2014年11月03日

弁慶を演じるために生れてきた 市川染五郎 「勧進帳」

benkei201411.jpg「41年間、あこがれ続けたものが実現するという思いでいます」と語っていた市川染五郎さん。
そして初日を終えた後には「『弁慶を演じるために生まれてきた』と思われるように、豪快な弁慶を目指して千秋楽まで務めたい」と。

この役を1100回演じている父の松本幸四郎さんをはじめ、曾祖父七世幸四郎、祖父初世白鸚と三代で3000回以上演じた高麗屋の家の芸である弁慶。
物ごころついた頃から、この役を演じたいとずっと願い続けていた染五郎さん。
その願いが叶った日。

お父様の富樫、叔父様の義経、さらに太刀持ちには長男の金太郎くん。
これまで染五郎さんを支えてきた人たちの温かい気持ちに包まれた舞台となりました。


吉例顔見世大歌舞伎 夜の部
初世松本白鸚三十三回忌追善
「歌舞伎十八番の内 勧進帳」
出演: 市川染五郎  中村吉右衛門  大谷友右衛門  市川高麗蔵  澤村宗之助  
松本錦吾  松本金太郎  松本幸四郎 ほか

2014年11月1日(土) 5:40pm 歌舞伎座 1階8列下手


歌舞伎座の初日はいつも華やいだ雰囲気ですが、この日は加えて緊張感も漂っていました。
顔見知りの高麗屋贔屓の方々がほとんど勢ぞろいしているようなロビー。
口々に「楽しみですね」と言いながら、何といっても初めてだし生の舞台だし、ということで一抹の不安も。「大丈夫ですよ。染ちゃんはきっとやってくれますよ」と言いながら、自分にも言い聞かせて座席に着きました。

柝が入り低く響く太鼓が鳴り始めて幕が開くまで、あんなに長く感じたのは初めて。
そして幕が開いてからは、あんなに集中して観て聴いた「勧進帳」は初めてでした。客席中が固唾をのんで待っているような緊張した雰囲気の中、
「旅の衣は、篠懸の・・・」で花道に義経、四天王、そして最後に弁慶が登場すると胸がいっぱいですでに目の前が涙で曇ります。
吉右衛門さんの義経、幸四郎さんの富樫とも体格が立派なので、小顔の染五郎さんが少し小さく感じましたが、それは最初だけ。

まさに全身全霊。
「やあれ しばらく おん待ち候へ」の第一声から最後の飛び六方まで、終始気迫が漲り、心技体すべてが充実した入魂のすばらしい弁慶でした。

低くつくったよく通る声。
口跡よく心情が伝わる台詞。
義経を敬い思う熱い気持ち。
ついに泣かぬ弁慶の、一期の涙。
躍動感あふれる美しい延年の舞。
万感こめた幕外。
そして飛び六方の引っ込み。

一つひとつ、一声ひと声から目が耳が離せず、まるで瞬きを忘れて、息をとめて観ていたような気がします。

たとえば型の完成度とか荒々しさとか豪放磊落な雰囲気とか、もちろん「弁慶」としての課題はまだまだたくさんあるのだとは思いますが、染五郎さんが今持っている最大限の力を出し切った気迫あふれる弁慶に感無量。
所作も台詞も、その一つひとつが染五郎さんが心から願った夢だったんだと思うと胸がいっぱいになりました。


勧進帳読み上げから山伏問答は緊張のせいもあったのか、幸四郎さん富樫ともども些かテンポが速く感じましたが、それがかえってこの場の緊迫感を高め、切迫した心情がとても伝わってきました。お互い少しかぶせ気味の台詞もさすがに息はぴったり。

吉右衛門さんの義経は格の高さが明確で品よく情もあって。
「判官御手」に弱くて、普段でも涙必須のワタシですので、ここはもちろん泣きます。
義経と弁慶の距離がいつもより離れているような気がしましたが、下がってひれ伏す弁慶に、吉右衛門さんへの染五郎さんの敬意が重なって見えたり。
吉右衛門さんの義経と染五郎さんの弁慶が並び立つのは多分これが最初で最後かな。
そういう意味でも目に心に焼きつけたい場面でした。

延年の舞。
真摯さと躍動感のある美しい舞。
ダンッと所作板を踏み鳴らす音の力強さ。
いつもより短く感じたのは、舞が美しくていつまでも観ていたいと思ったからでしょうか。
あんなに美しい舞を見せられたら、富樫も見逃してやりたくなるというものです。


花道で、富樫に心をこめて一礼した後、天を仰ぐ弁慶。
この舞台の間中ずっと「弁慶」で居続けた染五郎さんですが、その一瞬だけ、弁慶と弁慶を演じることのできた染五郎さんが交錯したような気がしました。
万感の思いが表情にあふれていて、目には涙が光っていたようにも見えました。

そしてキッと前を見据える弁慶。
その先には、命をかけて守るべき義経一行がいて、そのために歩んで行かなければならないいばらの道があって。


万感の思いを込めた飛び六方の引っ込み。
「高麗屋っ!」という大向うもかき消されるくらいの万雷の拍手。
染五郎さんの41年間の夢が叶った瞬間。
心が震えるほど感動。
涙ナミダたらーっ(汗)


これから何百回と弁慶を演じることになるであろう染五郎さんの、たった一度きりの特別な1回。

見続けた夢が叶う瞬間を、その夢が叶うことを応援してきた人たちとともに見届けることができて
これ以上ないくらい幸せな時間でした。



この幸せは countlessムード
posted by スキップ at 23:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
スキップさん!
明日、染五郎弁慶、観てきます。
昼は明治座で、二座掛け持ちです。
Posted by ケンボウ at 2014年11月10日 10:51
♪ケンボウさま

いいなぁ。うらやましい。
染五郎さん入魂の弁慶、楽しんでいらしてくださいね。

明治座昼 猿之助さんの女團七もいいですよ~。
豪華二本立てですね!
Posted by スキップ at 2014年11月10日 23:16
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック