
シェイクスピアの数ある作品の中で最も成熟した喜劇とも呼ばれるこのロマンティック・コメディを、ジョン・ケアードさんが演出されるということで興味シンシンでた。
ケアードさんは、「音楽に満たされた物語」とおっしゃったそうですが、まさにそんな感じ。
心に残る美しい音楽と歌と台詞で彩られた、楽しくてやさしくて、そして切ない物語。
「十二夜」
作: ウィリアム・シェイクスピア 翻訳: 松岡和子
演出: ジョン・ケアード
美術・衣裳: ヨハン・エンゲルス
音楽・編曲: ジョン・キャメロン
出演: 音月桂 小西遼生 中嶋朋子 橋本さとし 石川禅 壤晴彦
成河 西牟田恵 山口馬木也 ほか
2015年4月11日(土) 12:00pm 梅田芸術劇場メインホール 1階8列センター
ストーリー: 双子の兄妹セバスチャンとヴァイオラ(音月桂・二役)の乗る船が遭難し、ヴァイオラは見知らぬ土地イリリアにたどり着きます。兄が溺れて死んだと思い込んだヴァイオラは、護身のために兄の服に身を包んでシザーリオと名乗り、オーシーノ公爵(小西遼生)に小姓として仕えます。 オーシーノは、伯爵令嬢オリヴィア(中嶋朋子)に恋焦がれていて、シザーリオを使い立てて思いを伝えようとしますが、オリヴィアはシザーリオを本当の男性だと思い込んでひと目で恋に落ちてしまいます。
やはり一命を取りとめていたセバスチャンもイリリアに着き、偶然オリヴィアに出会います。
一方で、オリヴィアに思いを寄せる執事マルヴォーリオ(橋本さとし)に、サー・トービー(壌晴彦)やオリヴィアの侍女マライア(西牟田恵)が悪戯を仕掛け・・・。
ヒロインの男装、双子の取り違い、一方通行の片思いが巡る輪・・・
人生の喜びや楽しみ、滑稽さ、ほろ苦さ、そして、静かに大地に染み入る雨のような優しさの中に切なさも感じさせる物語です。「音楽に満たされた物語」の始まりは、やはり音楽。
開演前から奏でられる弦楽三重奏。
憂いを帯びた表情のオーシーノ公爵が庭で楽士たちの演奏を聴いているところから始まります。
冒頭は楽器の音色で始まって、
エンディングは人の声・・歌で幕を閉じるのでした。
ハッピーエンドで終わった物語の最後に舞台に残る哀しげな表情の3人(マルヴォーリオ、サー・アンドルー、アントーニオ)
シルエットで浮かび上がるこの失恋した3人を送り出すように歌う道化のフェステの綺麗な歌声。
ジョン・ケアードさんの演出で音楽とともに印象的だったのは、笑いの中に人間の愚かさや、それゆえの哀しみがより色濃く感じられたことです。
「十二夜」というこの作品が、単なる祝祭劇ではなく、やはり「人間」を描いた作品なのだと改めて思いました。
一つだけ注文を挙げるとすれば、マルヴォーリオがそんなにイヤな奴に見えなかったので(これは多分、橋本さとしさんを見る私の贔屓目にもよるところも大と思われる)、サー・トービーやマライアが彼に仕掛ける“悪戯”が理不尽ないじめのように感じられたことでしょうか。
舞台装置や衣装も素敵だったな。
今回 美術と衣装を担当されたのはヨハン・エンゲルスさん。
存じ上げなかったのですが、この作品のお仕事の直後、昨年11月に急逝されたのだとか。ご冥福をお祈りいたします。
冒頭、オーシーノ公爵の邸内と思われる緑あふれる庭園の美しさ。
それを取り囲む濃い緑の生垣が円柱のようになっていて、それが広がったり、閉じたり、また舞台全体がくるりと回転したりして場面転換。
中心にいつも凛と竚む日時計が何だか象徴的でした。
衣装も刺繍や細部にわたるまでとても手が混んでいて美しかったです。
役者さんは皆適役好演。
宝塚退団後、舞台で拝見するは初めての音月桂さん。
瑞々しく可愛いらしいヴァイオラ、ヴァイオラが男装する美少年シザーリオ、凛々しい双子の兄セバスチャンという実質三役を演じ分け。
元々男役としては小柄で中性的な魅力のある人でしたが、何かと物議を醸した「仮面の男」でも二役の演じ分けうまかったことを思い出しました。
しいて言えば、オーシーノ公爵と接する時の(正体を明かさない)ヴァイオラの恋する女の子のドキドキ感がちょっと足りない気がしたかしら。
男装のシザーリオとホンモノの男性であるセバスチャンは、同じ衣装でサッシュの色が違うだけだったようですが、その色分けがなくても立っているだけで今舞台上にいるのはどちらかちゃんとかわかってスゴい。
大詰めのシザーリオとセバスチャンがくるくる入れ替わる演出もおもしろかったです。そうきたか、という感じ。
剣と赤いサッシュを持ち替えると人物もバトンタッチして、音月さんの切り替えもお見事でした。
ほんのちょっぴりですが、お得意ののびやかな歌声が聴けたのもうれしかったです。
恋に悩む憂いを帯びた気品あるオーシーノー公爵の小西遼生さん、ちょっぴりお姉さんに見えたけれど、美しく気位の高い令嬢がひと目で恋に堕ちる可愛さとの落差も鮮やかなオリヴィアの中嶋朋子さん、表情豊かな闊達な演技で場をさらった執事マルヴォーリオの橋本さとしさん、ちょっぴりお馬鹿だけど人の好いサー・アンドルーの石川禅さん、苦味走った男っぷりのアントーニオ・山口馬木也さんなどナド。
皆さんそれぞ「十二夜」の世界観とその人物を生きて、すばらしかったです。
そして、フェステの成河さん。
シェイクスピアの喜劇になくてはならない道化役ですが、軽妙で味わいのある台詞、軽やかな動き、ギターも弾けていい声で歌う歌も上手い・・・と存在感たっぷり。
NODA・MAPなどで拝見する成河さんは、あのキンキンした声が若干苦手だったりするのですが、今回はそんな風に感じなかったです。
カーテンコールでは、そのフェステの指揮で役者さんたち全員で合唱。
ヘイホー 風と雨 雨は毎日降るものさ~ みたいな歌詞。
まるで舞台上にいる一人一人の人生にゆっくりと雨がやさしい降り注ぐようにも感じて、
ちょっと泣きそうになりました。
そして何故か市川亀治郎さん演じる麻阿(マライア)がモーレツに観たくなりました のごくらく地獄度



