大阪公演は3年ぶり、そして植本潤さんが本公演に出演されるのは4年ぶりという花組芝居。
シェイクスピアの「夏の夜の夢」をモチーフにした作品で登場です。
花組芝居 「夢邪想 ~夏の夜の夢より~」
原作: 坪内逍遥訳 「真夏の夜の夢」
脚本: 秋之桜子
演出: 加納幸和
出演: 加納幸和 原川浩明 溝口健二 山下禎啓
植本潤 桂憲一 八代進一 大井靖彦 北沢洋
横道毅 秋葉陽司 松原綾央 磯村智彦 小林大介
美斉津恵友 堀越涼 谷山知宏 丸川敬之
2014年12月28日(日) 1:00pm AI・HALL D列下手
一人の男を囲んであとは全員女性という妖かしの森と、太平洋戦争下で学徒出陣に駆り出されようとしている東京帝国大学の学生たちが生きる昭和18年の日本という二つの世界が交錯する物語。
蝶のように舞う女たちの森に一人の医学生・都万木(つまき/桂憲一)が迷い込み、女たちは神門(みかど/北沢洋)を殺してこの医学生を二代目とし生殖の道具として檻の中で囲います。女たちの長の姉妹(加納幸和・八代進一)との間に二人の娘をもうけた都万木はその境遇に耐え切れず自殺してしまいます。
新たな男を探すために妹の娘・凪依(なみえ/美斉津恵友)が派遣された人間界で出会った杉渓(すぎたに/小林大介)こそ、都万木の甥でした・・・。
シェイクピアの作品の中でも「夏の夜の夢」は好きなものの一つで、今年は宝塚歌劇で「PUCK」を観た印象もあって、どんなドリーミングな世界が展開されるのかと思っていたのですが、あまりにイメージが違っていて、最初のうちは「誰がパックにあたるんだろう。ハーミアは?」と少しとまどいましたが、観ているうちにそんなことはどうでもよくなって物語の世界に引き込まれした。
ラストにパックのあの台詞が出てきて、「ヤラレタ!」という感じ。花が咲き蝶が舞う森。
歌い踊る女たちは着物を着ていて、そこへ打ち掛けを着た姉神・麝香(じゃこう/加納幸和)と妹神・香螺巣(からす/八代進一)が老婆の城飫肥(しろおび/溝口健二)を従えて登場する場面は、シェイクスピアというよりまるで「天守物語」・・泉鏡花の妖かしの世界のよう。
テイストとしてはいつもの花組芝居なのですが、今回脚本を書かれた秋之桜子さんは山像かおりさんという文学座の女優さん(この日舞台を観ていらしてカーテンコールで加納さんが紹介していらっしゃいました)ということで、ドロドロしていたりエロティックだったり、結構生々しいシーンが多かったなという印象。
加納さんの演出もかなり際どい(笑)。
麝香・香螺巣・凪依・杉渓・・・と森の内外を問わずみんな難しい読み方の漢字の役名がついていますが、これはすべて実在の蝶の名前なのだそうです。
また、森の女たちは「・・・するのい」という独特な言葉づかいをするのですが、これは秋之さんの創作なのだとか。
学徒出陣に葛藤する学生たちに象徴されるように反戦メッセージの濃い作品で、それがこの幻想的な森の物語とは最初のうち違和感も感じたのですが、「おのこは一人」という掟に縛られて生きる妖かしの森の女たちと、「男が男を殺す」戦争に身を投じる現実世界の人間とが重なっていきました。
役柄で印象的だったのは、美斉津恵友さん演じる凪依。
都万木と香螺巣の間にできた娘で、都万木が死んだ時、その体から切り取った男根を麝香によって体に植え付けられるも機能を果たさず、両性具有というか、男でも女でもない凪依。
でも心は切なく杉渓を思い続け・・という、いかにも花組芝居な役柄で、またそれを演じる美斉津さんが可憐な少女で美少年で。
もう一人、森の中を支配する姉妹神 麝香・香螺巣の末妹・香螺巣(からす)の植本潤さん。
彼女の誕生と引き換えに母が命を失ったことから、姉妹神からも周りの女たちからも疎まれ、いじめられていますが、ついには片目を抉られ(このシーン、怖かったぁ)、人間社会へ追放されてしまいます。
そこは吉原の苦界で、そこで出会った威詞蠣(いしがき/北沢洋)と心を通わすも、「一番苦しい思いをすることを」という姉神の指令により、目の前で威詞蠣が殺されるという何とも悲惨な仕打ちをされ、復讐のために森に帰る・・・という展開。
可愛らしくて妖しげで、内に炎も秘めて狂気も孕む香螺巣の造形は植本潤さんならでは。
やっぱり植本潤さんは花組芝居の舞台で観るのが好きだなぁと改めて思いました。
この植本さん香螺巣がラストで「お気に召さずばただ夢を 見たと思ってお許しを・・」というあの有名なパックの台詞(しかも玉音放送と重ねてという凝った構成)を言うのを聞いて、「香螺巣がパックだったのか!」と気づいた次第(遅っ)
そういえば植本潤さん、私が大好きな「A MIDSUMMER NIGHT'S DREAM」でもパック役でした。
香螺巣と威詞蠣
凪依と杉渓
薄羽と温羅波
そして顔に斬りつけられた傷をもつ花魁の濃紫とその斬った相手である檎斑・・・たくさんの切ない恋の物語でもありました。
可動式の格子のような木の枠を役者さんが自在に動かして都万木が囲われた檻になったり吉原の遊郭になったり。
歌舞伎でもよく使われる蜘蛛の糸のような撒きものも効果的に使われていて、特に神門が刺された時パァーッと放った赤い糸がまるで血しぶきのように見えて、映像ではなく演劇ならでは効果だなぁと思いました。
この日は大楽でカーテンコールでは加納座長による役者紹介がありました。
八代進一さんは座長と姉妹の役で「楽しかった」
桂憲一さんはこんな役「得意です」
青い髪に青い着物の植本潤さんは「青、好きなの?」と聞かれて「いや、特に・・」ですって(笑)。
満席ではありましたが、こんなにキャパの小さな会場で申し訳ないと思うくらい花組芝居の舞台はいつもクオリティもエンタテインメント度も高い。
なのに興行的にも劇団経営的にもすごく成功しているとは言い難い印象なのが残念でなりません。もっとたくさんの方に観ていただきたい劇団であり舞台です。
次回公演は「毛皮のマリー」 関西にも来てほしいなぁ のごくらく地獄度 (total 1301 vs 1312 )
2014年12月30日
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