2015年01月13日

人間とは多面体 「キレイ -神様と待ち合わせした女-」

kirei2014.jpg2000年に松尾スズキさんが本格的ミュージカルに初挑戦した大人計画の舞台。
その初演は観ていなくて再演を観たのですが、調べてみたら2005年。もう10年前ということに愕然。
初めて観た時の衝撃が大きさからでしょうか。
10年前とは思えないほど鮮やかな印象が残っています。

シアターコクーン・オンレパートリー2014+大人計画 
「キレイ -神様と待ち合わせした女-」
作・演出: 松尾スズキ
音楽: 伊藤ヨタロウ
出演: 多部未華子  阿部サダヲ  小池徹平  尾美としのり  田畑智子  皆川猿時  村杉蝉之介  荒川良々  
伊勢志摩  猫背椿  宮崎吐夢  伊藤ヨタロウ  
オクイシュージ  松尾スズキ  田辺誠一  松雪泰子 ほか

2015年1月9日(金) 6:30pm シアターBARVA! 1階H列下手



長く内戦が続き、大豆原料の人造人間ダイズ兵が戦う「もう一つの日本」が舞台。
誘拐され、10年にも及ぶ監禁から逃げ出した少女ケガレ(多部未華子)は記憶を失いながら、ダイズ兵回収業者カネコキネコ(皆川猿時)、その息子で頭は弱いけれども枯木に花を咲かせる能力を持つハリコナ(小池徹平)、大豆でできた兵士・ダイズ丸(阿部サダヲ)、回収されたダイズ兵を食用として加工する食品カ会社の社長令嬢・カスミ(田畑智子)たちと出会い、波乱万丈の人生を送りながら、自ら封印した忌まわしい過去に立ち向かっていきます。
そんなケガレを見守るのは成人したケガレ=ミソギ(松雪泰子)。


まるで絵空事のような世界を繰り広げながら、戦争や民族差別といった重いテーマ。
歌とダンスと笑いを散りばめなから、全編を支配する切なさ。
猥雑でグロテスクで熱い狂乱の中で、どこか醒めた目線。
弱者を思い切り笑い飛ばしながら、包み込む優しさ。

松尾スズキさん 真骨頂です。

誘拐監禁された少女、監禁することでしか女性と一緒にいることのできない男、戦争で死ぬために生まれたダイズ兵、人間をダイズ兵と偽装し食用にしようとする人たち、終わらない戦争、科学の歪み・・・これらのワードが私たちが昨今見聞きする諸々の事件・事象と重なって、今さらながらこれを15年前に書いた松尾さんに圧倒される思い。「ケガレのテーマ」や「ここにいないあなたが好き」といった楽曲と歌詞の美しさ。
自分の代わりに撃たれたケガレをストレッチャーで運びながらカスミが叫ぶ「この親切は私のものよ。私の親切の邪魔しないで!」に代表されるドキリとさせられる台詞の数々。
中でも今回特に印象に残ったのは、放浪していて年に1度位しか帰ってこないカネコ一家の父・カネコジョージ(松尾スズキ)が何気なさそうにつぶやいた
「本当の自由ってやつは意外と不自由なんだぜ」という言葉。
前回観た時にはそれほど気にも留めなかった台詞が今回は胸に響く-それも舞台の醍醐味のひとつかもしれません。


脈絡なさそうにも思えるいろんなピースがたたみけるように収束するラストは松尾さんならでは。
そこに響きわたる多部未華子ちゃんケガレの ♪ケガれて ケガれて わたしはキレイ~
という透明感のあるヴォーカル。

多部未華子さんはケガレそのもののように感じられるくらいこの役にピッタリ。
しなやかで強く、ピュアだけど隠しきれない陰があって。
台詞の口跡のよさはこれまでの舞台でも実証済みですが、のびやかな歌もよかったな。

前回 秋山菜津子さんが演じたカスミを田畑智子さんというのに少なからず驚いたのですが(何といってもカスミにはあのシーンあるし)、ちゃんとカスミで、歌もお上手で驚きました。
歌がお上手といえば尾美としのりさんも、あんなに歌えるなんて。

今回最も意外だった配役はカネコキネコの皆川猿時さん。
前回(と初演も)、片桐はいりさんがやった役で、ちょっと他の役者さんは想像つかないくらい強烈なキャラクターだったのですが、イロモノ的な女装ではなくちゃんと女性を演じていて、しかもまぎれもなく皆川猿時で。
パワフルでエネルギッシュで凄みさえ感じるほど。
このキャスティングは松尾さんなのかな?やはり天才的。

もう一人、ダイズ丸の阿部サダヲさん。
サダヲちゃんは初演、再演と少年時代のハリコナで、これまた他の役者さんが想像つかない、逆に言うとサダヲちゃんがこの作品で他の役をやるのが思いつかない感じだったのですが、ダイズ丸にヤラレました。
面白いのに切ない、切ないのに笑っちゃうダイズ丸サダヲ、おそるべし!
「おかしなやつよりお菓子のやつになりたい」とか「あんたのおかげでほぼまんべんなく生きた」とか、笑いもシニカルも取り混ぜて、松尾さんの深い台詞を伝える力量もピカイチ。

そのハリコナは小池徹平くん。
ハードル高かったと思いますが、能天気な可愛さが炸裂していてよかったです。
歌も上手いのね(って、ユニットで歌ってましたねw)


少女時代のケガレと大人になってからのケガレ(ミソギ)・・・時間と空間が交錯する物語。
地下室から扉を押し開け脱出するケガレ。
女神像を倒し、扉をこじ開けて地下に降りていくミソギ。
異なる時間軸の中で生きる、交わることのなかった二人の行動がひとつの舞台で同時に展開されるクライマックスのこの場面。
映像を観ているような感覚にもなり、シビれる演出です。

自ら封印した過去にまた自ら対峙するケガレ。
「ここにいないあなたが好き」の歌詞
♪人間とは多面体であって
鯨を保護した同じ手で
便所の壁に嫌いな女の電話番号書いて
「2000円でヤらせる女」とか
・・・のように、人は善も悪も、キレイもケガレも、喜びも哀しみも、幸せも不幸も、清濁すべて併せ持っている生きものなんだという普遍的なテーマを突きつけられているようで、だけどどこかそれに救われる思いも感じるのでした。


カーテンコール。
全員整列したところで、♪そ~れで~は みな~さま ご~き~げんよ~おおぉ~
と歌った多部ちゃん。
拍手が鳴りやまず2回目に出てきた時には
♪に~かい~めです~けど ご~き~げんよ~おおぉ~ にウケましたわーい(嬉しい顔)



自分の備忘録に主なキャストの新旧比較を。

          2015          2005    
ケガレ:     多部未華子      鈴木蘭々
ミソギ:      松雪泰子        高岡早紀
ハリコナ少年 : 小池徹平       阿部サダヲ
カネコキネコ: 皆川猿時       片桐はいり
ダイズ丸:    阿部サダヲ      橋本じゅん
マジシャン:   田辺誠一       宮藤官九郎
ジュッテン:   オクイシュージ    大浦龍宇一
カネコジョージ: 松尾スズキ      松尾スズキ
ダイダイカスミ: 田畑智子       秋山菜津子
ハリコナ大人: 尾美としのり      岡本健一
カミ:       伊藤ヨタロウ      伊藤ヨタロウ
マタドール:   猫背椿        猫背椿
カウボーイ:   少路勇介      皆川猿時
マキシ:      村杉蝉之介    村杉蝉之介




今回「キレイ」を観て、「ラストフラワーズ」は新感線の役者さんたち揃ってはいたけれど、松尾スズキテイストの濃い大人計画寄りの作品だったなぁと改めて思いました のごくらく地獄度 わーい(嬉しい顔) ふらふら (total 1311 わーい(嬉しい顔) vs 1318 ふらふら)
posted by スキップ at 23:09| Comment(2) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私は東京公演の初日に見ましたので、もうずいぶんになるのですが、拝読してると、いろんな場面をまざまざと思い出します。
私も再演の時に初めて見ました。あれから早10年とは!
そして、あの時はまだ「ありえない空想の世界」と思ってたものが、いま、ものすごく身近な、「起こりうる世界」に思えることが、衝撃でした。松尾スズキさん、15年も前に書かれてたんですね。
お正月休みに、初演時のDVD(再演を見て思わず買ったもの)を見ようと思ってたのに、まだ見られないでいます。大人新感線「ラストフラワーズ」(WOWOW)もまだ……。なにかの片手間というわけにはいかなくて。やや覚悟?も必要で。
ちなみに初日のカーテンコール、3回目があって、「これでおしまい ごきげんよう」的なフレーズ(よく覚えてないけど)でした。
Posted by きびだんご at 2015年01月14日 09:22
♪きびだんごさま

そうだ、きびだんごさまは初日をご覧になったのでしたね。
「これでおしまい~」は言いそう言いそう(笑)。
松尾さんが言わせているのでしょうけれど、もう早く帰って
ほしかったのでしょうね。

前に観てから10年も経っていることに改めて驚きましたが、
おっしゃる通り、あの頃はまだどこか「絵空事」感が強かったのに、
今では一つひとつがあのこと、この事件と当てはまるのが空恐ろしい
くらいです。
そしてそれを15年も前に書いていらした松尾スズキさんという作家も
恐ろしいです(笑)。
初演は私、DVDでも観ていなくて、やはりこれは電波に乗せるのは
難しい作品だったのでしょうか。

「ラストフラワーズ」大阪千秋楽でWOWOWオンエアが発表された時、
とても驚いたものですが、私も録画だけしてまだ観られずにいます。
確かに、ちゃんと「観るぞ」という気構えが必要な作品ですよね。
でもぜひご覧になっていただいて、きびだんごさまのご感想を
お聞きしたいです。
Posted by スキップ at 2015年01月15日 00:06
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