2015年04月02日

希望の顔をした絶望 「正しい教室」

tadashii.jpg「この子みたいに自分からアピールする子はまだいいんだ。
本当に心配なのは、それすらできない、吐き出せない子。
この沢山の『希望』の中にこそ本当の絶望があるんだ」
と寺井先生。

それに呼応するように、
「仰げば尊し」が聞こえてくる中、教室の壁に貼りだされた子どもたちの数だけの「希望」という字の一つに手をあて、まるでその声を聴くように頭を垂れる菊池くんの姿が切ない幕切れでした。

PARCO PRESENTS 「正しい教室」
作・演出: 蓬莱竜太
出演:  井上芳雄  鈴木砂羽  前田亜季  高橋努  
岩瀬亮  有川マコト  小島聖  近藤正臣

2015年3月28日(土) 6:30pm 森ノ宮ピロティホール H列下手



小学校の教室。
一人の若い男性教諭が児童の保護者と電話で話しています。
その児童が書いた書き初めの文字が心配で家庭訪問したいといった内容。
「希望」と題した書き初めが教室の壁いっぱいに貼られる中、その少女の書いた文字は「絶望」。

・・・という教育現場のお話と思いきや、
この男性教諭はかつてこの教室で学んだ小学生時代には学級委員長を務め、今は母校の教師となった菊池真澄(井上芳雄)。
彼が中心となって、息子を亡くしてしまったかつてのマドンナ友紀(鈴木砂羽)を励まそうと集う同窓会が舞台です。
あの頃は番長、今はレストランを営む不知火(高橋努)、父親の工務店を継いだ坂田(岩瀬亮)、役所に勤める恵子(小島聖)、昔はいじめられっ子だったものの今は羽振りがよさそうな水本(有川マコト)。

「変わったねー」「相変わらずだね」といった同窓会あるあるや、誰が誰を好きだった、付き合っていたといった恋バナなどで盛り上がりつつ、当時そのままの力関係や、一人ひとりの今置かれた状況が浮かび上がってきます。

そんな中、
「さっき寺井を見かけたけど、杖ついてバイク乗っててさぁ・・・」という発言があって、
「寺井って誰?」と思っていたら
その寺井(近藤正臣)登場。
彼らの当時の担任の先生で相当嫌われていた雰囲気。
誰も招いたはずないのに、招待状をもらったから来たという寺井先生。
誰が、何のために?
とみんなが驚く中、自分が招待したのだと告げる友紀。しかもある目的を持って。
ここから雰囲気は一変します。封印した過去、語られなかった真実。
彼らの一つひとつを暴き、過去の罪を晒していく寺井先生。
いろいろなものが噴出し、様々な思惑が交錯し、ある意味修羅場の展開に。
観て、聴いているのが息苦しくなるくらいです。
そして明らかになっていく彼らの「本当の今」。

子どもの頃からずっと、大人になった今も「優等生」を演じ続けるしかない者
パチンコ依存症から抜け出すことができず、取り返しのできない不幸を招く者
老母の介護に疲れ果て、ここから連れ去ってくれる「誰か」を待ち焦がれる者
ねずみ講にハマって身動きが取れないでいる者
彼らの今はとても過酷。

次々と白日のもとに晒される彼らの過去や今の中で、
どの児童にもやさしく接することしかできないために、一人の女子児童(「絶望」の子ね)から
「自分を守ってくれると言ったのに、嘘つき」という告発の手紙を受け取った菊池くんが、
「あんたみたいな教師に教えられたら、誰だってこうなるに決まってる」
「あんたみたいになりたくない。生徒から嫌われるのが恐くてたまらない。
だからみんなを愛するように上手く立ち回ろうとする、そんな教師になるに決まってる」
と寺井先生に向かって叫びながら自嘲するあたりが、一つのクライマックスでもあるようですが、

そう?(笑)

八方美人だから教え子たちや保護者に好かれるか嫌われるかは別として、
「えこひいきは否」とされている現代の教育の世界において、そんな先生になるのは当然の成り行きと思えます。
それに、あの手紙は、かまって欲しい症候群の女の子の逆恨みみたいなものですから、校長にまで知らされてクビになるかもしれない、と絶望するのは過剰反応なのではないかしら。
大体そんなことも見抜けない校長ならこちらから願い下げだわ、とかつて教壇に立っていた者としては思う訳です。

もうひとつ。

近藤正臣さん演じる寺井先生の存在感が際立っていて、嫌な奴臭ぷんぷんなのですが、
やり方、表現の仕方はさておき、彼は実は至極真っ当な人物で、
舌鋒鋭くても彼の口から出る言葉は真実
・・・ということが観ている私たちにもわかりますので、
TBO(寺井のバカを落とし穴に落とす)計画で寺井先生が落とし穴に落ちて、
それ以降杖が手放せないほどの、体育教師としての生命を断たれる大怪我を負ったのに、
自分の曲がった足も顧みず、危険な川に入った自分たちを殴りつけていたのを思い出した
→ 実はいいヤツだったんじゃね?的な思い出しエピソードは蛇足だったかなぁ。

かつてはまるで全能敵のように子どもたちの前に君臨する一方で、
彼らがタイムカプセルに入れた作文の内容まで覚えている寺井先生が、
今日ご飯を食べたかどうかも思い出せない、という認知症の症状を見せているのも切ないです。


そんなこんないささかな不満はありつつも、
休憩なしの2時間、終始緊張感を持って観ることができた作劇と、
それを体現してくれた役者さんたちに拍手。

高橋努さん演じる不知火くんが、まんま「海辺のカフカ」の星野ちゃんだったのには少し笑ってしまいましたが。レストランやめたら、トラックの運転手になるんじゃない?(笑)

そして、
歌わない井上芳雄くんもやっぱり好きだなと改めて思った次第。
脚、長いね~揺れるハート


菊池真澄先生。
希望の顔を持った絶望に、気づくことができたかな。



にしてもサスペンスタッチの台詞劇マチソワはちょっぴり疲れました のごくらく地獄度 わーい(嬉しい顔) ふらふら (total 1348 わーい(嬉しい顔) vs 1350 ふらふら)
posted by スキップ at 23:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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