
この公演は2回宙乗りがあって、昨日は600回目と601回目ということなので、私が観た日は586回・587回目だったんだなぁと逆算してみたり。
この演目は平成8年に先代猿之助さんによって約200年ぶりに復活上演されて以来、「再演不可能」と言われた作品なのだとか。
「不可能と言われるとやりたくなる」とは、いかにも猿之助さんらしいお言葉です。
市川猿之助奮闘連続公演
明治座 十一月花形歌舞伎 夜の部
平成26年度(第69回)文化庁芸術祭参加公演
三代猿之助四十八撰の内
通し狂言 「四天王楓江戸粧」 (してんのうもみじのえどぐま)
市川猿之助宙乗り相勤め申し候
作: 四世鶴屋南北
出演: 市川猿之助 市川右近 市川笑也 市川猿弥 市川團子 市川笑三郎
市川春猿 市川寿猿 市川弘太郎 尾上右近 坂東亀三郎 坂東竹三郎
市川 門之助 片岡秀太郎 ほか
2014年11月2日(日) 4:00pm 明治座 1階6列下手
開演すると花道スッポンから猿之助さん登場。
「四世・・」で少し切って、「鶴屋南北でございます」とご挨拶。
「こちらのお客様にはお邪魔でもございましょうが」と斜め後ろを振り返りながら花道に正座して舞台を観ると、幕が開いても役者がおらず、「こんなことしている場合ではない」と舞台に上がりぶっ返りで口上の装束になって正面に正座して、「四世・・」とまた少し切って今度は「市川猿之助でございます」と口上。
源頼光と四天王(渡辺綱・坂田金時・碓井定光・卜部季武)らによる平将門の残党の謀反討伐を主軸に、狐や蜘蛛の物語を織り交ぜた鶴屋南北の奇想天外な大作・・・ということらしい。
「顔見世狂言なので筋はどうでもいい」みたいなことを猿之助さんがおっしゃっていましたが、確かに、正直のところストーリーはすべて把握したとは言い難かったかな。
それでも、二度の宙乗りや早替り・だんまり・六方・舞踊的な土蜘蛛退治・大立廻りとケレン味も見どころもたっぷり。
これでもか、というくらい観客を楽しませようとする三世猿之助(現 猿翁)さんのスピリットを当代猿之助さんが見事に継承した舞台となっていました。猿之助さんの最初の宙乗りは、辰夜叉御前。
帝の遁世が天下を狙う好機と左大臣高明(亀三郎)が蜘蛛の妖術で蘇生させた姉です。
蜘蛛の糸を撒きながらの美しい宙乗りをはじめ、立ち回りでもふんだんに蜘蛛の糸が舞台にも客席にも投げ込まれて、糸まみれ(笑)になりながらテンションも上がります。
大蜘蛛も出て来たり、このあたりは、2009年に松竹座で観た「蜘蛛絲梓弦」を思い出しましたが、他にも色んな作品のパロディが入っているようでした。
もう1回は小女郎狐の精で、村雨丸をもらって喜んで空を飛んで帰っていく姿は源九郎狐を彷彿とさせます。
「暫」も出てきたな。
演じるのは市川右近さん。隈取似合うし声もよく出ていてさすがの押し出し。
ほんとにあれこれ楽しい。
ただね。
これは十月演舞場昼の部と2週続けて観ることになったワタシの問題だとも思うのですが、
こういうケレンたっぷりの舞台が途中で何だかおなかいっぱいに感じちゃいました。
源頼光、七綾姫といった登場人物がカブることも理由の一つかしら。
もちろん楽しいのですが、派手さはなくとも筋立てのしっかりした芝居を観たくなったりも。
この舞台には若いお二人の活躍も要注目で、まずは七綾姫役の尾上右近くん。
十月に七綾姫を演じた中村米吉くんとは違ったアプローチ(そもそも七綾の在り方も違う)でしたが、艶やか美しい。そして強そう(笑)。
大詰めでは男装?しての迫力ある立ち回りでかなり長時間一人で舞台を引っ張り、猿之助さんが登場してからは花道でダブル梯子。
右近くんの方の梯子は2階客席に向かって架けられ、それをスイスイ上って2階客席に顔を出すものだから、2階の人大喜び&やんやの盛り上がりでした。
本当に花も実もある立派な役者さんになったなぁ。
もう一人は市川團子ちゃん。
鬼童丸実は季武弟季明という役で大活躍。
「楷書の殺陣」という趣きで教えられたことをきっちりこなしている感じですが、大きな大人相手に堂々の立ち回り。声は時々ひっくり返ってしまうのが課題ですがちゃんと出ていましたし、ビジュアルはいいし、これからも楽しみ。
猿之助さん辰夜叉御前に「いとこの小せがれ」って言われていました(笑)。
こういうフリーダムな台詞というかアドリブが結構多くて猿弥さんが猿之助さん保輔?に「五十三次旅してたのかい?先月は忙しかっただろう」
「今月もまぁ似たようなもんだ」とか、
寿猿さんの後家さんが花道を去って行く時には、猿之助さん保輔「あの人、あれで80過ぎてるんだってよ」そして竹三郎さんさぼてん婆に向かって「あんたもだろ?」とか。
小ネタは拾いきれないくらいありました。
勧善懲悪で気持ちは晴れ晴れ、見た目も華やか。
セリも大きな仕掛けも、もちろん宙乗りも駆使した見どころたっぷりの演出。
「三代猿之助四十八撰」 楽しいことには違いありません。
いつものことながらこの役名は、ライ・ツナ・サダミツ・シキブ・ウラベ・キンタ・・・思い浮かぶよねぇ のごくらく地獄度



