2014年06月16日
もう一人のカフカ 「海辺のカフカ」
2012年6月 原作も読まず、登場人物についても知らずほぼ白紙の状態で観た初演。
2013年5月 原作について村上春樹さんの口から直接言及されたのを興味深く聞いた公開インタビュー。
2014年5月 重い腰を上げてやっと読了した原作。
そして2014年6月。
「海辺のカフカ」
作: 村上春樹
脚本: フランク・ギャラティ
演出: 蜷川幸雄
出演: 宮沢りえ 藤木直人 古畑新之 鈴木杏
柿澤勇人 高橋努 鳥山昌克 木場勝己 ほか
2014年6月14日(土) 12:30pm シアターBRAVA! 1階C列上手
再演の情報を知った時、「え!もう?」と驚きました。
初演がとてもよかったので、観るのを迷ったのですが、宮沢りえさんの佐伯さんを観てみたくて。
今回は、埼玉→大阪→東京→北九州と公演して、2015年にはロンドン、ニューヨークとワールドツアーも控えているのだとか。
森や図書館、そこに在る人々もまるで標本のようにアクリルケースの中。
それが舞台上をゆったりと前後左右に動いて転換される舞台装置。
透明感があって静謐で、それでいて幻想的な雰囲気。
・・・演出は基本的には初演と同じで、いくつか台詞や場面がカットされていたり加えられたりしているようでしたが、印象は大きくは変わりません。
私が思う大きな違いは、プロローグでアクリルケースに入ったいろいろな場面が舞台上を動く時、鮮やかなブルーのドレスを纏った宮沢りえさん(多分 少女時代の佐伯さん)がアクリルケースに入ったまま舞台上をゆったり横切っていったこと。
それも何かを探すような視線を客席に送りながら。怜悧なまでの美しさで。
これ、初演の時あったかなぁ。
田中裕子さんがそういうふうに登場された記憶が全くないのですが。
それから、ナカタさんの予言通り「魚が空から降る」シーンがありましたが、これも初演にはなかったのでは?
原作を読んでから観ると、やはり舞台ではいろいろ描かれていない部分もあり、特にカフカ少年が佐伯さん(と少女時代の佐伯さん)に心惹かれていく過程はかなり省略されている印象。
初演を観た時本当にちゃんと理解していたのかどうか自分としても怪しいものですが、それでもストーリーや演出の感想は初演と重なるので省略(笑)。
初演がすばらしかったこと、原作を読む前で私の「海辺のカフカ」のイメージが初演で刷り込まれたこと、その初演からあまり時を経ていないこと・・・などから、どうしても比べることになってしまうのですが、主なキャストはこんなふう。
2012年 2014年
佐伯さん: 田中裕子 宮沢りえ
大島さん: 長谷川博己 藤木直人
田村カフカ: 柳楽優弥 古畑新之
さくら: 佐藤江梨子 鈴木杏
カラスと呼ばれる少年: 柿澤勇人 柿澤勇人
ホシノちゃん: 高橋努 高橋努
ナカタさん: 木場勝己 木場勝己
正直なところ、キャストを全体について言えば、私は2012年版が好きです。
その代表が大島さん。
予備知識なしに観た初演は、大島さんがトランスジェンダーだということをもちろん劇中で知った訳で、それを聞いた時のカフカ少年や調査員の人たちと同じように私も客席で驚いたのですが、それが自然に納得できてしまう身に纏った雰囲気とか透明感が長谷川博己さんにはあったと思います。
だから、大島さん=長谷川さんのイメージも私の中で強く植え付けられてしまったのです。
(あれから2年経って、よりビッグネームにもなった長谷川さんが仮に今、大島さんを演ったとしてもあの透明感が出せるのかどうかはわかりませんが。)
藤木直人さんは綺麗で物静かで思慮深くてやさしくて丁寧な「男の人」としてはとてもステキでしたが、「大島さん」ではなかったと思います。
宮沢りえさんの佐伯さんはちょっと意外なくらいリアル感がありました。
もっと「人外のもの」といった雰囲気になると想像していたのですが、かなり人間っぽく、生身の女の人っかった。
だから、カフカ少年と交わる場面はちょっと艶かしく感じたくらいです。
少女時代の透明感があって怜悧なまでの美しさも、40代の佐伯さんの凛と背筋をのばした佇まいもステキでしたが、その2つの時代の佐伯さんの差が少し感じにくかったかなぁ。
カフカ少年の古畑新之くんは今回オーディションで選ばれた新人。
初演の、いかにも「世界で最もタフな15歳」といった趣きの柳楽優弥くんとは違ったタイプで、小柄でもあり、リアル15歳?と思える雰囲気。
台詞もお芝居もそれほど上手いという訳ではないのですが、そのぎこちなさが大人の中で一人で生きていこうとする15歳のカフカ少年と重なってよかったです。もう一人のカフカ誕生だな。
でも、カフカ少年が最後に見せる初めての笑顔は、柳楽くんの勝ち。
鈴木杏ちゃんのさくらを観ていると「あの杏ちゃんがこんな役もできるようになったのか」と感慨深かかったです(笑)。
私が苦手な、目一杯目を見開くような力の入った感じではなく、自然な演技が好感。
ただ、女優さんとしては断然杏ちゃんの方が好みなのに、この役に限っていえば佐藤江梨子さんの軽いハスっぱな雰囲気が合っていたと思えたのは、私がまだ杏ちゃんに少女のイメージを捨てきれないからでしょうか。
初演と同じ、カラスと呼ばれる少年・柿澤勇人さん、ホシノちゃん・高橋努 さん、そしてナカタさん・木場勝己さんは盤石。
特にナカタさんは木場勝己さん以外に考えられません。
今後、何度再演することがあっても、ナカタさんは木場さんでお願いしたいと思います。
前回展開を知らなくて見逃していた(と思われる)ナカタさんが息を引き取る場面。
ホシノちゃんが「何が不思議かってナカタさんだよ。ナカタさんはたった10日の間に俺という人間を変えちまったんだ」と話しているのを、何だか遠くを見るような、穏やかな笑顔を浮かべて聞いていたナカタさん。
そのままふわりと倒れて、眠るように死んでしまいました。
「悪い死に方じゃねぇよな」と泣くホシノちゃんが切なく、温かい。
前回と同じキャストといえば、ジョニー・ウォーカーの新川將人さん。
熱演なのは承知していますが、申し訳ないけれど今回はあの場面には目を向けずにずっとナカタさんの表情だけを観ていました。
全くもって新川さんに罪はないのだけれど(それどころか熱演賞賛されるべきだけど)、「ヴェニスの商人」に新川さんが出ていらした時、そんなに目立つ役ではなかったのにあの唇見ただけでジョニー・ウォーカーの血まみれの口を思い出して気分悪くなったくらいトラウマなんですもの。
と、キャストの好みはいろいろありますが、作品としてやはりとても好きな舞台。
もしまた再演されたら、観に行っちゃうかも。
それにしてもチケット代 さい芸¥9,800 赤坂ACT¥11,000 北九州¥9,720 ・・・ BRAVA¥12,000 ってどゆこと? の地獄度 (total 1200 vs 1203 )坛
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カフカの再演、ご覧になったのですね。
私は、前回観たときに例のシーンが目の前だったのがきつすぎたのと、
大島さんの配役がどうにも受け入れがたかったので、
(というか、長谷川さんの大島さんが素敵すぎたのでv/笑)
今回は見送ってしまいました…
りえちゃんの佐伯さん、ぜひ見て見たかったのですが。
スキップさんのレポを読ませていただいて、
やっぱり印象的な佐伯さんだったのだなあ、
とちょっと後悔してみたり。
再々演があるようなら、観に行ってみようかな、と思いました。
少し迷ったのですが、やはり宮沢りえさんの佐伯さんを
観てみたかったので。
田中裕子さんの佐伯さんは、少女時代の時、ちょっと驚くくらい
“少女”(というか、年齢がない感じ)だった印象があるのですが
りえちゃんは、何て言うのかしら、もっと生きてる感の強い佐伯さんでした。
それと、初演は原作を読まずに観て、今回わりと近い時間に
原作を読んでから臨みましたので、補完される部分もかなり
あって、個人的には理解は深まったように思います。
大島さんはね~(笑)。
そしてジョニー・ウォーカーのあのシーンはね~(汗)。
カフカ君は設楽さんがよかったと思いますが、彼も中学3年生の15歳を演じるのは無理なのかと・・・。
宮沢りえさんと藤木直人さんはよかったと思いました。特に大島さんは原作通り小柄ではないですが、そのほか原作にある大島さんに似ていました。美しく、綺麗な顔立ちで、唇を曲げてしゃべるなど、、、。
蜷川さんも「あー!大島がいた」と思ったらしいですよ。宮沢りえさんのドラマを見ていた時に藤木さんがでてらして、。
はじめまして。
コメントありがとうございます。
7回もご覧になったのですか。
柳楽くんのカフカ、よかったですよね。
カフカ少年は「15歳」という括りがあるので、ずっと演じ続けるのは
やはり難しいですね。
前作を観た時はまた原作を読んでいなくて、そのためにこの作品や
登場人物のイメージは前作が強く焼き付いてしまって・・。
特にナカタさんと大島さんは木場さん、長谷川さん以上にハマる
役者さんはいないのではないかと思ったくらいです。
多分最初に藤木さんを観たらまた別の印象だったと思います。
蜷川さんのその発言は私もどこかで読みました。
先日藤木さん司会の番組に宮沢りえさんが出演されていた時も
「藤木さんは(蜷川さんに)怒られなかった」とおっしゃって
いました。
きっと蜷川さんのイメージ通りの大島さんだったのでしょうね。
あのシーンが、なんともどぎつくて、あんな過剰な演出はいらないと思いました。
とはいえ、挫折していた原作を読みなおし、理解が深まり、赤坂に行こうと もう一度美しい理恵さんを観たいと願っていましたが、 あのシーンは避けて通れない、二度目はあきらめました。
本を読んでいる間、大島さんは長谷川さんをイメージしてしまっていました。カフカ君中田さんは、とってもよかった。舞台が生き生きと まさに村上ワールドでしたよね。少しの出番でしたが、カラス君もよかったですね。
もし再演があったら、蜷川さんに村上ワールドを壊さず ソフトに作っていただけたら、ぜひ行きたいと思います。
あのシーンは本当に・・・。
私も前回初めて観た時は原作も読んでいませんでしたので、
あんな場面があるなんて知らなくて、一番前の席だったので
本当に気分悪くなってしまって。
でも、原作通りといえばそうなんですよね。
あそこまで忠実にビジュアルで再現しなくても、とは思いますが。
ナカタさんの木場さんはじめ役者さんは本当にすばらしいですね。
カラスの柿澤くんもよかったです。
アクリルケースとか図書館とか森とか、演出も装置も好きで
もし再演あったらまた観に行っちゃいそうです。