
宝塚方面に忙しく観に行く時間が取れなくて、初日に昼夜通し観劇となりましたが、見応えある充実の演目が並んでとてもおもしろく拝見しました。
(もう千穐楽もとっくに終わって今日は浅草寺でお練りも行われ、皆様すっかりお江戸モードのようですが。)
松竹創業120周年
中村翫雀改め 四代目中村鴈治郎襲名披露
二月大歌舞伎 昼の部
2015年2月1日(日) 11:00am 松竹座 3階1列センター
一、嫗山姥(こもちやまんば) 岩倉大納言兼冬公館の場
出演: 中村扇雀 中村亀鶴 中村歌女之丞 坂東新悟 市川門之助 ほか
これは観たことがない演目だなぁ、と思っていたのですが、扇雀さん八重桐がぶっ返って隈取で登場した時になって「あ、これ、時蔵さんで観た」と鮮やかに蘇る記憶。
調べたら、2012年10 勘九郎さん襲名の御園座顔見世で観ていました。あの時夫の坂田蔵人時行役だった扇雀さんが今回は妻である八重桐を初役で勤められました。
何年か前に親の仇を討つために出奔したはずの夫が、仇も討たずに女性に囲まれて三味線を弾いているところへ偶然出くわした妻が恨みごとを言ったりするうち、自分を恥じた夫が自らの命を絶って、妻に神通力を持った子どもを授ける(しかもその子どもはやがて金太郎になる)というオドロキの展開の物語。
御園座で観た時にも「思っていたより楽しめた」と書いていますが、全く同じ感想を今回も。
いろいろと「しぇ~」な部分もありますが(笑)、それも含めて歌舞伎らしい作品だと思います。
扇雀さんは八重桐のようなちょっときつい感じの女性がよくハマります。
元は傾城という華やかさもありながら、久しぶりに会えた夫にネチネチと嫌味を言ったり悔しがったり焼きもちやいたり、感情豊か。
歌舞伎によくある、ひたすら尽くすタイプの女性ではなくて、現代的な感じがします。
上背があり立役もやる方なので、夫のの時行の魂が乗り移ってからは、敵を投げ飛ばしたりする姿も勇壮でした。
門之助さん時行のちょっと情けないところも見え隠れする感じもよかったし、亀鶴さんの太田太郎が敵役ではありますが、カッコよかったです。
二、銘作左小刀 京人形
出演: 尾上松緑 中村壱太郎 坂東新悟 坂東亀寿 市川門之助
大工の左甚五郎 が入れあげた遊女に似せて作った人形が踊り出すというファンタジー(?)な世界から急転直下、お姫様を逃すために捕り手と大工道具使って大立ち回りを展開するという、こちらも歌舞伎らしい演目。
小顔で可愛い壱太郎くんの京人形。
カクカクと人形振りで動いたり、最初は大股で男のように歩いたりするのに、懐に手鏡を入れてもらうと途端に女性らしくしとやかに踊ったりと、変化を緩急鮮やかに見せてくれました。
楽しく見ている中に壱太郎くんの踊りの上手さが伝わってきます。
松緑さんはいかにも気風がよくキッパリとした職人らしい風情の甚五郎がよくお似合い。
自分がつくった人形にご満悦だったり、動き出して慌てたり、女らしくなった人形に喜んだりと表情豊かで楽しそうだったな。
その甚五郎の女房おとくは門之助さん。
ついさっきまで情けない時行さんやってた人とは思えないくらいおかみさんがハマっていました。
門之助さん、夜の部の四の切では端正な義経を演じられていて、その振り幅の大きさに感心することしきり。

出演: 翫雀改め中村鴈治郎 幹部俳優出演
この日は初代鴈治郎さんの祥月命日だったそうです。
当月興行の初日でもあり、厳粛な雰囲気の中に温かさも漂う口上でした。
一月にも口上を拝見しましたが、座組が変わると雰囲気も少し違います。
「藤十郎さんのご指名により」梅玉さんの仕切りで列座は11名。
下手から、猿之助・亀鶴・壱太郎・扇雀・藤十郎・鴈治郎・梅玉・彌十郎・門之助・竹三郎・松緑 の並び。門之助さんだけが女方の拵えでした。
松緑さんは「子供の頃 スティービー・ワンダーのコンサートに連れて行ってもらった」
門之助さんは「錦之助さんとともに3人同い年で、踊り、鳴り物、夜遊びも一緒に勉強した」
猿之助さんは「鴈治郎さん、壱太郎くんと大学の同窓生」
とそれぞれの言葉で話されるエピソードが温かく微笑ましかったです。
四、傾城反魂香 土佐将監閑居の場
出演: 中村鴈治郎 市川猿之助 中村壱太郎 坂東竹三郎 尾上松緑 坂東彌十郎 (片岡我當代役) ほか
鴈治郎さんの浮世又平を拝見するのは二度目で、調べたら2008年の南座顔見世でした。
正直のところ、その時はそれほどよかったという印象はないのですが、今回とてもよかったです。
これ、終演直後の私のツイート:
松竹座昼 吃又よかったぁ。朴訥とした鴈治郎さん又平に細やかな愛情あふれる猿之助さんおとく。筆を離そうとしない又平の指を、その心情を理解しながら1本1本ほどいていくおとくの切なさに泣かされました。 posted at 15:42:28
雁治郎さんの又平は、朴訥として不器用で、でも何としても土佐の名字が貰いたいという必死さがひしひしと伝わります。
その陰には、日頃耐えている吃音ゆえの辛酸があるのだろうということが感じられて、観ていて切なくなるほど。
だから
将監に厳格に拒絶された時の絶望の深さが痛いくらいに感じられて辛い。
それだけに
自らの筆で絵の奇跡を起こし、名字を許された時のはじけるような喜び様は、観ているこちらまでうれしくなって、本当によかったねぇと声をかけたくなるくらいでした。
頂いた着物に着替えてパリッとなったところで思わず袖で涙をふいて、おとくに怒られちゃったりする仕草も可愛らしい。
女房おとくの猿之助さんがまたすばらしかったです。
ツイートした、筆を握った又平の指をほどく場面。
本当に辛そうに1本1本ゆっくりとほどいて、愛おしそうに、とても大切なもののようにその又平の手を何度もさする様子に思わず涙。
しっかり者で口も立つけれど決して出過ぎず、懸命に夫を支えるおとく。
又平に「私も死にます」と告げる声の切ないこと。
感情表現が細やかで情感があふれているのはもちろん、指先にまで神経が行き届いた所作や型の一つひとつがとても美しいのがいかにも猿之助さんらしくて。
猿之助さんを襲名されてから女方を観せていただく機会は少なくなりましたが、やはり猿之助さんの女方は大好きだなぁと改めて思いました。
彌十郎さんの土佐将監がただ厳格なだけではなく、又平の気持ちもわかった上で師匠としても苦しみみたいなものも感じられてよかったです。
竹三郎さんの北の方は言わずもがな。
(竹三郎さん、途中からご体調が悪く休演されたそうですが、どうか大事ありませんように)。
花道でおとくが又平に歩き方の指南をして、少しやってみた又平が照れて一人先に行って・・・という可愛らしい幕切れに温かい気持ちになる幕切れでした。
松竹座の大向うさんはここぞという時にタイミングよく揃ってかかって気持ちいい上にストレスフリー のごくらく度


