2014年07月04日
命をかけて受け継ぐ覚悟 コクーン歌舞伎「三人吉三」
「大川端で着ていた衣装は福助のおじのもので、福助のおじは衣装に香水をふる人で、その香水の匂いをかぐたびに、命がけでやらなければと思いました。あの三人が命をかけてやってきたものを継承していかなければ・・・」
カーテンコールで語った七之助くん。
勘三郎さん・福助さん・橋之助さんが演じた作品をリスペクトしながら、彼ら独自の闘いっぷり、生き様を見せてくれました。
その中で迸る若さ、若さゆえの危さ。
1994年に始まったコクーン歌舞伎。第二章の幕開けです。
コクーン歌舞伎第十四弾 「三人吉三」
作: 河竹黙阿弥
演出・美術: 串田和美 補綴: 竹柴徳太朗
演出助手: 長塚圭史 音楽監督: 伊藤ヨタロウ
衣装:ひびのこづえ
立師: 中村いてう
出演: 中村勘九郎 尾上松也 中村七之助 坂東新悟 中村鶴松 真那胡敬二 大森博史 笈田ヨシ 笹野高史 ほか
2014年6月28日(土)千穐楽 12:00pm シアター・コクーン 1階平場 E列センター
コクーン歌舞伎の「三人吉三」は今回が三演目で、私は初演は観ていなくて、2007年6月の再演以来7年ぶり。7年。あれから7年も経っただなんて。
主役の三人ばかりでなく、前回勘九郎(当時 勘太郎)くん、七之助くんが演じた十三郎・おとせを坂東新悟くん・中村鶴松くんとひと回りもふた回りも若返った配役。
比較してみると、
2007年 2014年
和尚吉三: 勘三郎 勘九郎
お坊吉三: 橋之助 松也
お嬢吉三: 福助 七之助
手代十三郎: 勘太郎 新悟
伝吉娘おとせ: 七之助 鶴松
土左衛門伝吉: 笹野高史 笹野高史
研師与九兵衛: 亀蔵 亀蔵
海老名軍蔵: 橋之助 真那胡敬二
太郎右衛門: 勘三郎 大森博史
堂守源次坊: 山左衛門 笈田ヨシ
前回から続投の笹野さんに加えて、真那胡さん、大森さんといった自由劇場の面々も参加、というあたりは「天日坊」の流れを汲んでいるのでしょうか。
今回、演出助手に長塚圭史さんが入られるということで、期待と不安が半々といったところだったのですが、基本的には串田さん主導だったと思われ、演出や装置は前作と大きくは変わっていない印象でした。
開幕前から話題になっていた下座音楽をなくしてパーカッションのみにしたこと、長屋のモブの場面が追加されたこと、吉祥院の場の装置・・・くらいかなぁ、私が気づいた変更点は。
それでも全体から受ける印象はずい分違っていて、それが役者さんの個性(演技含めて)だったり若さのなせるワザだったりするのか、とおもしろく興味深く拝見しました。冒頭をはじめ、断片的に挿入される江戸の市井の人々の暮らしぶりは、物語の主筋とは直接関係なくて主役の三人とも絡むことはないのですが、包丁を刻む音などが入った生活感たっぷりの日常を見せることで、普通の生活からはみ出てしまった「アウトサイドの三人」という悲劇性を際立たせていたと思います。
串田さんがこのキャスティングで意図したように、三人の吉三は今で言うなら渋谷の裏通りにでもいそうな不良少年たち。社会からドロップアウトして、周りから疎まれて、自分たちだけがわかり合って。
血杯で兄弟の契りを交わした三人は、誰かのために命を投げ出すことさえ厭わないほどに結ばれた固い絆。
そんな三人にからみつく因果。
いずれロクな死に方はしないという思いを、心の片隅に抱えた闇。
お嬢とお坊が「それじゃあ一緒に死のうじゃないか」と語り合う姿の幸福感。
一面の大雪の中、命の限り刀を振りまわし、破滅へ向かう三人の激しさ、美しさ。
・・・そんな物語でした。
中でも吉祥院の場はとても印象的。
基本、黙阿弥の台詞はそのままなのに、この受ける印象の違い。
ここのお嬢とお坊は何でしょ。
エロス?(笑)。
須弥壇にかけられた朱の布をバァーッと翻して床に広げて、その上に座って命のやりとりを巡る言葉をかわす二人。
「一緒に死ねと言われるほうが、おらぁうれしいよ」とお嬢。
「そんならここで、てめぇもおれと一緒に死ね」と応じる言葉が、お坊からお嬢へのプロポーズに聞こえたな。
自分は武士の出ではないので、みっともない死に方をするかもしれない、「おれを先に殺して死んでくんねえか」とお嬢。
「おれが殺してやろう。なんの造作もねえことだ」とお坊。
お坊の手を握り、ほんの一瞬怖がった表情を見せた後、まっすぐお坊を見据え、
「未練はねえよ」とお嬢。
この作品はどうしてもお嬢吉三が印象に残りやすくて、前作でも福助さんお嬢が強く印象的だったのですが、七之助くんのお嬢は、怜悧なまでの美しさの中に激しさを秘め、男でも女でもない倒錯感が際立っていました。
客席に背を向け、盆で廻りながら「月も朧に白魚の・・・」と語り始めるところからお嬢に目が釘付け。my best お嬢に踊り出ました。
これは、お坊に松也くんという役者を得たことも大きいと思います。
無頼となっても育ちのよさを失わず、男気とお嬢への恋情をはっきりと打ち出すお坊。
覚悟は決めてもなお死への恐怖に怯えるお嬢に気だるそうに「やりそこなわねえよ」と言うとか、何ごと?のカッコよさ。
そして勘九郎くんの和尚。
声やふとした仕草がとても勘三郎さんに似ているので、どうしても比べられることやむなしという感じではあるのですが、二人が兄貴分と慕う佇まいに納得性がある大きな和尚吉三。
決まり決まりの表情や型の美しさはピカ一でした。
捕方に追われながら客席通路を行くとき、「チッ」と小さく発するその舌打ちまでカッコイイとはどういうこと?
大詰。本郷火の見櫓の場。
降り積もる雪の上にさらに降る雪。
舞台の上にも客席にも、かくあるべしとでもいうように。
白一面の雪の世界に自分も入ったような感覚。
お嬢とお坊を隔てていた木戸が取り払われて、「会いたかった」とひしと抱き合う二人が切ないくらいに哀しくて、研ぎ澄まされたように美しかったです。
覚悟を決め、互いに刃を向けあって果てるお嬢とお坊。
最期の力を振り絞って手をのばし、その手を繋ぎ、近づいてくる和尚に一瞬に目をやる二人。
捕方は元より、降り注ぐ雪からさえ守るように、そんな二人に覆いかぶさって果てる和尚。
三人の若者の死を浄化するかのように降り積もる真っ白な雪。
出ハケで客席通路を自在に使ってセットの転換にほとんど時間をかけない演出も変わらず。
通路そばの席でしたので、役者さんたちが真横に立ち止まったり、風を切って駆け抜けて行ったり。新悟くん十三郎がすぐ目の前の客席を横切ったり。
この演目、平場ならではの楽しさもたっぷり。
「吉三郎が今評判の悪い尾上松也に似ている」とか「秋葉では48人も娘たちが襲われて」とか「香取の兄貴が11人の泥棒仲間集めて・・」なんて時事ネタ(笑)も入れつつ。
幕開きの長屋のまだ音もない場面で、勘九郎くんが傘を持って見得を切って走り去って(あれは「乳房榎」の蟒三次の拵えかな?)、今度は団扇片手に長屋の二階に現れたりしたのは千穐楽スペシャルだったのかしら。
千穐楽スペシャルといえば、亀蔵さん与九兵衛はじけてました。
冒頭の客席通路で「庚申丸」の説明する時に加山雄三さんの光進丸が今ので三代目で5億円もしたとか延々と話して大森さん太郎右衛門に「今日は長いね」とか言われていました。
さらに極めつけはお竹蔵。
お坊に脅されるといきなりふんどし一丁の裸になって、ナマお尻をお坊に向けたのでさすがにクールな松也お坊もこらえきれず笑っちゃって。
はける前にさらに客席とお坊にお尻向けて、何かおかしいことでも?」とシレっと言ってました。
カーテンコールでは異口同音に「プレッシャーだった」と口にした三人。
そんなプレッシャーも壁も、必死にもがきながらもひょいと飛び越える若さが眩しい。
前作の印象が鮮烈で、この若い三人でだいじょうぶかな?と観る前に思ったことは杞憂。この三人の展開をこれからも見守りたいと思いました。
コクーン歌舞伎第二章。次作は2年後とか。楽しみです。
砕けて土となるまでは、変はらぬ誓ひの兄弟三人 のごくらく度 (total 1209 vs 1213 )
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あれ?そう言えば、もしかしてスキップさんは、今頃ニューヨークかな?
それではまた。
「三人吉三」ご覧になったのですね!
ほんとにすばらしい舞台でしたね。
あの降り積もる雪の中のラストはね~。
ニューヨークね(^^ゞ
行きたいところではあるのですが。
NYどころか、松本にも行けません(涙)。
大川端のスピード感、インパクト大でしたね。あの3人でコクーンだから、ほんとにリアルで。
笹野さんは長年やってこられた、さすがの存在感。初日は大森さんたちにかなり物足りなさを感じましたが、徐々になじんでいらしたことでしょう。
あ、スキップさまは今頃NY?というコメントに、むふふ、でしたわ。むふふふふ。
初日から日を追うごとに人気が高まったみたいですね。
千穐楽のこの日は当日券も並んだけど入れなかったという方も
いらしたみたいでした。
そうそう、「あの3人でコクーン」というのが大きかったですね。
勘九郎くん、七之助くんはやがて彼らだけでコクーンをやるのだろう
と思っていましたが、そこに加わる一人に「松也くんがいたか」という感じです。
見得を決めると拍手が起こる笹野さんは別格として、大森さんや
真那胡さんも違和感なかったです。なじんだのかな(笑)。
ねー、NY。
行きたかったですワ。