
紀元前420年頃書かれたギリシャ悲劇に挑むのは、轟悠さんを中心とした専科・月組・宙組の混成チーム。
宝塚歌劇 専科公演
ギリシャ悲劇 「オイディプス王」
~ソフォクレス原作「オイディプス王」より~
脚色・演出: 小柳奈穂子
出演: 轟悠 凪七瑠海 飛鳥裕 夏美よう 悠真倫 華形ひかる 沙央くらま 憧花ゆりの 光月るう ほか
2015年8月14日(金) 2:30pm 宝塚バウホール 12列センター
古代ギリシャ・コリントスの王子オイディプス(轟悠)は、自ら授かった「父を殺し、母を娶るであろう」との予言の実現を避けるため放浪の旅に出て、テーバイ国で怪物スフィンクスを追い払い、請われてテーバイ国の王となります。
前王の妃イオカステ(凪七瑠海)を妻に迎え幸せな日々を送りますが、数年後、国を襲った疫病災厄から国を救うため、「前王ライオスを殺した犯人を罰せよ」との神託のお告げに従いライオス殺しの犯人を探ります。その謎を解くうち、悲劇的な真実が明らかに・・・。
この公演が発表になった時、専科公演とはいえ、「宝塚で『オイディプス王』を?」と少し驚いたのですが、時として“宝塚歌劇”を観ていることを忘れそうな、重厚で骨太の作品になっていました。
小柳奈穂子先生といえば星組の「めぐり逢いは再び」や雪組の「ルパン三世」といった明るくて笑いもたくさんあってロマンティックな作品のイメージが強いのですが、とても正攻法でこのギリシャ悲劇をつくり上げたという印象です。
巫女(憧花ゆり)が語り部となって、上手下手にはコロスが常にいる舞台。
ダンスはなくて、台詞が時々歌になる音楽劇といった趣きでした。

舞台中央に大きな階段、左右にも低めの階段アンバランスに配した石造りのような荘厳な舞台装置もいつもの宝塚とは一線を画すようで印象的だったのですが、後でプログラム見てみると二村周作さんでした。
あー、そういえば「ラスト・タイクーン」もうそうだったよねぇ~と調べてみたら「ルパン三世」もだったと今さら知るという

その大きな階段の上に、マントを翻して颯爽と登場した、このポスターと全く同じオイディプス王の轟悠さん。
もう、華があるとかステキ!とかカッコイイ!!とかは超越しています。
その貫禄と存在感。
元よりギリシャ彫刻のような彫りの深いお顔立ちですから、まるで物語から抜け出てきたよう。
あの低音のいい声で、怒りに燃える時も嘆き叫ぶ時も、台詞の届き方は天下一品。
まさしく「男役の完成形」。
オイディプスの悲劇的な運命は観客側にはわかっている訳で、それを追求しようとする彼に、観ていて「それ以上はやめて」と言いたい気持ちにもなります。
でも、と考える。
真実って、知らない方が幸せだということ、確かにあるけれど、本人にとってはそこに真実があるなら、知っておきたいと思うのもまた無理からぬこと。
真実を知って、イオカステを亡くして、知らなかったこととはいえ自分の罪深さを悔いて自分で両目を潰すオイディプス。
そして苦難の放浪の果てに神の一員に加えられたという事実が、彼の魂の救済も示しているようで、そのあたりにこの2500年前に書かれた物語の普遍性もあるのかなと思いました。
そうそう、オイディプスが目を潰して目の下血だらけで出てきたシーン。
時間が経つにつれてその血が頬の下の方まで流れて来ていて「液体なんだ!」と驚いた次第であります。
イオカステは凪七瑠海さん。
年齢バランス的に轟さんオイディプスを生んだ女性には見えない、ということはさておき、
凛と美しくて品もあって、立ち姿やドレスの着こなしもすばらしく、王妃として申し分ないと思います。
男役としては高い声が幸いしていますし、台詞にも力強さがあってよかったな。
女役にヒットが多いような気がするのは男役としての凪七さんにとって幸せなことなのかどうかは躊躇うところではあります。
オイディプスの義弟クレオンの華形ひかるさんの好演も光っていました。
轟さんと堂々と渡り合っていて、歌もすごく安定した感じ。
専科に異動してから活躍目立ちますね。
幕間なしの1時間30分というのも宝塚では珍しい上演形式。
宝塚流ギリシャ悲劇の世界にどっぷり浸れる90分でした。
オイディプスが放浪に出る時二人の娘を連れて行くのは、娘たちにとって幸せなのかどうか悩ましいところ のごくらく地獄度



