2015年03月20日

それでも生きていかなければ  「三人姉妹」

sannin.jpgケラリーノ・サンドロヴィッチさんがシス・カンパニーとタッグを組んでチェーホフの4大戯曲(かもめ・ワーニャ伯父さん・櫻の園・三人姉妹)の演出に挑む企画「KERA meets CHEKHOV」。
2013年の 「かもめ」に続く第二弾。

チェーホフの4大戯曲はお芝居を見始めた若いころ、「演劇好きとしては読んでおかなかれば」という思いにかられていずれも読んだことがあるのですが、この「三人姉妹」だけこれまで舞台を観る機会がなく初見でした。
原作に忠実なケラさんのオーソドックスな演出もあって、文字だけでイメージしていた人物や情景が目前に三次元で息づく・・・これぞ原作モノを舞台で観る醍醐味だと思いました。
しかも、よくもまぁこれだけ揃えたわね、という手練れの豪華キャスト揃いで。

シス・カンパニー KERA meets CHEKHOV Vol.2/4  「三人姉妹」
作: アントン・チェーホフ
上演台本・演出: ケラリーノ・サンドロヴィッチ
美術: 二村周作 
照明: 服部基 
出演: 余貴美子  宮沢りえ  蒼井優  山崎一  神野三鈴  今井朋彦  近藤公園  
赤堀雅秋  段田安則  堤真一 ほか

2015年3月12日(木) 6:30pm シアターBRAVA!  1階H列上手



帝政末期のロシア。
退屈な田舎町にあるプローゾロフ家。
教師をしている真面目な長女オーリガ(余貴美子)は将軍であった父が遺した家を維持する責任に疲弊。
感情の起伏が激しい次女マーシャ(宮沢りえ)は凡庸な夫クルイギン(山崎一)との生活にうんざりして、新任の砲兵隊長ヴェルシーニン(堤真一)と不倫。
ひたすらモスクワへ帰ることを夢見る三女イリーナ(蒼井優)は男爵トゥーゼンバフ(近藤公園)と大尉ソリョーヌイ(今井明彦)に思いを寄せられ・・・。

皆美しく多国語を操る教養もある三姉妹。
そして彼女たちを取り巻く人々もまた、自在に詩を引用するような教養も身分も持つ知識階級の貴族ですが、誰もが何かしらの閉塞感を抱えています。豪華な邸宅のサロン、狭苦しい姉妹の寝室、古びた外観を見せる邸宅前の白樺の庭、と移っていく場面は一家の衰退を象徴するよう。
空を射るようにスックと立つ白樺からハラハラと散る葉が美しく儚く、とりわけ印象的でした(美術: 二村周作)。

時に切なくも聴こえるアンドレイが奏でるヴァイオリンの調べや、火事を告げるけたたましいサイレンなど、音響も効果的。
陰影のある照明もよかったし、サロンの広間でスポットを当てたこちら側の芝居ばかりでなく、向こうのテーブルでも別の出来事が進行していたり、きめ細かい人間模様が描かれ、演劇的な効果が散りばめられていて、舞台を観る楽しみをとても味わえる演出。

演出といえば、字幕や台詞で何年後と説明する訳ではないのに、時の流れがちゃんとわかるのもすばらしかったです。
その「時の流れ」を最も感じさせる人物がナターシャ(神野三鈴)。

最初はおずおずと名家に足を踏み入れた垢抜けない田舎娘が一家を支配する女主人に成り上がって行く様を、嫌悪感を抱くようないやらしさで見せつける神野三鈴さんの凄味。もうほんと、神野さん自身をキライになるレベル(笑)。
心とは裏腹の猫なで声で姉妹たちに話しかけた直後に使用人を叱り飛ばすドスの効いた怒号。コワイ。
老婆の召使に対する仕打ちでオーリガと対立しますが、他人の痛みを感じ取れる人とそうでない人とでは、感じない人の方が力を持ってのし上がっていくというのが不条理ながら世の常。
そんなチェーホフのシニカルな目線も体現する存在だったのではないかしら。ナターシャ。

三姉妹もそれぞれピタリと役にハマっていました。
特にいつも黒いドレスに身を包んだ宮沢りえさんのマーシャの凛としながらどこか隙も持って揺れているような佇まいが魅力的。
そして、そのマーシャとヴェルシーニン(堤真一)との別れの場面が際立って印象的でした。

抱擁し泣き崩れ地べたを引きずられても「いやよ」と叫び続けるマーシャ。
もう二度と逢えないという絶望的な哀しみがひしひしと伝わります。
一方のヴェルシーニンは酷薄なくらい冷静にマーシャの手を振りほどく・・・あぁ、戯れの恋だったのだと、その残酷さも苦く切ないです。

ヴェルシーニンが堤真一さんというキャスティングを知った時は少し意外な気がしましたが、あにはからんや、とてもよかったです。
お髭で隠してはいるけれど出てきた瞬間に舞台が華やぐような存在感。
モスクワから来たということだけでなく、マーシャをはじめ姉妹が心惹かれるのに十分な魅力があって、カッコつけて雄弁に語るけれど中身はない、といった俗物な感じも嫌味なく出せるのは堤さんならでは。
相変わらずいい声だし。

意外といえば、赤堀雅秋さんのアンドレイも。
このキャストは把握していなかったので、最初「赤堀さんに似てるけど、誰?」と思ってたくらいです(笑)。

段田さんも山崎さんも今井さんも近藤公園さんも、ほんとみんなよかったな。
チェーホフの戯曲って、登場人物が比較的多くて書き込まれている分、役者さんの演技の質感といったものが揃わないと観ている側も楽しめない面があるように思うのですが、その意味で今回のキャストはそれがハイクオリティに統一感ありました。
ケラさんのキャスティング力にも脱帽です。


ラスト。
白樺の庭に寄り添って立つ三姉妹。
そしてオーリガの放つ有名な台詞。
「・・・かわいい妹たち。私たちの生活は、まだおしまいじゃないわ。
生きていきましょうよ!・・・」

時が過ぎれば、私たちも忘れられてしまう。けれど私たちの苦しみは後世の喜びに変わって、あたたかく思い出してくれるだろう。働かなくては・・・と
先の見えない閉塞感の中で、今ある人生を受け容れて、それでもなお前を見据えて歩こう、生きようと宣言する一言ひと言が、
凛として立つこの3人の女優さんの生き方に重なるような気もして、
絶望の中にも力強さを感じられる結末でした。


楽隊は、あんなに楽しそうに、あんなにうれしそうに鳴っている のごくらく度 わーい(嬉しい顔) (total 1341 わーい(嬉しい顔) vs 1343 ふらふら)
posted by スキップ at 23:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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