2014年06月24日

ドミノハダレダ? 「関数ドミノ」

domino14.jpg2003年に旗揚げ公演を行った劇団イキウメ。
「関数ドミノ」は2005年初演、2009年の再編を経て3回めの上演。
劇団にとって、前川知大さんにとって、エポックメイキングな作品なのかな。
私は前2回とも拝見していなくて、今回初見でした。

イキウメ 「関数ドミノ」
作・演出: 前川知大
出演 浜田信也  安井順平  伊勢佳世  盛隆二  岩本幸子  森下創  大窪人衛  新倉ケンタ  吉田蒼

2014年6月21日(土) 6:00pm ABCホール B列下手


いつものように幕のないステージ。
一旦漆黒の闇となり雷鳴のような音とともにライトがつくと、出演者一同が手に2つ折にしたフリップのようなものを持って立っています。
向かって一番右手の男性が自分のフリップを開くと「自己紹介」とマジックで書かれていて、「大野司、医師です。あの日は医局の窓からちょうど外を眺めていました・・」といったことを言います。
次の予備校講師は「一番人気」・・・と、それぞれを端的に表現する言葉が書かれたフリップで順に自己紹介していき、最後の女性だけがフリップを持っていません。彼女は保険会社の調査員で、「理屈では説明できない不可思議な」交通事故について当事者と目撃者を集めた場であることを告げて物語が始まります。

ある地方都市で起こった奇妙な交通事故。
見渡しの悪い交差点で車の運転手・新田直樹(新倉ケンタ)は道路の真ん中に立ち止まった左門陽一(大窪人衛)に突っ込んだにもかかわらず、まるで透明な壁が彼の前にあったように陽一は無傷、一方、車は大破して助手席に乗っていた彼の妻は意識不明の重症を負います。
目撃者は6人。聞き取り調査を始めた保険調査員の横道(岩本幸子)に、目撃者の一人・真壁(安井順平)が、これはある特別な人間「ドミノ」が起こした奇跡なのだ、そして車に轢かれそうになった陽一の兄・左門森魚(浜田信也)こそがそのドミノなのだと主張します。
「ドミノ」が心から願えば必ず叶えられる・・ただし、恣意的にではなく、無意識の本心からの願いのみ・・荒唐無稽な話を最初は信じなかった人々ですが、やがて・・・。


いや~、実におもしろかったです。
客席中が息を殺してコトの成り行きをじっと見守っていた感じ。「ドミノ」という超常現象はリアルには受け容れ難いもので、登場人物たちと同じように客席の私たちも最初は「何言ってんだか」と思いつつ、 「ドミノなんて真壁の妄想」 or 「もしかしてドミノはほんとに存在するかも」 という2つの考えを行き来するようにもなります。
だけど、HIVキャリアである土呂(森下創)、重体の妻の回復を願う新田や看護師・澤村(伊勢佳世)たちが、ドミノの存在を信じる(もしくは信じたいと思う)ようになるプロセスは、願望を叶えたいという本能には、人はつけ込まれやすいという脆さを見せられているよう。

何より、真壁を見ていると、自分に起こった(マイナスの)結果を、「こいつさえいなければ」「あのことさえなければ」と、誰かのせい、何かのせいに転嫁せずにはいられない心の弱さ、ネガティブさ、そして上手くいっている人を妬む卑しさは、人間なら誰しも持っている負の感情だと思わずにはいられません。
かくいう私だって思い当たるフシ、多々ありますもの(笑)。

一見、超常現象という人外なものを扱って、実は人間の本質とか普遍的なものを炙り出すという前川さんの術中にまんまと嵌ってしまう訳ですが、上手いな、と思うのは、「ドミノ」の存在について、登場人物も客席の私たちも「アリ」に傾きかける一方で、「単なる被害妄想」と冷静にロジックで攻める存在(医師であり真壁の同級生でもある大野)を常に置いておくところ。
そして、土呂のHIVが消滅したことで「信じられない」と大野自身がその理論武装を揺らがせ始め、形勢が一気に「ドミノあり」に傾くと、今度は、「ドミノ」と目された森魚自身に、「土呂さんのHIVが消えたのは僕の力ではなく、土呂さんが治ると信じたからだ」「僕だって色々努力はしているけど、何もかもが上手く行っている訳じゃない」と言わせるところ。

これで何となくほっとしたような、やっぱりね、という気分にもなったところで、あのラスト。

ドミノは森魚ではなく自分だったと知った真壁の混乱と狼狽。
自分が「ドミノ」という幸運を手に入れていたのに、いつも「どうせうまくいかない」というネガティブな考えに捉われ、「心から願いを叶えたい」と思って来なかったためについてない人生を過ごしてきたという皮肉。
自己嫌悪と絶望。
「消えろ俺」「俺を見るな」という真壁の叫び。
暗転。
劇場が震えるほどの大音響のノイズ音。
そして、再び明るくなった場所から、真壁の姿だけが消えた。
真壁の、最初で最後の、心からのあの叫びによってもたらされた「ドミノ1個」。

コワイ・・という言葉だけでは説明のつかない、息も止まらんばかりの衝撃でした。


歪んだ人物像を精緻に描き出す安井順平さん真壁の「陰」と、不思議な全能感を醸し出す浜田信也さん森魚の「陽」の対照が際立つキャスティング。
いかにも生真面目な森下創さん土呂、善意のぶれない伊勢佳世さん澤村はじめ、イキウメの役者さんは本当に役になり切るというか、自分を役の中に埋めるのが上手いなぁといつもながら感心します。

舞台中央に大きな囲炉裏を切ったように四角いフローリングの枠で囲まれたスペースがあり、その周りにデスクや椅子やテーブル、ソファなどが置かれ(美術:土岐研一) 、それを道路だったり廊下だったり、左門兄弟の部屋だったり病院だったりと、あまり固定せずに柔軟に使って、暗転なしで場面を次々と切り替える演出も相変わらず鮮やか。


真壁が最後に迎えた結末は、人間は誰でも、その人自身が「ドミノ」なのだということを示唆しているのでしょうか。
だとしたら、看護師の澤村さんが言っていたように、いつ自分がドミノになってもいいように、いつもポジティブな願いごと、考え方を心に持っていたい、と思うけれど、それって多分、とてもむずかしいことなんだよね。


メジャーな役者さん出ていなくても派手な舞台装置なくてもいつもハイクオリティ のごくらく度 わーい(嬉しい顔) (total 1204 わーい(嬉しい顔) vs 1206 ふらふら)
posted by スキップ at 23:49| Comment(2) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは!!さっすがスキップさんっ!!
読み応えのあるレポ&感想ありがとうございます!!
なあるほどねえ・・・って感心しきりです・・。
目がテン!!・・・だった私は・・・やっぱり
ちゃんと見れてなかったかしら!(笑)
・・・という訳で、今日思い切って『イキウメ』DVDを
自宅保存用に購入してみました!
前川さんって・・本当着眼点が凄いし、伏線が凄いんだけど
伏線に付箋を貼らなきゃ・・読みの浅い私にはついて行けず
もう一度お勉強して仕切りなおして出直したいと思いましてね~!(笑)
次回の公演も是非是非行ってみたいと思います!!
Posted by かずりん at 2014年06月26日 11:11
♪かずりんさま

ダラ長なレポを読んでいただいてありがとうございます。

>目がテン!!・・・だった私は・・・
え?この感想の内容が?
おかしいな、一緒に観たはずなのにな(笑)。

「イキウメ」DVDってセットで?
すごいなぁ、その一度ハマったら集中するチカラ。
尊敬しちゃいます。
そうそう、前川さんの作品で思い出しましたが、
以前兵芸でご一緒した「奇ッ怪 其ノ弐」もダメだったの
でしたよね、確か。
「あれも前川さんだからね」という声が名古屋あたりから
聞こえてきそうです(笑)。

ともあれ、HEPホールで出会ったイキウメドミノおじさんに
感謝しつつ、12月の公演もご一緒できることを願っています。
その折にはかもめバーヘ(・・しつこい!)
Posted by スキップ at 2014年06月26日 23:24
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