2015年06月16日

オペラと演劇の幸せなマリアージュ  「フィガロの結婚」

figaro.jpg指揮者の井上道義さんと劇作家の野田秀樹さん。
二人がタッグを組んだ新演出のオペラです。

美術 堀尾幸男、衣装 ひびのこずえ・・・
ザ・野田秀樹な「フィガロの結婚」。
舞台は黒船来航時代の長崎。フィガ郎にスザ女。
野田さんが演出するとオペラもこうなるのか、という感じ。
お見事でした。


全国共同制作プロジェクト
モーツァルト 歌劇 「フィガロの結婚」 ~庭師は見た!~
指揮・総監督: 井上道義 
演出: 野田秀樹
美術: 堀尾幸男
衣裳: ひびのこづえ
出演: ナターレ・デ・カロリス  テオドラ・ゲオルギュー  小林沙羅  大山大輔  マルテン・エンゲルチェズ  森山京子  森雅史  牧川修一  コロン・えりか  廣川三憲 ほか
合唱: 新国立劇場合唱団  +地元お助け合唱団?
演奏: 兵庫芸術文化センター管弦楽団

2015年6月7日(日) 2:00pm 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール 
1階D列(3列目)センター



ストーリー: アルマヴィーヴァ伯爵(ナターレ・デ・カロリス)の従者フィガ郎(大山大輔)と女中スザ女(小林沙羅)の結婚式当日。
フィガ郎はスザ女から伯爵が彼女を誘惑しているということを聞き、伯爵をこらしめるために、伯爵の小姓で伯爵夫人テオドラ・ゲオルギュー)に思いを寄せる(ケルビーノ(マルテン・エンゲルチェズ)にスザ女の服を着せて女装をさせ、伯爵のものとに差し向けようという作戦をたてます。
その一方、フィガ郎は、お金を借りていたマルチェ里奈(森山京子)から、、「借金を返せなかったから結婚する約束」と訴えられます・・・。


会場に入ると、オーケストラピットがオープンになっていて、普段は隠れている指揮者はもちろん、演奏する人もみんな見えます。
楽団員の皆さんが楽器を手に個々にチューニングする中、コンサートマスター(女性でした)がスッと立ち上がってバイオリンを構え、みんなが注目して音を合わせ、一気にキリッとした雰囲気に変わります。
そのタイミングを見計らったように下手ドアから井上道義さんが颯爽と登場。
普段めったに見られない光景におのずとテンションも上がります。


舞台に幕はなく、八百屋になったステージの奥に大きな長方形の箱のようなものが置かれています。
金地に、左からそれぞれ竹、梅、桜が大胆に描かれたこの箱は、ずっと舞台上にあって、部屋のドアになったり、伯爵夫人の部屋のクローゼットになったり。
前方一番客席寄り正面には、長い竹竿が2本ずつ☓の形に組まれていました。
開演10分前位になると植木鋏(これも竹)を持った男が現れて、この竹竿を枝に見立てて剪定を始めます。

後になって、この男が庭師・アントニ男で、狂言回しも兼ねていて、まさに「庭師は見た!」という視線で物語が展開することがわかります。
この庭師、あんまり歌わないのね、と思っていたら、ナイロン100℃の廣川三憲さんだと私が知ったのは終演後のことでした(笑)。この舞台には二つの「融合」があって、
一つは、西洋と東洋(日本)の融合。

舞台を日本に置いて、登場人物は東西混合ということで、日本人が西洋人を演じたり、日本人ばかりでオペラを演じる時にイタリア語で歌う違和感をあっさり飛び越えて、日本人は日本語の台詞と歌、それ以外はイタリア語で、ここぞというアリアは日本人でもイタリア語で、とまるでバイリンガル・オペラの様相で、「その手があったか」という感じ。

4幕で、伯爵夫人に化けたスザ女の前で、フィガ郎が最初はイタリア語で歌っていたのが、「声を変えていてもわかる」と相手が愛しいスザ女と気づいた途端、日本語で歌い始めるあたり、ほんとに心憎いばかりの演出だな、と思いました。

日本語の歌の時にも出る字幕もすべて野田秀樹さんご自身が手がけられたそうですが、そのこだわりの言葉選びも、出すタイミングも絶妙で、本当に効果的かつこの作品をわかりやすいものにしていたと思います。


もう一つはオペラと演劇の融合。
和の素材を使ったシンプルな舞台装置。和洋折衷の衣装。
リボンや紐や布を使った演出、歌舞伎や文楽といった日本の伝統芸能の手法も採り入れて、野田秀樹さんらしい言葉遊びが随所に飛び交い、声楽アンサンブルはもちろん、演劇のアンサンブルも活躍・・・と演劇的な楽しみが盛りだくさん。
だけどちゃんとオペラで、聴かせるところはしっかり聴かせてくれます。
オペラと演劇の幸せなマリアージュといった趣きでした。


楽しかった場面はいくつもあるのですが、特に印象に残っているのは、
スザ女とマルチェ里奈の対決(?)シーン。
若い女 vs 熟年女性という構図で、傘に書かれた心の声・・「ババア」とか、オペラにあるまじきことながら爆笑してしまいました。
日本人キャストの中ではマルチェ里奈の森山京子さんが一番声量があって豊かな歌唱だったという印象です。

もちろん、表情豊かでとてもキュートなスザ女の小林沙羅さんはじめキャストの皆さんはみんな活き活きのびやかでした。
ケルビーノのマルテン・エンゲルチェズさんは、お小姓にしては、そして女装して女性と間違えられる設定にしてはちょっと大きすぎかと思いましたが、とても男性の声とは思えないカウンターテナーの響きには耳を奪われました。

有名なオペラですから、伯爵夫妻とケルビーノが船でやって来る冒頭の場面の「序曲」はじめ聞き覚えのある曲もたくさん。
ゲオルギューさん伯爵夫人の2曲のアリアは本当に夢見るように美しくて聴き惚れました。

「女はみんなこうしたもの」という台詞が出てきて、「あれ?それって去年観たやつじゃん」と思っていたら、ちゃんと「コジ・ファン・トゥッテ」と歌っていて、それを聞き逃さなかったワタシ、エライと自画自賛(笑)したり。
そうそう、指揮の井上さんもひと言台詞でお芝居に参加されていました。


ラスト。
夫人が伯爵に向かって銃を放つのは、多分オペラにはない演出だと思うのですが、これは伯爵夫人が言葉とは裏腹に伯爵を許していないことを野田さんなりに表したのでしょうか。


オペラは年に一度くらいしか観る機会がないのでエラそうなことを言える立場ではありませんが、スタンダードなオペラ公演とはいろいろ違っていて、それを含めてとても楽しめました。
今回野田さんの演出ということで、初めてオペラを観るという人が私の周りにも数人いました。
野田さんの演劇ファンも、クラシック畑のオペラファンの人にも、とても楽しめる舞台だったと思います。

IMG_4349.jpgこれを機会に、演劇ファンがオペラにも興味を持ち、オペラばかり観て来た人がストレートプレイにも足を運ぶようになったら、それこそ素敵なマリアージュではないかしら。



オペラを観る時のいつものお楽しみ泡。
この日は アンリオ ブリュット スーヴェラン でした のごくらく度 わーい(嬉しい顔) (toal 1387 わーい(嬉しい顔) vs 1390 ふらふら)
posted by スキップ at 23:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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