昨年、白井晃さん演出の「オセロ」でイアーゴを演じていた赤堀雅秋さん。
あの作品でイアーゴは”演出家”を兼ねていたこともあって、そういえばまだ観たことがない赤堀さんの演出作品、機会があれば一度観てみたいな、と思ったのがこの舞台を観るきっかけでした。
大倉くんに緑子さんに荻野目さん・・というワタシ的豪華キャストにも惹かれて。
シアターコクーン Bunkamura25周年記念 「殺風景」
作・演出: 赤堀雅秋
出演: 八乙女光 大倉孝二 荻野目慶子 西岡徳馬 キムラ緑子 尾上寛之
太賀 江口のりこ 福田転球 安藤聖 近藤公園 駒木根隆介 ほか
2014年5月30日(金) 7:00pm シアターBRAVA! 1階U列上手
後で知ったのですが、この物語の題材は平成16年に福岡県大牟田市で実際に起こった殺人事件なのだとか。
物語は、現在=平成16(2004)年と若き国男がマリと出会い結婚に至る過去=昭和38(1963)年~43(1968)年が交錯して進みます。
三池炭鉱の元炭鉱夫でその後やくざとして生きてきた菊池国男(西岡徳馬)は妻のマリ(荻野目慶子)、長男・直也(大倉孝二)、次男・稔(八乙女光)の4人家族。長女・道子(江口のりこ)は家を出てスナックを経営しています。
菊池家は、電話代にも困る暮らし。隣家で闇金業を営む羽振りのよい節子(キムラ緑子)が息子の自転車を巡るトラブルから菊池家に乗り込み、やがてそれはこの節子一家4人(息子2人とその友人)惨殺事件へと発展します・・・。
フライヤーのキャッチコピーに「場当り的で不毛な家族の共同作業、その先に-」とありますが、凄惨な殺人事件を題材にしていますが、「場当たり的」とされる無計画な連続殺人が、この家族の日常と地続きにあることへの何とも言えない空恐ろしさが一番の印象。物語の冒頭とラストの2回、マリが「黒の舟唄」を口ずさむように歌うのですが、その歌詞 「男と女の間には 深くて暗い河がある」・・・これ、そのまま家族の「日常」と「殺人」の間に置き換えられることに最後になって気づきます。
取調室で刑事(近藤公園)が、「俺だって腹が立ってぶっ殺してやりてえなと思うことはある。そんなことは誰にだってあるけど、実際にはそんなことはしない」というシーンがありましたが、「殺人」という行為の前にあるはずの「深くて暗い河」をやすやすと飛び越えてしまった家族の物語。
家族の食卓のシーン。
コンビニに夕食を買いに行った二人の息子たちを待つ間、「蕎麦屋が愛想悪い」といった他愛ない話をして待つ国男とマリ。
息子たちが買ってきたパスタ「ぺペロンチーノ」を国男が知らなかったことでひと悶着ありながら笑いで納まる家族。
「またみんなで海に行きたか」「ハワイがよかと」「ハワイは遠かとよ」と笑い合う家族。
絵に描いたような家族団らん。
そして、まるでその海の話の延長のように、ワゴンの中に監禁している女、その女を殺す方法について相談する家族。
この家族はまた、この食卓を囲む前にも殺人を終えていて、普通なら日常と非日常と思われる「家族のだんらん」と「殺人」が、この家族にあってはどちらもボーダーのない日常で、聞いていて背筋が寒くなる思いでした。
もぐらと呼ばれ、毎日命がけで炭鉱で働きながらそこから抜け出せずこの有り様という国男のどこにもぶつけることのできない怒り。
(・・・個人的に幼少期の何年かを福岡の片田舎で過ごしたことがあり、「炭鉱」も身近な存在でしたので、何もわからない子どもだったとはいえ、あの切なさはリアルに感じるところありました。)
この若き日の国男と次男の稔を八乙女光くんが二役で演じることで、「お前は俺たい」の言葉通り、国男の血を継ぐ者が長男の直也ではなく稔だと実感させる構成。
その稔は、自分こそがこの家族のために動くべきだと率先して殺人の実行犯となっていきます。
事件の前、稔が最後に離れて住む姉にかけた電話。「なんちゅうことのない話たい」と姉が証言した他愛ない電話で、稔は何を伝えたかったのだろうと思います。
もしかしたら、稔は「そこではないところ」に行きたがっていて、深くて暗い河を渡るまいとするSOSだったとしたら、胸が締めつけられるような思いです。
二役ともに「凄み」という言葉がぴったりのキムラ緑子さん、狂気すれすれの荻野目慶子さんの情念系(?)女優を筆頭に役者さんはさすがに「集めた」という感じ。
その濃いメンバーの中にあって、きっちり芯の役目を果たしたこれが初舞台の八乙女くんも大健闘でした。
全体的に暗いトーンなのですが、時々照明がハッとするほど綺麗で、後で原田保さんと知り、なるほどな~となった次第。
Jファンの思しき若いお嬢さん方が客席にあふれていましたが、私の周りは異常に年齢層が高く、かつおじさま率高し。
「ごちそうさん」で名を上げたドリさん目当てか、はたまた元祖魔性の女・荻野目さんか(笑)。
今回かなり後方席で私の耳のせいか音響が悪かったのか、時々台詞が聴き取りにくかったのがザンネン の地獄度 (total 1195 vs 1198 )
2014年06月07日
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