2014年08月23日

出るに出られぬ羽無し鳥 「カッコーの巣の上で」

cuckoo.jpg観始めてすぐ、ちょっと後悔しました。
マクマーフィを演じる小栗旬くんが思ってた以上にステキで、
ずい分前にジャック・ニコルソン主演の映画を観ていて、
このマクマーフィに訪れる切ない結末を知っていたから。
マクマーフィーが強くて闊達で自由であればあるほど胸が苦しくなってきたから。


「カッコーの巣の上で」
上演台本・演出: 河原雅彦
出演: 小栗旬  神野三鈴  武田真治  大東駿介  
福田転球  吉田メタル  伊達暁  駒木根隆介  山内圭哉  藤木孝  吉田鋼太郎 ほか

2014年8月14日(木) 6:00pm 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール 1階A列センター


舞台は1960年代のアメリカ。
刑務所の強制労働を逃れるため精神障害を装ってオレゴン州立病院精神病院に入ったマクマーフィ(小栗旬)が患者の人間性まで統制しようとする管理体制に反発を感じ、絶対的権力を持つラチェッド婦長(神野三鈴)と対立しながら他の入院患者たちも巻き込んで反抗する物語。

原作は1962年に発表されたケン・キージーのベストセラー小説。
ミロス・フォアマン監督、ジャック・ニコルソン主演の映画は1975年。
いわゆる「アメリカン・ニューシネマ」の1本で、若かったあの頃は多分それほど深く考えたりしないでこんな映画ばがり観ていたなぁ、と懐かしく思い出しました。

アメリカ映画・河原雅彦さん演出・小栗旬くん主演といえば、2011年の「時計じかけのオレンジ」と同じですが、あれはパンクオペラだったし、河原さんの演出は、「ねずみの三銃士」や「真心一座 身も心も」のシリーズと比べても穏やかでオーソドックスな印象です。
終始深刻で緊迫した場面が続く中、二幕冒頭ではラックリー(吉田メタル)をバスケットをゴールに見立てて遊ぶ、なんていうちょっと笑えるシーンもあってほっとしたりも。生きていく上での人間の尊厳というテーマに、黒人やネイティブアメリカンといった人種差別や民族の問題、精神の正常と異常を決めるのは誰か、さらには権力下での人間の生命操作まで、重いテーマが並んで、観ていて息苦しい。
その中で際立つのが闘う男・マクマーフィ vs 冷酷な管理者・ラチェッド婦長という構図。

小栗旬くんは登場シーンから鮮やか。パワフルでエネルギッシュ。
「ワールドシリーズをテレビで観る」ことで他の患者たちに影響を与え、鼓舞していくシーンは感動的で、マック本人はもちろん、心の底では抑圧からの脱却を求めている患者たちの思いが切ない。
マクマーフィといえば、どうしてもジャック・ニコルソンの野卑な造形が印象強く、小栗マックはちょっとカッコよすぎかな~とも思ったのですが、そもそも持ち味が違いますものね。
小栗旬くんの声、改めて好きだなと思いました。
小栗くんの舞台は「タイタス・アンドロニカス」や「カリギュラ」の頃がピークかなと思ったこともありましたが、また一つ階段を上った感じ。映像での活躍も目立ちますが、舞台にももっともっと出ていただきたいです。

そのマクマーフィをじりじりと追い詰めていくラチェッド婦長(神野三鈴)の何と恐ろしく、おぞましいことか。
「ボーイズ」と薄笑み浮かべたねっとり呼びかけには誰も逆らえないような圧迫感があります。
キャンディという彼女ができて有頂天になって吃音もでなくなったビリー(大東駿介・熱演!)に、「このことをお母さんに言わなくては」と威嚇し、ついには自殺に追い込んでおきながら、それをすべてマクマーフィのせいだと言い放つ婦長。自分に非があるとは1%も思っていなくて。
最終的に自分の身を危険にさらしてまでマクマーフィを挑発し、ロボトミー手術へと追い込むラチェッド婦長は、その自覚がないという意味で、ある意味、この病院にいる人々の中で一番病んでいるのはないかと感じられます。

彼女に勝つ自信があって、実際勝つ(逃げる)チャンスはあったのに怒りのあまりそれができなかったマクマーフィ。
ロボトミー手術をされてベッドに横たわるマクマーフィに、チーフが「マクマーフィは自分の名前をぶら下げられた人形がこの先20年もここにいることを喜ばない」と言って、白い枕を手に持った時、チーフの決断の重さや厳しさ、マクマーフィの無念が心をよぎって思わず落涙。

そして、窓を鍵で開けるのではなく、「この配電盤を持ち上げられたら奇跡が起きる」とマクマーフィに言われたとおり、マックが持ち上げられなかった配電盤を持ち上げ、窓に投げつけてそこから脱出するチーフ。
ベッドで死んでいるマクマーフィ。光あふれる外の世界を走るチーフ。
切なさと希望が交錯するラストでした。


タイトルは劇中でマクマーフィとチーフが歌うアメリカの子どもの歌から

がんじがらめの垣根から 三羽の雁が飛び立った
一羽は東 一羽は西へ 一羽はカッコーの巣の上を
出るに出られぬ羽無し鳥 雁がくわえて引っこ抜く



それにしてもカーテンコールからはける時、下手袖に引っ込む直前の小栗旬くんの胸に手をあてての一礼は見惚れるくらい綺麗でカッコよかったです のごくらく度 わーい(嬉しい顔) (total 1238 わーい(嬉しい顔) vs 1243 ふらふら)
posted by スキップ at 23:46| Comment(2) | TrackBack(1) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
この「カッコーの巣の上で」や「ラストフラワーズ」などなど、自分が見た後かなり時間が経ってから、スキップさまが詳しく載せて下さるので、そうそう、と思い出しながら読んでます。一つのお芝居を二度楽しんでる感じ。ありがとうございます!
昨日、「HISTORY BOYS」を見てきたんですが、始まってわりと早くに、桃李くんがズボンを脱いじゃうシーンがあって、おや?こういうの、どこかで見たぞ、でしたw (でも桃李くんは、かなり客席寄りの位置だったんですよ。前列だったらドギマギしそう)。あと、「ボーイズ」というフレーズも一度(鷲尾真知子さんが)。
あの、神野さんの「ボーイズ!」は怖かったですねー。今でも耳に蘇ってきそうです。
小栗旬くん、確かに何か乗り越えた感がありますね。監督した映画あたりでいろいろあったんでしょうけど。そう、声は私もとても好きです。これからも型にはまらず、いろんな旬くんを見せてほしいです。
Posted by きびだんご at 2014年09月05日 01:29
♪きびだんごさま

こちらこそいつもありがとうございます。
自分で観るまでは劇評や皆さまのご感想は極力読まないようにしていて、
観て、感想もアップして、やっと読ませていただいて、「おっ!」と
思うこともしばしばです。

神野さん、これまでわりと「いい人」役のイメージだったので
とても新鮮でした。やはり女優さんはおそろしいですね(笑)。

小栗旬くんは、先日「ボクらの時代」で、「2~3年前、ぼやけてた
時期が確実にあった」とおっしゃっていて、「自分を知るものは聡し」
という言葉を思い出しました。
あの声、いいですよね~。

「HISTORY BOYS」は私も観る予定です。
桃李くんのズボン脱ぎ楽しみ(笑)。
残念ながらあまり前列ではないのですが。
Posted by スキップ at 2014年09月05日 23:53
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カッコーの巣の上で
Excerpt: カッコーの巣の上で  2014年7月 管理社会における人間性の解放を訴える鮮烈な
Weblog: エンタメ三昧 coco2の喝采ステージ
Tracked: 2014-09-06 13:39