
オオカミとヤギの友情を描く原作の世界観、ストーリーはそのままに、立廻りやだんまり、六方といった様式美、ツケや音曲でしっかり歌舞伎の顔。
加えて花形役者さんたちの気合入った熱演。
期待以上にアツく楽しい舞台でした。
松竹創業120周年 九月花形歌舞伎
新作歌舞伎 「あらしのよるに」
原作: きむらゆういち
脚本: 今井豊茂
演出: 藤間勘十郎
衣装: ひびのこずえ
立師: 渥美博
出演: 中村獅童 尾上松也 市川月乃助 中村梅枝 中村萬太郎 市村竹松
市村橘太郎 河原崎権十郎 市村萬次郎 ほか
2015年9月5日(土) 11:00am 南座 1階1列下手
ある嵐の夜、真っ暗闇の山小屋で偶然出会ったオオカミのがぶ(獅童)とヤギのめい(松也)。
喰う側であるオオカミと喰われる側の ヤギ。
二匹は、お互いの素性に気づかぬまま夜通し語り合い、心を通じ合わせて友だちとなりました。
「あらしのよるに」を合言葉に再会し、互いの姿に驚きながらも、それぞれの仲間たちに内緒で友情を育んでいきます。
しかし、それはついに仲間たちの知ることとなり・・・。
原作はもちろん、NHK Eテレの「てれび絵本 あらしのよるに」も、アニメ映画も未見。
今回、この舞台が発表されて、獅童さんが声優を勤められていたこと、獅童さんのお母様がとてもお気に入りの作品だったことを初めて知りました。

クリアファイルとして販売されていました。南座の客席にはいつもよりお子さんも多くお見かけしましたが、さすがに長い間多くの子どもたちに愛された絵本というだけあって、とてもしっかりした内容。
後で調べてみたらストーリーは原作にかなり忠実のようですが、それをうまく整理して舞台作品に仕立て上げた脚本がまず Good Job!
オオカミやヤギ、リスやうさぎといった動物しか出て来ないお話ではありますが、そこに描かれる友情や親子の情、いじめや権力争い、裏切りといった内容は、そのまま人間社会にもあてはまって、ハッとさせられます。
その中で、「ともだち」という情で繋がって、お互いを思い合いかばい合うがぶとめいの優しさに胸が熱くなることもしばしば。
がぶが、月が美しいヒミツの場所にめいを案内し、そこが自分にとってどんなに大切な場所で、だからこそめいを連れて来たかったと話すところでは思わずウルウル。
そして、何と言っても、その絵本の世界をぐっと歌舞伎に引き寄せて見せた藤間勘十郎さんの演出がすばらしいです。
冒頭、片岡千壽さん扮するバリー筆頭にオオカミたちが登場して踊る場面から舞台にぐっと惹きつけられました。
スピーディな場面転換。オオカミが岩の上(舞台上手下手の上部の穴)から出入りしたり。
前で森の動物たちがあれこれ話している時に、ホリゾントの幕(のれんみたいになっている)からザッと横一列に並んだオオカミたちが現れた場面なんで背中がゾクゾクしました。
クライマックスの白い布と紙吹雪を使って、すべて人力の雪崩の演出もダイナミックで美しく印象的でした。
ひびのこずえさんデザインの衣装もステキ。
オオカミは黒やグレーを基調にしたダークトーン。毛皮もついていて、袖口からは鮮やかなブルーや紫がチラリと見えます。
メイクも隈取ふうでカッコいい。耳がピンと立っています。
一方のヤギたちは白いモフモフ。袖口から覗くのはやさしいピンクやグリーン。
みずら髪を結っています。

「姿かたちは違うけど、いつまでも一緒でやんす」
というがぶの声が聞こえそう。
義太夫や聞き慣れた下座が、♪ 腹へった 喰いてぇな 腹へった 喰いてぇな とがぶの気持ちを代弁したり(がぶがうるさいっ!っと文句言ったら、竹本さんプイッと横向いてた)、♪メリーさんのひつじ を演奏したり(はくが「僕たちヤギなんだけど」とツッコんでた)なんていう遊び心もありつつ、あくまで古典的で正統派の歌舞伎にこだわった、という印象です。
それがまたズバズバよくハマっていました。
がぶの獅童さん。
顔から汗をぽたぽた滴らせて熱演。
「・・・でやんす」という特徴ある口調で、全体的に軽妙な役づくりなのですが、ヘタレ感のあるがぶによくハマっていました。
「ともだちなのに おいしそう」と捕食者としての本能と、ともだちを思う情との狭間で揺れ動きながら見せる苦しそうな表情が切ない。
雪崩で記憶を失い、めいを食べようと襲いかかる場面の声色がそれまでとガラリと変わったのにも目を見張りました。
最後の「狐六方」ならぬ「オオカミ六方」での渾身の花道引っ込みもカッコよかった~。
めいは松也さん。
ちょっと大きいけれども(笑)、細やかな仕草などとてもよく研究されていました。
待合せ場所でがぶがオオカミだと初めて気づいた時、食べられると怯えて木の陰に隠れたり、なだめられてひょいと顔だけのぞかせる仕草のかわいらしいこと。
女の子設定かな?と思ったくらい。守ってあげたくなります。
喜んだり怯えたり、くるくる変わる表情もとても可愛い。
とてもついこの間まで野卑でゲスなルキーニやっていた人とは思えません。
松也さんは声も滑舌もよいので、記憶を失って豹変したがぶに、「いっそあのあらしのよるに出会わなければ」と叫んだ声ががぶの心に届いて記憶が戻る、というのがとても説得力ありました。
一幕でがぶとめいが客席通路を歩く時、「この道は狭いからおいらが先に」とがぶが客席を横切り始めてざわめく客席。
「本当に狭いですね」と後に続きながらお客さんの膝の上に座っちゃうめい。
「ほんとにあなたは女が好きですね~」とがぶに言われて、「私は男なものですから女が好きです」とシレッと応えていました(≧∇≦)
上背あってクールでオットコマエで色気もあって、敵役はこうでなくっちゃね、
の ぎろ 月乃助さん
あくまでもノーブルで正統派の姫君 みい姫の梅枝くん
正義感あるオオカミの中の良心 がいの権十郎さん
若いのにしっかり者のたぶ 萬太郎くんとメガネ博士くんな竹松くんのはく
妖しさ満点・・だけどどこかカワイイおばば 萬次郎さん(「恋バナ」とか言ってた)
関西弁のバリー(千壽)筆頭に、じぐ(松十郎)、ざく(千次郎)という晴の会トリオのオオカミ
・・・みんなあて書きじゃない?と思うくらい活き活きと役にハマっていました。

それで新作をこの完成度でつくり上げる歌舞伎役者さんの底力おそるべし。
カーテンコールで2人手をつないで出てきた獅童さんと松也さんの晴れやかな笑顔が達成感を物語っていました。
観ている間じゅう楽しくて、観終わった後とても幸せな気分になる舞台。たくさんの人に観ていただきたい でやんす のごくらく度


