
ひたすら飛び続け 寝る時は風に乗り
地面に降りるの 死ぬ時だけ」
ヴァルがレイディに語る「足のない鳥」の切なさ。
「なれるもんならなってみたいね」と応えるレイディの哀しさ。
シアターコクーン・オンレパートリー2015
「地獄のオルフェウス」
作: テネシー・ウィリアムズ 翻訳: 広田敦郎
演出: フィリップ・ブリーン
出演: 大竹しのぶ 三浦春馬 水川あさみ 西尾まり 峯村リエ 猫背椿 久ヶ沢徹 山本龍二 三田和代 ほか
2015年6月13日(土) 2:00pm 森ノ宮ピロティホール E列センター
テネシー・ウィリアムズが1957年に発表した戯曲。
マーロン・ブランド主演で映画化されていて、日本でも何度か舞台で上演されているということですが、私は原作も読んだことなくて今回初見。
ギリシア神話のオルフェウスの話は知っていましたので、悲劇的な物語だと想像はつきます。
ま、「地獄の」ですものね。
舞台は古い因習に縛られ、差別と偏見と暴力に満ちた閉鎖的なアメリカ南部の田舎町。
愛のない結婚をした病気の夫を抱えて窒息しそうな日常を送るイタリア系移民のレイディ(大竹しのぶ)の前に、蛇革のジャケットを着てギターを持った若い青年ヴァル(三浦春馬)が現れます。
町中の女性を魅了し、翻弄するヴァルにレイディもまた惹かれ、やがて二人は激しく愛し合うようになりますが・・・。
一幕 1時間50分、二幕 50分 というバランスの悪い構成ですが、悲劇がひたひたと迫りくるような雰囲気で終始緊張感が漂う舞台。
特に二幕後半の怒涛のような展開は心臓バクバクでした。
ジェイブ(山本龍二)にお金で買われるような愛のない結婚をして15年。
その夫こそ、「俺たちが焼き殺してやった」と、父を死に追いやった張本人だと語られる真実。
絶望と引き換えのように、ヴァルの子どもを身ごもっていることを知るレイディ。
「私は勝ったのよ!」と喜びを爆発させるレイディに銃弾を浴びせるジェイブ。
レイディ殺しの罪を着せられ、町の男たちの狂気に晒されるヴァルの悲痛な叫び声。
妊娠を知った時のレイディの喜び方が凄まじかったので、レイディは本当はヴァルを愛していたのではなくて、自分が生きてきた証に、新しい命が欲しかっただけなのではないか、という気もししたのですが、でも、
ジェイブの銃口からヴァルを庇って撃たれたレイディを見て、きっと彼女は愛に満たされていたのだろうなと考え直しました。
ヴァルにとっても、レイディは特別な存在。
「今まで誰にも言ったことがない言葉・・・君を心から愛してる、レイディ」
そのことを言うためだけに戻ってきたヴァル。
あの時去っていれば・・と思わないでもないけれど。
ヴァルもレイディも、魂の自由を求めて空を羽ばたいて、
もがいてやがて力つきて墜落して破滅する「足のない鳥」だったのかな。
いや、二人だけでなく、人間は皆、そんな生き物なのかもしれません。
・・・物語としては予想通りとてもあと味悪く(笑)、苦く切なくやり切れない幕切れ。
そんな中、自由奔放で妖術師にもリベラルに接するキャロル(水川あさみ)が唯一の希望かな。
排他的で因習にまみれた人々からは異端者のように扱われるキャロルですが、彼女こそが、レイディやヴァルの自由であろうとする思いを受け継いで新しい時代へと歩み出す存在のように見えました。
「金品より価値のあるものだ」というヴァルの蛇革のジャケットを羽織って。
可愛くふてぶてく強く切なく、相変わらず振り幅広いレイディ 大竹しのぶさん
ヴァルと魂で通じ合う不思議な存在感ヴィーの三田和代さん
見た目から異彩を放つ体当たり演技のキャロル 水川あさみさん
さらには西尾まりさん・峯村リエさん・猫背椿さんといったひと癖もふた癖もある女優陣を向こうにまわして、
三浦春馬くんです。
三浦春馬くんがイメージしてたよりずっと男っぽくて色っぽい大人のオトコなのにオドロキ。
前に観たのは「ZIPANG PUNK 五右衛門ロックⅢ」で2013年2月。
綺麗でダンスも殺陣も歌も芝居も、何でも「できる子」という印象だったものの、毒気のあるオトコが好みの私のアンテナには引っかからず。
その時の感想検索してみたら「爽やか好青年過ぎて、色っぽさとか毒とか、負のオーラのようなものも欲しいところではありますが」と書いていました。やっぱりね、自分(笑)。
が、わずか2年でこの大化けっぷり。
自由な魂の象徴で、純粋さと野性味を併せ持つ30歳のヴァルはとても難しい役だと思いますが、危うさと透明感を兼ね備えていてとてもよかったです。
町中の女の人を惹きつけるという魅力も納得の美しさ妖しさ
歌が上手いことは前の舞台で立証済みですが、ヴァルの歌う Heavenly Grass のメロウな響きはとても切なかったです。
はるかに遠く歩いても
戻れない天の野原
ここにはない
あの甘き草

「この中の誰かがまた大阪に来た時はよろしくお願いします」と三田さん。もちろんです!
こちらはロビーに飾られた色とりどりの祝花の中にあった薔薇のギター。
ヴァルへのものですね。
苦く切なくやり切れない幕切れだけに、カテコの春馬くんの笑顔に救われた思いでした のごくらく地獄度



