘のお琴に西洋舞踊を習わせようと飛鶴のもとへ。隆次とお琴は互いの縁談相手でした。
翌日、やってきたお琴(貫地谷しほり)は女中のお繁(真飛 聖)と入れ替わって相手の本質を確かめたいと言います。
また、隆次も同じように考え、久松と入れ替わって現れました・・・。
井上ひさしさんの原作で、演出が栗山民也さんといえば、いかにもザ・こまつ座な組合せと思っていたのですが、少し拍子抜けするくらい井上テイストもこまつ座テイストもあっさり目。
普通の商業演劇といった趣きでした。幕間に「これほんとに演出は栗山さんだったっけ?」とポスター確かに行ったくらい。
とはいえ、面白くなかった訳ではもちろんなくて、達者な役者陣の熱演もあって、三幕飽きることなく楽しく拝見しました。
そうそう、今回舞台装置は大和座のワンシテュエーションで、盆で回って表と劇場内とに変わるのですが、この大和座内部が金丸座とか内子座をそのまま再現したみたいにつくり込まれたセットで関心していたのですが(最前列だったので細部までよく見えた)、これも幕間にポスターで確認して美術は松井るみさんだったことにオドロキました。一幕を観終わった時の印象は、
これ、まんま星組でやった「めぐり会いは再び」じゃないの、というもの。
柚希さんドラントが愛之助さん、紅さんブルギニョンが早乙女太一くん、ねねちゃんシルヴィアが貫地谷しほりさん、そして、れみちゃんリゼットは真飛聖さん
って全部あてはまるもんねー、と思いました。
あの作品は18世紀フランスの劇作家マリヴォー作の喜劇「愛と偶然との戯れ」をミュージカル化したものでしたので、井上さんもそのあたりからヒントを得たのかもしれません。
ドタバタがありつつ、物語は思った通りに進んで、ハッピーエンドの大団円・・・と思いきや、片方のカップルには苦い結末が用意されていて、お祭り騒ぎの後の哀しさ、「虚」が「実」に戻ったときの落差の悲哀がきちんと描かれているあたり、井上さんらしいアイロニーとも思いました。
もう一つ、井上さんらしいなと思ったのは、第三幕で展開される「演劇はいかにあるべきか」論争。
新劇 vs 歌舞伎よろしく、「リアリズムこそ演劇の真髄」とする隆次の姉・河辺賀津子(床嶋佳子)と、全く逆の意見を持つ坂東飛鶴(波乃久里子)が、それぞれが思う芝居を実演して見せるというもの。
それまでの議論の展開・・・たとえば、「舞台で演じられることはすべて本当のことでなければなりません」と言う賀津子に対して、「それじゃあ人殺しの場面はどうするんです。本当に殺すんですか?」と反論する飛鶴・・・を聞くのも興味深かったですが、それぞれの主張を実践した形で全く異なったタイプのお芝居を実際に見せられると、「な~るほどなぁ~」と肚に落ちる思いでした。
同時に、ここには、井上ひさしさんの演劇への思い、そして戯作するもの、演じるものへの気持ちが込められているのだろうなと感じた次第。
それから、二幕の劇中劇のオペレッタも楽しかったです。
オペレッタの名曲の数々を歌う、もうすっかり女優さんの真飛聖さんの綺麗なソプラノは耳福でしたし、そんな真飛さんを相手に、「真飛さんはずっと宝塚で鍛えられた歌を披露するんですが、それと一緒に歌っていう、本当に死ぬほど嫌なんです」と制作発表でおっしゃっていた早乙女太一くんもステキな歌声と、思いがけずマッチョな肉体美(笑)も披露してくれて眼福でした。
愛之助さんはヴィジュアルは華族の男爵には少し苦しかったけれど(笑)、浮世離れした雰囲気や、本当のことに気づいて隆次自身も成長していく心の過程がよく伝わってきました。
飛鶴さんプロデュースの方の劇で、「素人が演じる歌舞伎役者」に扮してわざと下手にやる立ち廻り、さすがに上手かったな(←表現ヘンだけど)。
お弟子さんの愛一郎さんも精養軒の出前役で歌もあったり何気にご活躍。
貫地谷しほりさんは映像でしか拝見したことはありませんでしたが、とても可愛くてお芝居も達者でした。
真飛聖さんはお繁さんには華やかすぎで背が高すぎかなぁとも思いますが、その華をよく消して(笑)熱演だったな。
早乙女太一くんは私が観たい太一くんではなかったけれど(笑)、コミカルで動きも表情の変化も多い役を、殻を破るような演技。
相変わらず口跡は明瞭だし、劇中劇で少し動いたり立ち廻りすると、さすがに動きの美しさが際立っていました。
お芝居の間はくるくるいろんな表情見せてくれたのに、カーテンコールではニコリともせずクールな無表情なのも相変わらず(笑)。
ただ、この4人については、本来の役より入れ替わった後の役まわりの方がハマッてる(衣装の似合いぶりも含めて)印象だったのはいかがなものかしら。
波乃久里子さんはさすがの存在感。
隣に座ってらした年配のご婦人が「お兄さん(正しくは弟さんだけどね)によう似て・・」とおっしゃっていましたが、本当に時折驚くほど声や表情が勘三郎さんに似ていらっしゃいました。
着物の所作や裾さばきも他の女優さんたちとは一線を画した美しさでした。

私の席からだと前過ぎて、「大和座」の提灯さがってるのも気づきませんでした のごくらく地獄度



