
1997年にブロードウェイで初演されトニー賞5部門を受賞した作品を、トム・サザーランドの演出により2013年にロンドンで上演された新演出版ということですが、ミュージカルになっていたことすら知りませんでしたので(旧演出版は2007年に日本でも上演されたらしい)、初見でした。
ジェームズ・キャメロン監督の映画はかなり評判になった後に、「どーなのぉ?」という感じで斜に構えて観て、ディカプリオくんジャックが冷たい海の中で身を挺してローズを守るところでまんまと号泣したという・・・。
ミュージカル 「タイタニック」
脚本: ピーター・ストーン
作詞・作曲: モーリー・イェストン
演出: トム・サザーランド.
オーケストレーション: イワン・ワインバーガー
音楽監督: 金子浩介.
翻訳・訳詞・演出助手: 市川洋二郎.
出演: 加藤和樹 鈴木綜馬 藤岡正明 戸井勝海 佐藤隆紀 津田英佑 古川雄大 入野自由 矢崎広 シルビア・グラブ 未来優希 則松亜海 安寿ミラ 佐山陽規 光枝明彦 ほか
2015年4月1日(水) 6:30pm シアター・ドラマシティ 12列センター
劇場に入ると舞台上では設計士アンドリュース(加藤和樹)が机に向かい、設計図を書いています。後で知ったのですが、これ、開演前の30分間ずっとやっているのだそう。

史実に基づいた脚本ということで、取ってつけたような美談でもヒーローが登場する訳でも、お涙頂戴の物語でもなく、淡々とこの船に起こった悲劇を描き出しているという印象です。
物語はタイタニック号出航から始まります。
タイタニック号が停泊した港に集ってくる乗組員や乗客たち・・・アメリカでの成功を夢見る者、この船の乗務でお金を稼いで恋人との結婚を考える者、人生の晩秋を穏やかに過ごす夫婦・・思いはそれぞれ違っていても、皆明るい希望を胸に集ってきます。
それぞれが歌う曲も美しく明るい曲ばかりで、その先の悲劇を知っている私ちはそれを聴いているだけで胸が締めつけられるよう。セットはシンプルで、2階建てになった可動式のデッキみたいな装置のみ。
それが船首だったり船室だったり、デッキだったりレストランだったり、というのを芝居で見せる趣向。客席通路も甲板や海に見立てられたり。沈没のシーンも含めて、映像を一切使わない、観客のイマジネーションを刺激する演出で好感。
舞台は2幕構成で、1幕では乗客や乗組員たち、様々な職業や階層の人々の人間模様が歌で綴られていきます。
見るからに特別な階層である一等客室、アメリカには夢があると信じる移民たちがひしめく三等客室など、まさに「豪華客船は社会の縮図」です。
どのエピソードも興味深かったですが、特に印象的だったのは
機関士のバレット(藤岡正明)が恋人への手紙の打電を通信士ブライド(上口耕平)に頼むシーン。
二人とも可愛くて温かくて。バレットが歌う「プロポーズ」もよかったな。
そこにヒタヒタと、でも確実に近づく氷山の影。
そして一気に破綻する一幕終わり。
二幕。
緊迫した場面が続きますが、
救命ボートに乗った人々が、船を離れて行く場面。
女性、子どもが優先されてボートに乗れた人たちは客席通路で、船に残る人々は舞台で、互いを見つめ合いながら
明日をください
1度だけ
生きて会える約束を
と歌う We'll Meet Tomorrow (また明日、きっと) が圧巻。
通路側の席でしたので、キャロライン役の未来優希さんが目に涙をいっぱいためて、船に残るチャールズ(佐藤隆紀)を見つめて絶唱する姿に涙腺崩壊。
行く者も残る者も、生きる者も死と直面する者も、どちらも身を切られるような、血を吐くような思いだったことがひしひしと伝わってきました。
別れの場面で印象的だったのは、ストラウス夫妻(佐山陽規・安寿ミラ)。
一等客の夫妻は、救命ボートの乗ることを促されますが、
ストラウス氏は「若者が先だ」と妻だけを乗せようとします。
40年間連れ添って夫に逆らったことなど一度もない夫人のアイダは「お断りよ」と初めて逆らいます。
「40年も連れ添って、今さらどうしてあなたなしで生きていけるの? あなたの行くところに、私も行くわ」
穏やかで控えめで従順そのもののアイダがたった一度見せた毅然とした決意に涙。
二人が静かに最後の時を過ごす船室に、客室係のエッチス(戸井勝海)がシャンパンを注ぎに来る場面もよかったな。
「シャンパンを一杯いかがです? クリスタルの1891年です」
「そんなものをあけるなんて、もったいないわ」
「今の状況では、開けないほうがもったいないかと存じます」
「長い間、お二人にお仕えできたことを嬉しく思います」とエッチス。
シャンパングラスを傾けながら、二人が歌う Still (今でも) にまた涙。
「ね、教えてあげましょうか? いまでもあなた、かなりのいい男よ」
「そうでなければ、これほど美しい妻を、こんなに長い間繋ぎ止めておくことなどできないだろう?」
一幕で様々な人間模様が歌で綴られるところは、ミュージカルにあまり慣れていない私にはいささか長く感じたのが正直なところ。
ですがそれを補って余りある二幕。
役者さん歌うまさん揃いで、楽曲もよい曲ばかりで、ソロもコーラスも迫力ありましたが、バレットの藤岡正明さんの豊かな声量と伸びやかなヴォーカルが特に印象的でした。
藤岡くんといえば、CHEMISTRYを輩出したASAYANの男性ヴォーカリストオーディションのファイナリストの一人だったことを懐かしく思い出しました。
あの頃から歌うまかったもんなぁ。
にしても、あのオーディションのファイナリストは、合格した二人はもちろん、EXILEのATSUSHIといいネスミスといい、みんな活躍してるなぁ。
それから、古川雄大くん演じるジムにグイグイ攻め入る(笑)ケイトの則松亜海さん。
耳に心地よい歌声だけど知らない人だなぁと思っていたら・・・夢華あみちゃんだったの!

これが宝塚退団後初舞台なのだとか。
在団中いろいろありましたが、歌の実力はある人だったし、これからに期待・・・か?な?
カーテンコールで、この事故で実際に亡くなった方々の名前が刻まれたスクリーンが降りてきて、
出演者の皆さんが右手を胸にあててそれを見上げているのを見て、亡くなった方にも、生き残った人々にも、その生命の数だけ人生がありドラマがあったのだと、改めて感じ入りました。
狙った訳ではないですが、この日は大阪公演初日で、入場時には非売品のクリアファイルが配られ、終演後には、4人の出演者(加藤和樹さん・佐藤隆紀さん・津田英佑さん・古川雄大さん)によるお見送りイベントがありました。
こういうイベントは初めての不肖スキップ。
ふーん、お見送りってこんなふうにされるんだぁ、と興味シンシンでございました。
古川雄大くん 顔ちっちゃ! のごくらく地獄度



