2014年11月06日

幸福感に満ちた鰯賣  「十月大歌舞伎」 夜の部


kabukiza201410.jpg


10月は歌舞伎、11月は新派公演で2ヵ月連続の十七世ならびに十八世中村勘三郎追善興行。
歌舞伎座は昼夜観たいところですが、スケジュールの都合でそうも行かず、やっぱり「鰯賣」が観たいやん!ということで、夜の部に。
迷っていたのでチケ取りすっかり出遅れちゃいましたがあせあせ(飛び散る汗)


歌舞伎座 十月大歌舞伎 夜の部 千穐楽
十七世中村勘三郎 二十七回忌
十八世中村勘三郎 三回忌     追善

2014年10月25日(土) 4:30pm 歌舞伎座 1階10列下手



一、菅原伝授手習鑑 寺子屋
出演: 片岡仁左衛門  中村勘九郎  中村七之助  中村国生  片岡松之助  
片岡亀蔵  中村扇雀  坂東玉三郎 ほか


今年は4月にこんぴら歌舞伎、その後文楽、7月に松竹座でも「寺子屋」を観ていて、さながら「寺子屋イヤー」。しかも松竹座では今回同様、仁左衛門さんの松王丸でした。
が、さすがに今回は、これぞ大歌舞伎という極めつけの「寺子屋」を見せていただきました。


首実検も何とか切り抜け、ひと安心していた源蔵、戸浪夫婦のもとへ、小太郎の母である千代が戻ってきてひと芝居あり、「して其許は何人の御内証」となって松王丸登場。
ここで源蔵が、「おのれ松王」と言ったところで涙がブワッとあふれました。
これまで「寺子屋」は何度も観てきましたが、ここで泣いたのは初めて。


この感情は自分でもよくわからないのですが、多分、首実検の場面からの仁左衛門松王丸の芝居がとても細やかで、わが子を犠牲にしなければならなかった松王の胸の内が切なすぎるほど心に染みて、源蔵もこの後それを知って同じ思いをすることになるんだろうと思うと泣けてしまったのだと思います。

仁左衛門さん松王丸の心には常にわが子小太郎がいて、机の数を詮議することで小太郎が確かにここへ来たことを確信し、その死が迫っていることへの絶望を感じているようにも見え、首実検の「でかした」という言葉は小太郎の首に言っているように聞こえました。
「にっこりと笑いましたか・・・でかしおりました」とほめる泣き笑いの切ないこと。そこに小太郎の姿があるようでした。

そういえば、仁左衛門さん松王の着物は銀鼠色。
松竹座では黒のお着物をお召しだったのではなかったかなぁと思って調べてみたら、中村屋さんは十七代目、十八代目ともに銀鼠色のお着物だったそうで、それに倣ったのではないかということでした。
そういうところに追善のお気持ちを込めるのも仁左衛門さんらしいです。

玉三郎さんの千代は少し抑えめの演技で、大仰な嘆き声も仕草もないけれど、静かな中に子を失った母親の抑えきれない悲しみが感じられました。

この仁左玉を向こうにまわして勘九郎さん、七之助さんも熱演でした。
特に勘九郎さんは時折キッと鋭い視線で、ことの逼迫した雰囲気と何としても管秀才を守らねばという必死な思いが伝わりました。

にしても、いくら「せまじきものは宮仕え」とはいえ、主君への忠義のために身も知らぬ、それも年端もゆかぬ子どもの命を奪わなければならない理不尽さよ。
する方にとってもされる方にとっても。


二、道行初音旅  吉野山
出演: 坂田藤十郎  中村梅玉  中村橋之助 ほか


浅葱幕が振り落とされると一面桜の華やかな吉野山。
真ん中に立つ坂田藤十郎さんの静御前。
その立ち姿は華やかな景色にすっぽりハマってひけを取らず、まるで絵の一部のように美しい。
本当にこの御方に年齢はないな。

この静に対して梅玉さんの忠信はバランスよく映りました。
お二人とも全体的に動きがゆったりとしたテンポなのは致し方ないところでしょうか。

早見藤太は橋之助さん。
花道横の席だったので、出て来た時の物理的な寸法の大きさ(つまり顔も背も大きい)、そして声の大きさにちょっとびっくり。
いつもちょっとドキドキする忠信の投げる笠は(普段より距離は少し短い気もしたけれど)、きれいな弧を描いて橋之助さん藤太が見事にキャッチしていました。



iwashi201410.jpg


三、鰯賣戀曳網
作: 三島由紀夫
出演: 中村勘九郎  中村七之助  中村獅童  坂東巳之助  坂東新悟  中村児太郎  中村虎之介  中村鶴松  片岡市蔵  市村家橘  坂東彌十郎 ほか



「鰯こうえ~い」

猿源氏の鰯売の声。
姿を見せないまま鳥屋からこの声が聞こえてきた時、最初はドキッとして震えて、次に涙がぽろぽろこぼれました。
その声も調子も、すべてが勘三郎さんかと思うくらいそっくりだったから。
これまでにも勘九郎さんの声や台詞が勘三郎さんに似ていると思ったことは多々ありますが、あんなに「生き写し」と感じたのは初めて。
鳥屋から勘三郎さんが出てくるんじゃないかと思ったくらい。


傾城 蛍火(七之助)に一目惚れした鰯売・猿源氏(勘九郎)のため、一計を案じた父(坂東彌十郎)が息子を大名に仕立てて遊廓に乗り込んで・・・というお話。

十八世勘三郎さん襲名の時、勘三郎さん猿源氏、玉三郎さん蛍火で観たこの演目の温かい幸福感に満ちたハッピーエンドが忘れられず、今回ぜひ観たいと楽しみにしていました。


IMG_1193.jpg勘九郎さんの猿源氏は愛嬌たっぷり。
一介の鰯売りだけど決して下品ではなくて、だけどお大名の凛としたところはもちろんなくて、というバランスがとてもよく、獅童さん六郎左衛門に「もっとシャンとしろ!」と言われてその一瞬だけピシッとなるところとか、何度も声をあげて笑っちゃいました。
そんな猿源氏が蛍火の追求にしどろもどろになりながら「ああ言えばこう言う」という感じで切り返して、「魚鳥平家」を語り終えた時はやんやの拍手。「蛸入道」のところなんて爆笑したな。身体能力の高さにも改めて感心。

あんまり「勘三郎さんに似てる」というのもいかがなものかとは思いますが、本当にこういう役をやると勘三郎さんが二重写しになるような気がします。
もちろん、ご本人もいつまでも勘三郎さんのコピーでいるなんて望んではいないと思います。これから時を経て色を重ねて、もっともっと「中村勘九郎」になっていくんだろうなぁと思いました。

七之助さんの蛍火がまた本当に綺麗で可愛くて。
傾城実は丹鶴城のお姫様というシンデレラストーリーのヒロインもぴったりの美しさと華やかさ。
傾城のたおやかさとしたたかさ、膝枕して眠ってしまった猿源氏の「鰯売」の寝言を待ついじらしさ、そして出自が知れた後半のお姫様キャラ炸裂ぶりも微笑ましかったです。

おおらかにやさしく猿源氏を見守る彌十郎さん海老名なあみだぶつ、少し控えめながらツッコんでくる獅童さんの博労六郎左衛門と、勘三郎さん座組の皆さんも温かく。
巳之助くん筆頭に若手が勢揃いした傾城では、一番下手に座っていた鶴松くんがひと際可愛くて目を惹きました。


ラスト。
花道七三で、「観音様にお礼をいわなくちゃ」と歌舞伎座の三階方向を見上げて手を合わせる2人。その視線の先には観音様ならぬ誰がいるか、多分客席中の人が同じ思いで2人を観ていたと思います。

この日は千穐楽。
勘九郎さんは涙を浮かべているようにも見えました。
そして、花道の両側にお辞儀をして、手に手を取って笑顔で引っ込んでいく2人。
勘三郎さんの時と同じように、観ている私たちまで幸福感で満たして。




IMG_8294.jpg IMG_5195.jpg 

ロビーでご兄弟を見守っていらしたお二人。
見事に勤めた追善の舞台をご覧になって
きっととても喜び、安心していらっしゃることでしょう。
十八世勘三郎さんは、ちょっぴり悔しがっているかもしれませんわーい(嬉しい顔)



温かくてとてもよい追善興行でした のごくらく度 わーい(嬉しい顔) (total 1277 わーい(嬉しい顔) vs 1279 ふらふら)


posted by スキップ at 23:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック